菅能ちゃんが説明するロイコ事件
菅能理香(稲森いずみ)いわく、ロイコ事件とは「7年前に花道署管内である一家が襲われて、夫婦が殺害された。生き残ったのはまだ12歳の一人娘だけ。その事件の状況は、小説“ロイコ”にそっくりだった。ロイコは、“ロイコクロリディウム”の略で、たちの悪い寄生虫のこと。カタツムリの体内に寄生して、やがては脳まで支配してしまう。この小説の主人公も、殺人鬼に寄生されて、心を操られて、殺人を起こしていくってストーリーだった。(ロイコ事件の)犯人は小説の著者・横島不二実。警察は横島を追い詰めたんだけど、結局は焼身自殺されてしまって、被疑者死亡で書類送検」とのこと。
その横島を追い詰めたのが、弓神(浅野忠信)。そして生き残った当時12歳の女の子は、どうやらヒズミ(山本美月)らしい。話が大きく動いてきた。
本格ミステリー、ロイコ事件に以降していく
少しずつ、少しずつスケール大きくなっているように思える。1話~3話までは全て、うっかり頭を打って死亡、もしくは意識不明の重体という過失、もしくは事故だった。

5話の事件
前花道市長・宇津巻喜平を父に持つ宇津巻京子(板谷由夏)と、婿で市会議員の誠治(丸山智己)のひとり娘・真利奈(後藤由依良)が誘拐されてしまう。弓神は、現場に残されたカタツムリのマークが原因で、所轄外のこの事件に駆り出される。花道署の刑事と合流した弓神は、小説「ロイコ」の発売禁止運動の先頭に立ったのが、宇津巻喜平だと知る。
犯人の要求は、京子と誠治に身代金を運ばせること、その様子をテレビ中継させることだった。要求通りに動いた2人だったが、犯人は「取り引きは中止だ」と一方的に電話を切ってしまう。
結局は模倣犯だったが、今回の事件は、殺人こそなかったものの、人間の心理に入り込み、寄生していたという犯人の心理状態がロイコ事件と共通している。
秘書がむかつくし、京子が悲しい
誠治と不倫する秘書の音島(桜井ユキ)がとにかく怖い。いや、むかつく。
京子が乳房全摘手術を受けていることに対して、音島は当てつけのようにブラジャーを部屋に残すことで、「今まで誠治としてました」ということを暗に伝えた。すれ違い様に、乱れたブラウスを直す仕草も、「今ブラジャーしてませんよ」というメッセージだったのかもしれない。
ストッキングを履いていない音島が、誘拐が自分の不注意だと京子に謝るシーン。京子は、「ムリしないで、ちゃんと休んでね。冷え、良くないわよ」と音島に優しく微笑むのだが、全部見た上で見直すとニュアンスが全然違う。
音島は誠治に「妊娠している」という内容の嘘をついていた。音島からすれば、京子はその嘘自体知らないはずなのだが、京子は全てを見破った上で、「ムリしないで、ちゃんと休んでね。冷え、良くないわよ」存在しないお腹の赤ちゃんを心配して見せたことがわかる。怖いような、悲しいような、本妻の意地を見せるシーンだった。
全部余韻が吹っ飛んだ
5話が今までと違うのは、スケールが大きくなったこと、ロイコ事件という1話完結ではない話の筋が生まれたこと、そして余韻がなくなったことだ。
矛盾をするような言い方になってしまうが、「刑事ゆがみ」の特徴は、完全1話完結でありながら、“話が完結しない”ことにあったと思う。
どの犯人も、簡単には結論を出せないような動機や正義があった。
しかし、今回はそれがない。なぜなら、エンディング間際に、なんの前触れもなくオダギリジョーが登場したからだ。しかも、死んだロイコ事件の犯人の横島不二実と見られる男としてだ。これはインパクトが強い、いや、強すぎる。
こうして「刑事ゆがみ」の特徴の一つ“余韻”は、ロイコ事件という大きな事件の軸のせいで消されてしまった。考えさせられる部分はあったにも関わらずだ。もちろんロイコ事件には引きがあるし、今話のラストは最高潮にワクワクしたのも事実だが、あの余韻がないのは少し寂しい。
なので6話以降は、最後にロイコ事件の“引き”を作りつつ、なんとかあの独特の余韻を消さないような作りにして欲しい。すっごい贅沢な要求なのはわかっている。
(沢野奈津夫)