連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第24週「大好き」第144回 9月16日(土)放送より。 
脚本:岡田惠和 演出: 田中正 板垣麻衣子
「ひよっこ」144話 偽善を許さない早苗
イラスト/小西りえこ

「ひよっこ」143話はこんな話


早苗(シシド・カフカ)が、みね子(有村架純)と世津子(菅野美穂)との関係に物申す。

なつかしの松下


すずふり亭にやって来たのは、向島電機の工場主任・松下(奥田洋平)だった。
松下が、愛子(和久井映見)に声をかけられて振り向く時、右からでなく左から振り向くことで、若干、顔が見えるまでのストロークがあるところがニクイ。

彼は今、電機修理の会社(個人経営)をやっていた。
松下はひとりでやっていると言ってるにもかかわらず、愛子(和久井映見)が「社長? 松下電器?」と天然っぷりを発揮する。
これはきっと、あの松下幸之助の松下電器(現パナソニック)ネタをやりたかったのだろう。
なにはともあれ、離れ離れになった人の消息がわかるっていいなあ。料理人の森(陰山泰)も出てきてほしい。

世津子のお約束


“お約束”が、いくつも登場した144話。
こういう時のお約束のごとく、松下が作業中に脚立から転げ落ちて、あの名セリフ「ご安全に」が飛び出した。

また、世津子(菅野美穂)が、外出するために、大げさな変装するところや、出くわした客に「川本世津子?」と気づかれそうになり「川本世津子はもっと美人」と言われてむくれるターンも、お約束感満載。
そんなふうにほのぼのさせた後で、ドラマは本題に・・・。

早苗が仕切りまくる


早苗(シシド・カフカ)の提案で、女性陣がバー月時計に集まった。
「(早苗が)いつもと様子が違いませんか?」と思わせぶりなナレーション(増田明美)に、いや、いつもと同じ、仏頂面だと思ってしまったが、早苗には「怒ってはいないが溜まってる」ことがあった。
最近、ドラマがあまりに叙事的なので、レビューも、事のあれこれを記すばかりになりがち。でも、できたら、未見の人には再放送やオンデマンドなどで見てほしいので、ここにはあまり詳細を書きたくないが、書かないと説明できないので、申し訳ないがネタバレする。

早苗は世津子の“ファン”だった。


溜まっていたのは、ファンであることを隠しきれない点もあっただろうが、それよりもまず、世津子とみね子
の関係を曖昧にしておきたくない気持ちのほうが大きかったと想像する。

「悲しいことは起こる。いやなことも起こる。そこからは逃げられない。だとしたら人が変えられるのはそのあとだ。悲しいできごとの いわば続きをつくればいい」
そう言って、早苗は拍手しながら「すばらしい」と自画自賛し「日記にも書いた」と言わなくても良さげなプライベート情報を明かす。


ちなみに、70年代になると、「〜〜と日記には書いておこう」と少年が妄想を語る龍角散のCMが人気になる。143回の「2001年宇宙の旅」といい、時代を先取りしているのは意識的なのだろうか。


愛子批判まで


一見、あかね荘で楽しくやっているようで、みね子と世津子の間にどこか壁があるのは、劇中で、ちょいちょいみね子によって語られていた。早苗は、それに気づいていて、「向き合って話しにくいことを話す」ことで、本質的なことを解決すべしと提案する。
さらに、ふたりがなあなあになってしまっているのは「すぐに誰とでも仲良くなってしまう愛子さんが、ふたりを楽にさせてしまってる」と、愛子の最大の良さが、時には欠点になることを鋭く指摘。

よくできた人間関係評論家・早苗は、みね子が望む「悲しいことをなしにする」ことを本当の意味で実践するために「部屋割りの変更」を提案する。
確かに、心にもやもやを抱えながら、表面的にニコニコしているのは、偽善と言えないこともない。

ドラマは、登場人物たちがやっていることが、決して偽善ではないと、渾身の反論を行っているかのようだ。

前から早苗は、物事を曖昧にしておけない性分のようで、あらゆることを俎上に乗せて、公平に判断したがっていた。だが、この人もさおり(伊藤沙莉)のように早急過ぎ。
こんなにさっぱりできれば、苦労はない。でも、これはドラマなので、こんなふうに誰もが論理的に考えて行動できたら、どんなにいいだろうという願望を描いているのだから、そこに角は立てられない。

ドライ&ウェット


岡田惠和がどこまでも気遣いの人だなと思うのは、早苗の発言によって、愛子が、すべてのものごとを事なかれ主義にしてしまう便利屋キャラに陥ることを回避していることだ。

あまりにも全方向に気を使っているため、ドライに物事を処理し過ぎている感じも否めないが(シシド・カフカの喋り方見た目もちょっと機械的なので)、そこに、世津子がおしりを掻いているところを見て、早苗の心が動くところや、人のことばかり言っているうちに、ついに自分の恋バナ(多分恋バナだよね?)も語ろうと思いはじめる流れを描くことで、乾いた空気に霧吹きする。

そして、次週25週は、恋、恋、恋・・・で潤い過ぎの展開になりそう。今度は除湿したい気分になったりして。
(木俣冬)