自殺者の70%は男性 統計データから見る男性の自殺リスク【メンヘラ.men's】
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「男性は女性の2倍以上自殺しやすい」

こんな統計データがあるのをご存知でしょうか。

厚生労働省の発表する「自殺対策白書」によれば、2015年の自殺者は合計24,025人。
そのうちの16,681人が男性で、7,344人が女性です。これをパーセンテージで表せば、2015年の自殺者の70%ほどが男性ということになります。

男性は、自殺しやすい。

これは上にあげた2015年だけの現象ではありません。以下の図をごらんください。自殺対策白書によれば、1978年以降、男女の自殺率において、男性の自殺率が女性を下回った年は1年たりともありません。
日本において、男性は女性の2.5倍ほど自殺しやすい――。これは死亡統計上の、ひとつの事実なのです。
自殺者の70%は男性 統計データから見る男性の自殺リスク【メンヘラ.men's】

いきなりハードな導入から失礼しました。メンタルヘルス当事者のためのコミュニティメディア「メンヘラ.jp」編集長の小山晃弘です。本連載「メンヘラ.men's」は、「男性のためのメンタルヘルス・ケア」をテーマに、男性の心の健康について読者のみなさんと一緒に考えていこう──という趣旨でやらせて頂いております。

でも「男性のメンタルヘルス!」とか言われても、「メンヘラと男に関係なんかあるの?」と普通は思いがちですよね。
というわけで、「男だって(いや男だからこそ)メンタルヘルスについて知っとかなきゃいけないんやで」ということをお伝えするために、まず1球飛び切り重い球を放らせて頂きました。お誕生日パーティなど、おめでたい席の真っ最中だった皆さんに関しては大変申し訳ありません。


諸外国でも男性の自殺率は高い


「日本の男性自殺率は女性の2.5倍」

というデータを見ると、「じゃあほかの国はどうなんだ?」という疑問も出てくるかと思います。というわけで、他の国についてのデータも見ていきましょう。日経サイエンス2003年5月号の「特集:自殺は防げる」によれば、アメリカの男性自殺率は女性の4.2倍、イギリスは3.6倍とのこと。自殺率の男女格差が日本と同程度かそれ以上に激しい国も、世界には少なくないようです。

WHOの報告によると、英米と同じく旧ソ連・旧共産諸国も自殺率の男女格差が大きく、ロシア、ベラルーシ、ウクライナ、エストニアなどは日本とほぼ同じの約2~3倍程度、リトアニアについては男性自殺率は女性の6倍という驚きの数字です。


興味深いのがイスラム圏と中国で、これらの地域においては女性自殺率が男性自殺率を僅かに上回ります。アフガニスタン、イラク、インドネシア、パキスタン、中国……など。

それぞれ文化的にも医療レベルにおいても日本とは全く異なる地域で、単純な比較は難しいですが、それでも自殺という現象は文化的な要素によって大きく左右されるのがという考えの、これは証左と言えるかもしれません。自殺は文化、なのです。


男性ならではの自殺理由


なぜ男性の自殺率は高いのでしょうか。一説によれば「働き手」、つまり経済的主体としての男性の負担が、女性のそれよりも重い点などが原因として挙げられています。

内閣府自殺対策推進室と警察庁生活安全局生活安全企画課が合同で発表する「平成27年中における自殺の状況」では、遺書などから自殺者の自殺理由を調査し、統計としてとりまとめています。
それによれば「経済・生活問題」を理由として自殺した男性は女性424人に対して3,658人、「勤務問題」を理由として自殺した男性は女性253人に対して1,906人。なんと、それぞれ8倍近い開きがあります。

「健康問題」「家庭問題」などの項目では、男女にそれほど大きな差がないことから考えても、経済的負担が男性を苦しめる大きな要因になっているのは疑いないと言えるでしょう。「稼ぐのは男の仕事」という考えは、まだまだ社会から抜けきっていないわけです。


男たちが生きていくために


男性の自殺リスクは女性より遥かに高い――。

この悲しい統計的事実と、その背景の一部について、以上では軽く触れさせて頂きました。
これらを踏まえた上で、我々男性は今後どのように生きていけばよいのでしょうか。
どうやって「自殺」というリスクと、その要因たるメンタルヘルスの諸問題について臨んでいくべきなのでしょうか。

まず第一に「男性のメンタルヘルス」という分野について、より理解を深めていくべきです。

メンタルヘルスのリスクは女性だけのものではありません。「メンヘラと言えば女性」みたいな誤ったイメージがありますが、これは統計的事実と完全に反しています。確かにSNSなどで、派手にメンタルを爆発される芸風の女性がたびたび観測されますが、ああいった事例はむしろ例外中の例外で、多くのメンヘラ(メンタルヘルスの当事者)たちはひっそりと、静かに苦しんでいるのです。

精神疾患の治療は、多くの場合まず本人の「病識」とともにスタートします。
症状が目に見ええない精神疾患においては「自分は病気だ」という認識がなければ、治療をはじめることすらできません。そして日本の男性自殺者の多くは、恐らくこの「病識」を持てなかったからこそ、医療や福祉の手が届かぬままに死んでいってしまったのではないでしょうか……。

本連載「メンヘラ.men's」では、引き続き「男性のメンタルヘルス・ケア」についてあらゆる角度からの調査と考察を行っていきます。男性メンヘラのみなさん、苦しんでいるのはあなただけではありません。忘れられがちだった「男性のメンタルヘルス」について、共に光を当てていきましょう。今後とも、よろしくお願いいたします。
(小山晃弘)

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