帯ドラマ劇場『トットちゃん!』(テレビ朝日・月〜金曜12:30〜)第5週。

とにかく展開が早いことでお馴染みになってきているこのドラマ。


今週も、疎開先に行ったかと思ったら、アッという間に終戦から3年経ち、東京に帰ることに……。

ダイジェスト版でも、もうちょっとゆっくりと見せてくれるんじゃないかという超スピードな展開っぷりだった。

トットちゃん、空気読めないにもほどがあるぞ


そんな急展開の「疎開編」において、トットちゃん(豊嶋花)のヤバさがいかんなく発揮されていたのが牛逃がし事件。

東京で飼っていた犬・ロッキーにもしょっちゅう話しかけていたが、それと同じ調子で疎開先の佐々木家で飼っている牛にもしゃべりかけていたトットちゃん。おかげで、空襲のせいで頭がおかしくなった子扱いされてしまう。

「東京は焼け野原だっていうはんで、よっぽど恐ろしい目さあったんだべ。おかしくなっても不思議はねえな」

彼らは知らないだろうが、これがトットちゃんの平常運転なのだ。


とはいえ、飼犬にしゃべりかけている分には「愛情をそそいでいる」で済む話だが、食べられる前提の飼牛に感情移入するとなると話は別。佐々木家のおばあちゃん・トメ(中村メイコ)から、「名前などつければ情がうつるだろう。情がうつれば別れがつらくなる」としかられてしまう。

家業として牛を育てている家としては超・正論なのだが、トットちゃんは理解できなかったようで、相変わらず牛にしゃべりかけ続け、「牛さんが助けてっていっていったの。牛さんの声が聞こえたの」ということで牛を逃がしてしまうのだ。クレイジー!
「トットちゃん!」第5週。疎開先の飼牛を逃がしちゃうトットちゃんの空気読めなさに震えた
イラスト/北村ヂン

かつてはかなりサイコな行動を取っていた父・守綱(山本耕史)も、子どもが生まれてからはだいぶ普通な感じになっていたが、サイコの血は、ちゃんと受け継がれていた!

結局、牛が見つかって事なきを得るのだが、血縁もない黒柳家の疎開を受け入れた挙げ句、飼牛を逃がされるとはかわいそうにもほどがある。


母・朝さん(松下奈緒)の立場で考えると、自分の娘が疎開先でそんなとんでもないことしでかしたとしたら……震えるわ。

「百姓は毎日やらねばなんねえ大事なことがいっぺえあるんだ。つまんねえことでバタバタしている暇はねえ」と再びトメに怒られるが、これまた超・正論だ。

さらに、佐々木家の息子からも「べこは兵隊さんの食料になるために生まれてきたべこだ」と批判される。

「おらだってもうすぐ兵隊さとられんだ。お国のために死ぬんだ。
おまえのとっちゃもだべ。この時代に生まれたもんは、べこも人間も同じなんだ!」

牛を逃がしたことに対する批判から、流れるように「自分も徴兵されるんじゃ……」という不安を吐露するという、ズッシリとくるセリフだ。

彼の言うように、トットちゃんはよくも悪くも戦争というものを理解していないフシがある。……父が徴兵されたり、空襲受けたりしているのに!

戦争中だろうが、平時だろうがフラット。健常者も、戦争で片手を失った人も、動物も、みーんな一緒。差別せずに接するという考え方なのだろう。


疎開先の学校の友達からじんじょっこ(人形)の絵を描くようたのまれた時も、敵国である海外の人形の絵を描き、

「じんじょっこはじんじょっこだ。めんこいじんじょっこに国境はねえ」

と言っていた。空気が読めないし、行動もヤバイ子なんだけど、ヤバイ子なりに物事の本質はつかんでいるのだ。

消化不良だった戦争エピソード


サクッと終戦を迎えて、いよいよ大人のトットちゃん、清野菜名ちゃんの登場!

……もう終戦!?

