「誰より上とか誰より下とかじゃない。
「ライバルやと思わないですね。もう別です」(宮川大輔)
「奴らがいなくてもお笑い界は面白いでしょうけど、奴らがいた方がお笑い界は面白いと思いますね」(ケンドーコバヤシ)
7月7日から配信がスタートした『野性爆弾のザ・ワールド チャネリング』(Amazonプライムビデオ)のオープニング。電気グルーヴ「少年ヤング」をBGMに、先輩たちが自分の言葉で野性爆弾を激賞する。
『ザ・ワールド〜』は野性爆弾初の冠番組だ。なぜ地上波ではなくAmazonで始まったのか。とりあえず、公式に記されている第1回の企画内容を読んでもらいたい。
1.邪人先生のアイドル開運ツアー(前編)
「ベンベンベン 我っ我っ! 我に宿るは平家の怨念っ 謎の開運アドバイザー 邪人先生と行きやんせ アイドル連れて開運ツアーに 行きやんせ 行き行き行き行き 行きやんせ ベンベンベン あんたの奥さん、公園でパンティ売ってまっせ」
なんとなく、なんとなく理由がわかるだろう。「バランスの悪い芸人さん。Amazonプライムビデオが一番良いと思うんです。地上波より」(東野幸治)と先輩たちも活躍の場ができたことを喜ぶ。ちなみに「邪人」は「ジャビット」と読む。

無茶苦茶と見せかけて誰よりも基礎通り
「邪人先生のアイドル開運ツアー」は雨のロケから始まった。ゲストは矢口真里とアップアップガールズ(仮)の3人(仙石みなみ、古川小夏、新井愛瞳)。
代々木公園のケヤキ並木(NHKの真ん前!)からスタートし、明治神宮を目指すのだが、延々と悪ふざけが続いて一向に目的地にたどり着かない。除霊すると言ってゲストの体にレモンを搾り、駐車場の「P」がパワースポットのPだとありがたがり、突然『めちゃイケ』の「数取団」を遊び出す。
最後は、明治神宮のパワーにやられた邪人先生が耳と口から血を流してロケは終了。30分も尺があったのに、ケヤキ並木を200mほどしか進んでいない。
一見、やりたい放題に見えるくっきーのボケについて、小藪一豊はオープニングでこうコメントしている。
「型にハマってない無茶苦茶なボケしとる見せかけて……あの、昔サミー・ソーサがホームランいっぱい打ったときにテレビで解説者が言うてたんですけど、構えこんなん(※バットを振り回す)やけど、インパクトの瞬間は誰よりも基礎通りやと」
くっきーのボケを改めて振り返ってみると、「基礎」を外していないことがわかる。アプガの3人をフリ・オチ・スルーと使い分け、かぶせは2回程度でやめ、手練れの矢口真里に無茶振りして手本を引き出してからアプガに同じものを仕掛ける。基礎は外さぬまま、上に乗せる言動が「ダイオウグソクムシ」「口の中に指を突っ込む」「川魚の匂い」「突然血を流す」と奇怪なものになっている。
どんなフリでも必ず一回は受ける矢口真里の存在も大きい。邪人先生が口から出した入れ歯を「持っといて」と頼まれれば「ベタベタしてる」と言いつつ受け取り、レモン汁を股間にかけてきてと命令されれば背後の植え込みの陰まで行って帰ってくる。くっきーの言動を拒否しないので、どんなやりとりも必ず成立させてしまう。
「ジャッカル先生言うてたやん」
くっきーがボケの「基礎」を外してないとなれば、相方のロッシーはツッコミの「基礎」を外していないのか……といえばそうでもない。ロケではロッシーが進行役なのだが、声を張ってツッコむ場面はほとんど無い。なんなら進行も矢口真里がリードしてしまう。ロッシーのたたずまいは超天然なのだ。
「ブレーンはくっきーですからね。スベることが怖くない。だからウケる。ロッシーはスベっていることに気づかない。だからウケる。爆弾はくぅですけど野性はロッシーですから」(千原ジュニア)
天然エピソードには事欠かないロッシー。草野球で骨折したNON STYLE石田を車で病院に運ぼうとして、運転席に石田を乗せて自分は助手席に座ったこともある。今回のロケも邪人(ジャビット)先生のことを途中から「ジャッカル先生」と呼び始めていた。
ツッコミの役割を担っているのは、ワイプの中にいるブラックマヨネーズ小杉だ。実はこの番組は「野性爆弾のロケVTRをゲストと一緒に観る」という構成になっている。小杉は野性爆弾と同期(大阪NSC13期生)で付き合いも長く、彼らが次になにをしでかすか予測できるせいか、ツッコミの反応がとにかく強くて早い。
VTR中に誰も拾わなかったボケも小杉は鋭く反応する。ロッシーの「ジャッカル先生」も、ロケ中は誰もツッコまず字幕も出してないのに「途中からジャッカル先生言うてたやん」とズバリ指摘。「風景が全然変わらん!」「この下り長いねん!」とロケVTRそのものを壮大なボケとして扱う。
野性爆弾という癖のある素材を、矢口真里が受け、ブラマヨ小杉が拾う。自由奔放に遊んでいるように見えて、プレゼンテーションを成功させる抜かりない構成にうなる。
後半10分はくっきーの独壇場
……と、この番組をわかったような口をきけるのもここまで。
VTRとトークが終わり、エンドクレジットが出てまた次回……と見せかけて、番組はまだ約10分続く。不気味な笑い声と共に始まったのは、「ソドム団長とゴモラ人間」というドラマパート。監督・脚本・音楽・主演をくっきーが務めている。
田園風景。サーカス団。ダッチワイフ。ゾンビ。ウジ虫。不協和音と共に挿入される、くっきーのアップ。気持ち悪さとナンセンスと、おかしさと悲しみが入り交じる映像。かつて『爆笑キャラパレード』(フジ)の「邦彦おじさん」で見せた独特の世界観を、より予算と手間をかけて作り込んでいる。
ロケVTRが規定演技なら、後半10分はフリープログラムだ。野性爆弾をそのどちらかだけで評価するのも違うし、かといってどちらも表現できる場は限られている。冠番組という自由を手に入れた野性爆弾が次に何を見せるのか、全く予想がつかない。予想がつかないものほど、面白いものはない。
『野性爆弾のザ・ワールド チャネリング』(Amazonプライムビデオ)
(井上マサキ)