週によって硬軟入り乱れたネタが次々と展開して、視聴者がまったくやすらげないまま、ドラマにのめり込まされてしまうことでお馴染みの『やすらぎの郷』だが、第19週はさらにドトウの展開だった。

「トーニョーだよおっかさん、いずれイ〜ンシュリ〜ン!」
小熊のコロちゃん騒動からはじまり、
トランペッターの白鳥との再会、安西直美の思い出、「トーニョーだよおっかさん」、麻雀バトル。
……第19週の出来事をざっくり書き出してみても、このカオスさ。
一個一個つっこんでいったらキリがないが、それにしても「トーニョーだよおっかさん」て!
館内放送のDJ・中井竜介(中村龍史)のプロフィール紹介の中で、こういう歌をかつてヒットさせたとチョロッと触れられていたものの、明らかに島倉千代子の「東京だョおっ母さん」からの、東京→糖尿という一点突破のギャグ。
ちょっとした小ネタにすぎないと思っていたのに、まさか実際にメロディーをつけて披露される日が来るとは。しかも2日間にわたって、しつこく「ジジイバンド」のライブが続いていた。
おかげで「トーニョーだよおっかさん、いずれイ〜ンシュリ〜ン!」のメロディーが頭にこびりついてしまい、ふとしたタイミングで鼻歌が出ちゃって困る!
これは想像でしかないが、当初は脚本の中でチョロッと触れられていた「トーニョーだよおっかさん」だが、現場がノリノリになってメロディーまで作ってしまい、ジジイバンドの演奏シーンまで追加された……なんてパターンなのではないだろうか? 好評なドラマ現場ならではのノリノリっぷりが感じられるというものだ。
ちなみにグレート義太夫は、自身の糖尿病生活をつづった『糖尿だよ、おっ母さん』というエッセイを出版しているので、この役はグレート義太夫にやらせてあげたかった気もするけど、まあ58歳だと「やすらぎの郷」では若すぎるか。
46歳差の上、逮捕歴4回のジジイと結婚(重婚)を許す親はいない!
第19週のハイライトはやはり、マロ(ミッキー・カーチス)と松岡伸子(常盤貴子)という、年の差46歳カップルの結婚騒動だ。
46歳年上のジジイ、財産が約20万円しかない……と、コレだけでも結婚反対するには十分な理由となるが、伸子の父・信三(柴俊夫)が身元調査した結果、マロに関する衝撃的な事実が次々と発覚した。
父親は暴力団の幹部、マロ自身も麻薬使用などで4回の逮捕歴アリ、そして手続き上のミスなのか前の妻との間で離婚も成立していない……。
娘がこんなメチャクチャなジジイと結婚したいなんて言い出したら、父親の立場ならずとも反対する以外の選択肢は皆無だろう。ましてや、父親が元・財務省の事務次官というメチャクチャおかたい人なんだもん。そういうおかたい家で育ったお嬢さんが、悪いジジイにコロッと騙されちゃうというのは、リアルといえばリアルだが。
ちなみにマロを演じるミッキー・カーチスには二度の離婚経験があるが、2人目の妻と離婚するまでには長〜い離婚訴訟を繰り広げていた。
自分と似た立場にあるキャラクターが若い娘と結婚するにあたって「あの人のなにがいいの?」だの、将来は介護しなきゃならないだの、性生活がもうムリだのと言われているのは複雑な気持ちだろう。
昼ドラマにしては本気すぎる麻雀対決
視聴者の目から見ても、明らかに結婚しない方がいいように見えてしまうこの年の差カップル。どうやって父親を説得するのかと思っていたら、色仕掛け&麻雀対決というトリッキー過ぎる方法だった。
信三はお嬢こと白川冴子(浅丘ルリ子)の昔からの大ファンだということで、お嬢を利用して麻雀に誘い、元・プロ雀士だったマロが叩きのめす。……コレが結婚を許してもらうにあたってプラスになるのかどうかはまったく分からないが。
ここからは、倉本聰という大御所パワーなくしては実現できなかったであろう展開。お昼の民放ドラマで、ここまで堂々と賭け麻雀を描くとは。
しかも麻雀対決の結末は、マロがいかさまをして、役満である九連宝燈を信三に引かせて勝ちを譲るというもの。
麻雀の知識は漫画『哭きの竜』と『アカギ』を読んだことがあるレベルでしかないボクでも、お昼のドラマ……いや、夜のドラマでもなかなかあり得ない展開だということは分かる!
『やすらぎの郷』は、最近のテレビではめっきりお目にかからなくなった喫煙シーンがバンバン出てくるということでも話題となったが、この賭け麻雀も「現実ではみんなやっているんだから、フィクションであるドラマの中で賭け麻雀やらせたっていいだろう!」という倉本聰の主張なのだろうか。
それにしても、麻雀対決前にチョロッとつぶやいた「今時、手積みですか」というセリフが、最終的に、積み込みによるいかさまにつながってくるとは……さすがとしか言いようのないストーリー展開だった。
おそらく伸子との結婚を諦めるという意味で、わざと麻雀に負けたマロに対し、勝ちを譲られた信三は、プライドを傷付けられつつ「私はあいつを諦めました」と、結婚を黙認する展開は「いいのかよ、それで!?」とは思ったけど。
出版されている『やすらぎの郷』シナリオ集では、この第19週で上中下の下巻に突入。
もったいないので、放送済みの部分までしか読み進めていないけど、いよいよ終盤に入った『やすらぎの郷』はどこに向かって突き進んでいくのか!?
次週予告を見るに、またも予想外のすさまじい展開が起こるみたいだし……。
ホント、倉本聰は、映画やドラマで考えられる展開を全部このドラマにぶっ込んじゃって、後にはペンペン草も生えないようにしてやろうと思っているんじゃないだろうか!?
(イラストと文/北村ヂン)