連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第9週「女のかんにん袋」第54回 12月2日(土)放送より。 
脚本:吉田智子 演出:川野秀昭
「わろてんか」54話。てんと藤吉がちっとも幸せに見えない謎
イラスト/まつもとりえこ

54話はこんな話


喧嘩したてん(葵わかな)と藤吉(松坂桃李)を仲直りさせるために、亀井(内場勝則)や芸人たちが趣向を凝らす。

待たされる、寺ギン


何かことが起こっているところ、その話の腰を折るパターンを好む「わろてんか」。

54話では、まず、冒頭、風太(濱田岳)が寺ギン(兵藤大樹)のところに世話になっていることが判明し、「肝の座った憎たらしいヤツ」として気に入られているという話の途中で亀井が割って入り、端午の節句のお祝いをしようと、てんと藤吉を連れていく。


2度目は、放送開始9分後。
端午の節句のお祝いの場で、夫婦がしんみり仲直りしていると、「いつまで待たせるんや」と寺ギンが割って入る。
武士の情けで、夫婦の問題が解決することを待っている寺ギンの株がまた上がってしまう形となった。

「もう堪忍袋は要りません」


兜やなんやらいろいろ用意して盛り上げた亀井やトキ(徳永えり)や芸人たちの気持に打たれたてんと藤吉は、反省を口にする。
お互いの愚痴はすぐに口にだすことにしようというてん。
「もう堪忍袋は要りません」
一応、今週のサブタイトルにもなった堪忍袋の話が、こうしてまとまった形だ。

てんと藤吉には堪忍袋が要らなくなって、その代わり、日本一の席主になる夢が膨らんでいく。


その一方で、心に堪忍袋を持ったままのひとたちがいる。
風太とリリコ(広瀬アリス)だ。
寺ギンのとこで働くと宣言して、てんたちのライバルになった風太が外に出てくると、リリコが風太の気持ちを代弁して大声を出す。
「俺がてんを一生守ったる〜」
てんと藤吉の気持ちを諦めきれず、影で役に立とうとしている風太とリリコの切なさよ。

風太とリリコの気持ちはわかる。なぜなら、てんと藤吉が傍目に見て、全く幸せに見えないから。

自分のほうが、幸せにできると思ってしまうのも無理はない。それは、栞(高橋一生)も同じだと思う。

てんと藤吉のたちの悪さは、他者が入れそうなスキをつくっているくせに、いざ近寄ると、決して入らせないという、意識的か無意識なのかわからない謎の結界を張っていることである。
弱い動物が、猛獣に追いかけられたとき、いまにも捕まえられそうに見せて、すんでのところで逃げながら、子供が隠れている場所から引き離すみたいな手をつかうことがあるが、そういう感じなのか。

居間に、風太の買ってきた金太郎人形と並べてようやく兜が飾られた。
ところで、伊能がもってきた鞠はどこにあるんだろう。
そう、風太も伊能も隼也にお土産をもってきているのに、藤吉はなにも買ってきてないところがダメなのだ。寄席を買うため、お金がなかったってことなのだろうか。

今日の、わろ点


藤吉「でっかい男に育つんやで」
てん「お父ちゃんみたいにな」

たぶん、これツッコみどころとして書いたのだと思う。
1月末から成田凌が演じることが発表された隼也が、お父ちゃんみたいに育たないことを祈ります。

今日の、名言


「芸妓は飽きるが、鬼嫁は一生飽きんいうてな」(歌子〈枝元萌〉)
うんうん。

さて、10週は、北村有起哉が、型破りな落語家・団真として登場。
藤吉を型破りキャラとして描けなかったのは、この人物を出すためだったのだと思いたい。
松坂桃李を弾けきれない役にして苦労させた分、型破り男を思う存分描いてほしい。俳優の実力に心配は全然なく、期待しかない。
(木俣冬)