連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第6週「ふたりの夢の寄席」第32回 11月7日(火)放送より。 
現在、オンデマンドで、1〜6話、無料配信中。

脚本:吉田智子 演出: 東山充裕
「わろてんか」32話。伝説のあほぼん・吉本新喜劇・内場勝則と「わろてんか」のあほぼん・松坂桃李の共演
イラスト/まつもとりえこ

32話はこんな話


藤吉(松坂桃李)とてん(葵わかな)は、偶然みつけた端席の小屋が気になって、小屋主・亀井庄助(内場勝則)の元に通い詰める。

内場勝則登場に沸く


天神さんの裏の裏、人通りの少ない小さな祠の前に寂れた小屋があって、藤吉はなぜかそこに心惹かれたらしい。
その前にしゃがんでいた男・亀井庄助(内場勝則)に小屋主を知らないかと聞くと、彼は知らないと言い、ふたりに「まじめに働かんと目ぇ醒めたときにわしみたいに浦島太郎になっとるで」と警告する。

あとになって、この男こそ小屋主で、「万年亀井」と呼ばれる、殻にこもってひとを信用しない偏屈な人物であることがわかる。
藤吉とてんは、各々、お金を稼ぎつつ、その合間に、亀井を訪ね続ける。
この場合も、てんの差し入れのほうが亀井を喜ばせることになり、藤吉、残念。
食べ物だけでなく、会ったとき、お正月で寒いのに薄着だったことを気にして羽織ものを夜なべしてつくるとは気が利いている。

亀井役・内場勝則は、31話で登場した途端、SNS が沸くほどの人気芸人。

一旦、退場したおトキ役の徳永えりが文春オンラインのインタビューで、小学校のとき内場と結婚したかったと発言しているほどのカリスマ性をもった人物だけに、黙って座っているだけで、一筋縄ではいかない雰囲気がぷんぷん立ち込めた。

これってきっと伝統


てんは相変わらず「お金はありまへんけど、このひとの寄席をやりたい気持ちは誰にも負けまへん」と根拠ない自信にあふれている。ああ、これは「まれ」(15年)を彷彿とさせる。
お姑さんの「始末」に関しては、「ごちそうさん」(13年)を思い出す。
貧乏長屋に一家揃って落ち延びたところは、「あさが来た」(16年)のヒロインの姉・はつの嫁ぎ先の顛末に近い。藤吉がダメ男で、てんが内助の功を発揮していくのは「マッサン」(14年)・・・と枚挙に暇なく、当初から、あれやこれやと、「わろてんか」が過去の朝ドラをいろいろ取り混ぜているのではという
意見も見受けられた。今後、寄席編になっていくと、上方落語の世界を描いた、視聴率には恵まれなかったが、名作の誉も高い「ちりとてちん」(07年)と、時代は違うとはいえ、重なる部分も出てきそうだ。

かばうわけではないが、「わろてんか」の後藤プロデューサーが担当した過去の朝ドラ「つばさ」(09年、脚本・戸田山雅司)では、ヒロインの祖母・吉行和子がぬか床について熱く語るシーンがあり(91話)、「ごちそうさん」の吉行和子演じる祖母が死後、ぬか漬けの精に転生するのは、そのオマージュであろうと推測できることもあり、「わろてんか」だけが過去作のパッチワークで乗り切ろうとしているわけではないはず。朝ドラ全体が伝統を引き継ぎながら新しいものを模索している。これを拙著「みんなの朝ドラ」で、「朝ドラがもはや伝統芸能」と書いた。
「わろてんか」、伝統に押しつぶされないようにがんばっていただきたい。

今日の、わろ点


内場勝則と並んで、大福の包を開けた松坂桃李の表情が、これまでのどこか虚ろな感じから、俄然、生き生きしだして見えて、くすりとなった。

内場のネタに、お金持ちのお坊ちゃん「あほぼん」があり、松坂は今回、ある種の「あほぼん」役。
W あほぼんのそろいぶみとなった。ここから、藤吉が亀井からあほぼん芸を伝授されるという話になればいいのに。
だが、そうはなりそうになく(席主を目指すからね)、33話は、リリコ(広瀬アリス)が抱えているらしい深刻な問題について描かれるようだ。
(木俣冬)