今年のノーベル賞のうち文学賞には、イギリスの作家カズオ・イシグロが選ばれた。イシグロのノーベル賞授賞をめぐっては、「日本出身の作家としては川端康成、大江健三郎に続く3人目の授賞」とする報道も目につく。こうした扱いに対しては、イシグロはあくまで英語で作品を発表しているイギリス人作家だと否定する意見も少なくない。同様の議論は、南部陽一郎や中村修二らアメリカ国籍を得たあとで物理学賞に選ばれた人々に関しても起こった。
ただ、受賞者の国籍がどこであれ、それについてことさらにこだわることは、ノーベルの「賞を与えるにあたっては、候補の国籍が考慮されてはならない」との遺言に反する。これは、ノーベル財団および授賞者の選考にあたるノーベル賞委員会に現在にいたるまで脈々と受け継がれている精神だ。

山中教授の発言に激怒したノーベル賞委員会
ノーベル賞関係者が、いかにノーベルの遺志を守ることに努めているか。最近刊行された『ノーベル賞の舞台裏』(共同通信ロンドン支局取材班編、ちくま新書)では、ある外交筋の話として、京大教授の山中伸弥が2012年にノーベル生理学医学賞授賞の一報を受けた際の記者会見での発言に、ノーベル賞委員会が激怒したという話が紹介されている。