連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第22週「ツイッギーを探せ!」第132回 9月2日(土)放送より。 
脚本:岡田惠和 演出:渡辺哲也
「ひよっこ」132話。白石加代子の聞かせる力、大ロマンスを語る
イラスト/小西りえこ

連続朝ドラレビュー 「ひよっこ」132話はこんな話


富(白石加代子)の愛した人が亡くなり、彼女の過去の思い出が切々と語られた。

富が名産品に目がないことには理由があった


やや唐突な、富のコーナーではあったが、白石加代子の“聞かせる力”によって、すっかり世界観に引き込まれてしまった。

若い頃の富(藤間爽子)は芸妓をやっていた流れで、大企業の御曹司・松永悠馬(大山真志)の愛人だった。

赤坂で有名なふたりだったというのは、愛人とはいえ、赤坂は富のホームグラウンドだから、そこでは自由に振る舞えるということだろうか。
でも、正式な妻にはなれず(ならず?)、松永から最後の贈り物(手切れ金代わり?)として、あかね荘をもらい、富は、過去の美しい思い出を抱きながら余生を送っているらしい。

そんな日影の女という生き方を、今の若い人は好まないであろうという富に、鈴子(宮本信子)は、いやむしろ聞かせたほうがいいと提案。
「わかってたまるかって話だよ」とまで。
懐広いように見えて、意外と世代差にこだわるし、何かと思い込みが激しい鈴子さんも、面倒くさい女のひとりに思える。

こうして、月時計の女子会から帰ってきた、みね子(有村架純)、時子(佐久間由衣)、早苗(シシド・カフカ)をつかまえて、中庭で、富の日影の恋のお話が語られる。

富が、全国の名産品に目がない理由が明かされる。愛人と日本全国を旅してまわって、食べた名産を思い出すからだった。
余談だが、「長崎のカステラ 阿蘇山のカルデラ」って韻を踏んだのだろうか。

記憶にまつわる、いろいろ


「戦争とか辛いことはなんにも覚えちゃいないわ」
「だからわたしの人生楽しいことでいっぱい」
富は愛人との楽しい思い出だけで生きている。
脚本家・岡田惠和は、“記憶”というキーワードを、みね子の父・実だけでなく、富にもさりげなく背負わせる。
実は、記憶喪失になって、過去がわからないながら、もう一度、故郷で家族と暮らそうと努力をしているところだ。
みね子はみね子で、127回で「むかしのままじゃいられない」と言って、昔の記憶(彼女は、奥茨城村でいつまでも暮らしたいと思っていた)、あくまでも思い出にして、東京での人生を大切にしようとしている。


新しい風が吹いて徐々に変わっていく時代と、昔の記憶に縛られることとのせめぎあいが、ドラマの通奏低音になっている。

愛人のけじめ


愛人のお葬式に向かう富。でも、「お焼香するつもりはないのよね、それがけじめなんだよね」と鈴子。
日影の女は、正式な家族が仕切るお葬式には出られないという、哀しいお話。
個人的な思い出になるが、子供の頃、ある人のお葬式に出て、火葬場に向かう車の中から、葬儀場の入り口で女性がひとり立っていて、ずっと頭を下げている姿が見えた。それを観た大人の女性たちは、あの人、訳ありじゃないか的な話をしていた。子供の時には、その話の意味がよくわからなかったけれど、たぶん、富さんは、そんなふうに、お寺の入り口に立つのだろうなと想像する。

それにしても、富の出来事が、由香(島崎遥香)がすずふり亭に戻るきっかけになるとは。想像できない展開だった。個々の登場人物の見せ場を作りつつ、そのひとつひとつを分断しないで、つないでいくテクニックに脱帽だ。

いろいろつながっているとなると、富が御曹司の愛人だったことは、まさか、みね子が御曹司(島谷)の愛人になる可能性を示唆している・・・わけではないよね? いまの若い人は、そういう道を選ばないという、時代の違いを語っている・・・のだと思うが。さて・・・。

(木俣冬)
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