帯ドラマ劇場『トットちゃん!』(テレビ朝日・月〜金曜12:30〜)第3週。

黒柳徹子の母・朝(松下奈緒)と父・守綱(山本耕史)の出会いからスタートしたこのドラマも、結婚、妊娠、出産とハイスピードでポンポン展開し、いよいよトットちゃん(豊嶋花)の「トモエ学園」での生活がスタート。

「トットちゃん!」第3週。差別用語を自主規制せずにぶっ込んでくるテレビ朝日の本気度
イラスト/北村ヂン

徹子も納得のキャスティング


言わずと知れた黒柳徹子の自伝小説『窓ぎわのトットちゃん』の舞台でもあり、福山雅治が歌う主題歌のタイトルともなっている「トモエ学園」。

黒柳自身がしばしば、「トモエ学園の小林先生との出会いがなければ今の私はなかった」と語っているように、このドラマにおいても超重要な人物となると思われる小林宗作先生。そんな小林先生を演じるのは竹中直人だ。

大ベストセラーであるにもかかわらず、『窓ぎわのトットちゃん』が長らく映像化されてこなかった理由のひとつには、黒柳の「小林先生を演じることの出来る役者がいない」という思いがあったという。

ドラマの放送に先駆けて、竹中直人がゲスト出演した『徹子の部屋』によると、今回『トットちゃん!』が制作されるにあたって、小林先生役を竹中が演じると知り、ようやく「この人がいた!」と納得したようだ。

実際の小林先生がどんな方だったのかは分からないが、確かに竹中演じる小林先生は、ドラマの雰囲気にピッタリとハマッていた。

自由すぎる子どもたちを見つめる優しい目と、その「自由」を守るためには厳しい態度も取る。いい先生感全開だ。

小林先生の教え子には美輪様も


トットちゃんがトモエ学園に入ったのは
真珠湾攻撃の2年前(1939年)とのことだが、日中戦争は既に開戦しており、学校の現場も軍国教育色が強くなりつつある時代だったはずだ。

現に、トットちゃんを退学させた前の学校では、生徒みんなで軍歌を歌い、軍隊へ体験入隊しに行っている。

一方、自由教育を標榜する小林先生は、「ウチでは戦争の練習はしないよ。軍歌も歌わない」と反発。

『はだしのゲン』あたりで強く印象に残っている戦時中の学校といえば、戦争に反対したら「非国民!」とか言われてボッコボコにぶん殴られる……というのが当たり前。

当時としては理想的すぎるトモエ学園の教育方針は、非現実的な存在に思えてしまうが、『窓ぎわのトットちゃん』でも描かれているように、トモエ学園は実際に、当時としてはかなり画期的な教育をしていた学校だったようだ。


そもそもトモエ学園は、現在も残り、地名の由来ともなっている「自由ヶ丘学園」の流れをくむ学校で、自由ヶ丘学園が経営難に陥った際、幼稚園と小学校を小林先生が引き継いで名称を変えたもの。

その名の通り、もともと「自由教育」を唱えていた学校だったのだ。

小林先生はそこに加え、身体全体を使って音楽を楽しむ、リトミック教育という教育法を日本ではじめて取り入れていたという。おそらくその点でも、音楽一家であるトットちゃんの気質とマッチしたのだろう。

ちなみに小林先生の教え子には、黒柳徹子の他に、池内淳子や美輪明宏もいる。

黒柳徹子と美輪明宏という、芸能界においてもかなりコクの強いふたりを生み出している小林先生……うん、個性を伸ばす教育の成果なんだろうなぁ。

徹子の空気読めない力がすごい!


ドラマの中でも、それぞれの生徒が自由に、興味を持った勉強をしているトモエ学園。

個性的な生徒が沢山いるのだが、その中でもトットちゃんのフリーダムっぷりは頭ひとつぬけていた。

自由……というよりは、「空気読めない」力がすさまじいのだ。

好きになった男の子には迷惑を顧みずにつきまとい、「なめると健康になる」という木片(インチキ商品)を無理矢理みんなになめさせたり……。

中でも、小児麻痺のせいで手と足に障害を持っている福元郁夫くん(横山歩)への対応は、見ているこっちがヒヤヒヤさせられてしまう。

郁夫くんが足をひきずりながら歩いている姿を見て、

「どうしてそんな歩き方なの?」
「郁夫くん、歩くのが遅いの」

なんて身も蓋もないことを言う。

麻痺した手を使って必死に折った折り鶴が破れてしまった時も、

「かわいそうな鶴になっちゃった」
「瀕死の白鳥だ」

と空気読めない発言を連発。


見ようによっては障害者をバカにしているとも取られかねないギリギリの発言だが、当然、トットちゃんには差別の気持ちなんてない。率直に自分とは違う「個性」を持つ郁夫くんに興味を持ち、「なぜ」という思いをぶつけているだけなのだ。

空気を読まないし、差別もしないトットちゃんだからこそ、郁夫くんに対して普通に「(木の上に)登っておいでよ」「私が登らせてあげる」なんてことが言えるし、空気読めない力で「どうせ無理」を押し切ったからこそ、郁夫くんを木に登らせることに成功。最後にいい思い出を残してあげることができたのだ。

「空気が読めない」といえば、現在の黒柳徹子の空気読めない力も相当なものだが。『徹子の部屋』で唐突すぎる質問をゲストにぶつけて、意外な発言を引き出す。

今も昔も、徹子の空気読めない力は武器となっているのだろうか。

差別用語を隠せば差別がなくなるってもんじゃないぞ


思えば『トットちゃん!』では、これまでも「乞食」「くろんぼ」「支那」といった、最近のテレビではまず耳にすることのない、差別用語とされるワードがバンバン飛び交ってきた。

当時の日本では普通に使われていた言葉だから、という理由もあるのだろうが、わざわざこういったワードを選んで使っているのには、「差別用語を隠せば差別がなくなるってもんじゃないだろ!」という強い主張を感じる。

「差」があることは認識しつつも、それを「個性」としてお互いに認め合っていく。そんなトモエ学園の教育を、ドラマ自体が実践しているということだろうか。

一歩間違えれば炎上しかねない案件だけに、テレビ朝日の本気っぷりが分かるというものだ。

相変わらず、展開が早すぎるよ!


今週は、この他にも初恋でちょっとおかしくなるトットちゃん。
子持ちになったらちょっと普通になっちゃった守綱さん。結婚以来はじめて実家に戻った朝さん。「乃木坂上倶楽部」にも戦争の影響が……と、相変わらず展開が早く、盛りだくさんな内容。それぞれがいいエピソードだったので、もっとじっくり見たかったという気も。

いやむしろ、『窓ぎわのトットちゃん』時代の話だけで、1本ドラマにして欲しいくらいだ。

でも、清野菜名ちゃんが演じる徹子役も早く見たいし……。

どんどん面白いドラマになってきているだけに、放送期間の短さ(1クールで終了予定)だけが、返す返すも残念なのだ。
(イラストと文/北村ヂン)
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