井浦秀夫先生による同名漫画が原作のドラマ、フジテレビ系「刑事ゆがみ」第2話。水野美紀、斎藤工、中川大志、ゲストの名前を聞くだけでワクワクする。

「刑事ゆがみ」2話。ニュースサイトが煽りまくった壮大なミスリード、斎藤工は本当にチョイ役だったのか
イラスト/Morimori no moRi

第二話の事件


弓神(浅野忠信)と羽生(神木隆之介)は、中学校の国語教師・早杉千里(水野美紀)が自宅で襲われた強姦未遂事件を捜査。部屋で千里が勤務する中学校で教育実習をしていた大学生・打越将也(中川大志)が犯人との争いの末ベッドの角で頭を強打し、意識不明の重体で病院に搬送されていた。

現場に残されていた足跡から、羽生は前科3犯の下着泥棒・郷亀(斎藤工)を犯人と確信するが、郷亀はこれを否定。捜査は振り出しに戻ってしまう。

一方の弓神は現場の状況、千里が通っていた結婚相談所、打越の部屋から事件を追っていく。意外な人物の元にたどり着く。

壮大なミスリード


第二話放送前から、様々な媒体で「ゲストは、水野美紀!斎藤工!中川大志だ!」と大きく報じられていた。一話ゲストの杉咲花の存在感を見て、第二話は「浅野忠信、神木隆之介、水野美紀、斎藤工、中川大志の男女新旧織り交ぜた五つ巴の演技対決か?」と期待したが、それは完全に裏切られた。

なんと、あの斎藤工をチョイ役で使ってのけたのだ。これはニュースサイトやテレビCMを利用した壮大なミスリードとも言える。斉藤工がこれだけで終わるわけないって思わせて、関係ないっていうミスリードだ。ちなみに、中川大志も回想シーンで純朴さとセクシーさの両極端の魅力を見せつけたものの、終始意識を失っていた。

今回、スポットライトを浴びたのは千里役の水野美紀だ。前回のゲスト杉咲花同様、浅野忠信と神木隆之介と思いっきりぶち当たった。


つい最近、テレビ朝日系「奪い愛、冬」で嫉妬深いほぼヤバイ女を演じていた水野美紀が、40代男性経験無しのちょっと間の抜けた女教師がドハマりするのだから面白い。幸薄げで年上だが健気な様子が、モテモテ大学生の打越に本気で惚れられるというのも、すごくリアリティがある。どれだけモテていても、いや、モテているからこそ、打越が若い女の子には無い魅力を見出したのだと、説明無しでも伝わってくる。

チョイ役、郷亀のセリフを考える


それに対してもう一人のメインゲスト斎藤工演じるヒッピー風の男・郷亀は、下着泥棒だ。しかも、事件にはなんの関係もない、疑われるだけ、取り調べで羽生を苛つかせるためだけのキャラクターだ。

しかし斎藤工は、出番が短いながらも下着泥棒の役にしっかりと入り込む。郷亀の背景はこと細かに設定されていたように見える。悪口一つとっても、ちょっと聞いたことがない。

「下着泥棒と、強姦魔を一緒にすんなよバーカ。お前ほんとうにバカだなバーカ」

この「バカ」というあまりにも短絡的な悪口を、前後の単語と隙間なく繋げ、さらにハッキリと破裂させるように発音する。そうすことで、全くベタと思わせない悪口に変貌させた。今まで何万回と聞いてきたはずの「バカ」が、なぜか新鮮だ。
「刑事ゆがみ」2話。ニュースサイトが煽りまくった壮大なミスリード、斎藤工は本当にチョイ役だったのか
イラスト/Morimori no moRi

郷亀は大胆な態度を取りながらも、コンテナに番号をつけて下着をコレクションする几帳面さも合わせ持つ。
千里から盗んだ下着につけていた番号を、羽生が“強姦の証拠”とばかりに突きつける。その返しでも郷亀の背景が見えてくる。

「289…あぁ、あの辛気クセー中年オンナか」

このセリフで、三桁を越える数字と下着の組み合わせをしっかりと記憶していること、もう一つ“好みの女性”と“下着を盗む”という行為が、全くの別次元に捉えていることがわかる。

「バーカこっちは下調べしてんだよ。何時に帰宅して、何時に寝入るか。で、寝息聞きながら、気づかれないようにそっと盗むんだよ。そっと」

この犯行方法の説明セリフからは、犯罪自慢の承認欲求、そしてコレクターとしての共感欲までハミ出ている。「あ、秘密なんだけど誰かに言いたかったんだな」っていう。

しかし、その心理が全く理解出来ない羽生は、それでも郷亀を強姦の犯人だと決めつける。ここで郷亀の自尊心の強さがわかるセリフ。

「真実だよ。それを受け入れる頭がお前に無いだけだよバーカ」

これでずっと耐えていた羽生と、「バーカ!バーカ」と醜い罵り合いが始まる。
たったの1、2分ほどのやりとりで郷亀のキャラクターが深く掘り下げられたシーンとなった。

何かのインタビューで斎藤工がこの役について答えていた「『昼顔』よりこっちの役の方が自分に近いと思います」が、今になって面白い。
(沢野奈津夫 イラスト/Morimori no moRi

『刑事ゆがみ』キャスト、スタッフ、主題歌


【キャスト】
浅野忠信 神木隆之介 山本美月
仁科貴 橋本淳 稲森いずみ
【スタッフ】
原作:井浦 秀夫『刑事ゆがみ』(小学館『ビッグコミックオリジナル』)
脚本:倉光泰子 大北はるか 藤井清美 池上純哉 徳永友一
音楽:菅野祐悟
主題歌:WANIMA『ヒューマン』(unBORDE/Warner Music Japan)
プロデュース:藤野良太 高田雄貴
演出:西谷弘 加藤裕将 宮木正悟
制作:フジテレビ

『刑事ゆがみ』動画は下記サイトで配信中


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