戦時中を描いたドラマのお約束である、疎開先での肩身の狭い思いも、戦争の悲惨さも、一応、描こうとした形跡はあったものの、あまりに展開が早いため、どれも消化不良な印象だ。

特に、「乃木坂上倶楽部」で一緒だったダンサーのエミーさん(凰稀かなめ)から、広島に疎開したという手紙が届き、かなりザワついたのだが、特に原爆に関する描写などはないまま終戦してしまった(まあ、エミーさんは呉市にいたようだが)。

これだけ駆け足ですっ飛ばさなきゃならないなら、もっと省けるエピソードがいっぱいあったような気もするが……。

清野菜名ちゃんの演技には期待大!


とにかく、『やすらぎの郷』からこの枠を見ていた人にとっては待望だった清野菜名ちゃんの登場。

豊嶋花ちゃんがたった3年で清野菜名ちゃんになるという違和感はまあいいとして、3年経って高校生になっているということは、牛を逃がした時には小学6年生くらいだったということ。
豊嶋花ちゃんの見た目が幼いので、小学2〜3年くらいだと思ってたけど、小6で牛逃がしてたと考えると……うん、バカな子だ。

清野菜名ちゃん演じる大人・徹子も、そんなバカっぷりをそのままに、定期入れを振り回しながら陽気に歌って踊って登場。その挙げ句、定期入れを放り投げてなくしてしまうというアホさ加減! か……かわいい。

透明感全開のピュアネスな雰囲気が清野菜名ちゃんにピッタリという感じなのだが、映画『パーフェクト・レボリューション』での風俗嬢役などを踏まえて見ると、ただ単にピュアな女優がピュアに演じているわけではなく、すんごい演技力でちゃんと役柄ごとに演じ分けているというのが分かる。

演技力に定評がある満島ひかりが、昨年のドラマ『トットてれび』で同じ黒柳徹子役を演じたばかりなだけに、アレと比較されるのはキツイだろう……と思っていたが、この演技を見る分にはいい勝負ができそうだ。

変なCGでもいいじゃない


そんな清野菜名ちゃんの今週のハイライトは、やはり鉄橋の上で蒸気機関車にひかれて死にそうになるシーン。


定期入れをなくしてしまったため、線路の上を歩いて学校まで行こうと考えた徹子。しかし、逃げ場のない鉄橋の上で蒸気機関車が来てしまい、線路のスキマからピョーンと飛び降りて、枕木にぶら下がってギリギリ助かるのだが……その時の顔がメチャクチャ楽しそうなのだ(「死にそうになったけど、列車のお腹が見れて楽しかった」とのこと)。

あのアクション&表情でガッチリ心をつかまれてしまった人も多いんじゃないだろうか。

それにしても、鉄橋の上で蒸気機関車が迫ってくる……というシーン。ドラマで再現しようと思ったら、大規模なロケかCGが必要になりそうなところを、まさかのミニチュアとの雑な合成で済ませていたのは、さすがに笑ってしまった。最近のテレビではなかなかお目にかかれない低レベルな合成!

昭和初期などを舞台にしたドラマを作る上でネックとなってくるのは、やはり当時の風景を再現するところ。

このドラマでは、これまでもミニチュアで表現したり、切り絵風のアニメーションで表現したり、微妙なCGで乗り切ったりと、予算をかけずに「こういう風景ですよ〜」という情報を伝えてきた。

潤沢な予算があって、リアルに当時の様子が再現できるならばそれに越したことはないけど、予算がないならないなりに、割り切ってこういう表現手法をとるのもアリなんじゃないかなと。その分、他の部分に予算を使ってドラマ表現を深めてもらった方がいい。

それもこれも、あの変な合成を心の目で実際の風景に置き換えて見てくれるような「大人な」視聴者をターゲットにしている枠だからできることかも知れないが。

若者向けゴールデンタイムのドラマでアレやったらSNSでツッコミの嵐だろうからなぁ……。

とにかく、徹子&朝さんも東京に戻るようだし、いよいよ来週はボクらのよく知る黒柳徹子の話が本格的にスタートするのだろう(やっとか)。あと2ヵ月で、濃い〜徹子さんの芸能人生をどこまで描けるのだろうか!?
(イラストと文/北村ヂン)