2016年10月に突如Eテレで放送され、各所に衝撃が走ったあの『昆虫すごいぜ!』が帰ってくる!
明日31日(朝9時~)に過去4回分を一挙放送、そして年明け元旦(朝9時~)に新作がオンエアされる。

メインは香川照之。

俳優、歌舞伎役者、東大卒のインテリ、ボクシングマニア、安田大サーカスの団長の元ネタ。多くの顔を持つ彼がこの番組で見せてくれるのは、過剰な昆虫愛にまみれた狂気。

民放で香川自らアピール


もともと香川が『櫻井・有吉THE夜会』(TBS)に出演した際(2016.5)「Eテレで昆虫番組をやりたい」と猛アピール、それを受けできたのがこの番組。Eテレが正式にオファーに来た際も、まだ本編でもないのに楽屋でトップギアで語り出す。

「(昆虫が生きる)儚い何ヶ月かの間にやっている事、そこに生きてるものが学ばなければならない全てが入ってる!」
「人間の生活がいかに恵まれ、逆にいかに歪められているか、昆虫から学ばなければいけない!」

脱皮した真の香川の姿を、第一回目の放送(1時間目・トノサマバッタの回・2016.10.10放送)を中心にお復習いしてみたい。
香川照之本気暴走番組「昆虫すごいぜ!」が帰ってくる、大晦日一挙放送を見逃すな
専門書も多いカマキリ
写真は「カマキリの生きかた さすらいのハンター」(小学館の図鑑NEOの科学絵本)

大御所なのにカマキリの被り物


「香川照之の───!!(100mほどダッシュしてきて)昆虫すごいぜぇぇ───!!」
己の昆虫番組を持てた喜びを抑えきれないのだろう、「巨泉のっ」とは比べものにない熱量のタイトルコールが河原に響く。しかもブルーリボン賞とかとってる俳優なのにカマキリ(一番好きな昆虫)の被り物だ。

番組は基本スタジオとロケで構成されており、どちらの香川も全力だし、カマキリだ。


スタジオ部分は、カマキリ先生(香川)がカマキリの子供たち(寺田心と山内芹那)に授業をする設定。
だが、ボルテージの上がってる香川は

「私はカマキリ、しかもメスだ。お母さんと呼びなさい!」

といきなり暴走。それでも「吾輩は猫である」のごとき語り口はさすが東大文学部。
さらに、バッタを気持ち悪がる生徒に

「気持ち悪いとか禁止!お母さんの大好物なんだから」

とあくまで母カマキリ目線。
生徒役はもちろん学びに来てる設定だが、むしろ香川の昆虫熱を煽り、焚きつける燃料として作用する。


虫に触れたことがあるという山内に「カブトムシ?デパートで買ったやつじゃねーだろーな?」
バッタを「ぴょんぴょんしてる奴」と言われ「バッカだなぁー?その辺ぴょんぴょん飛び跳ねてるのはオンブバッタとかのザコなんだよ!」
言葉を失う山内に「今ちょっとめんどくせえな?って顔になったろ?」
バッタの模様を見てるだけの寺田に「こうゆうの見て興奮するだろ?」

昔よくいた「空き地で子供だけ集めていばってるヤベー大人」を思い出す。

だが乱暴に言わせてもらえるなら、この「女子供にムキになる」香川の姿こそこの番組のキモだ。石原良純にも通ずる大人気のなさ。気がつけば昆虫よりも香川を観察してしまうのだ。ボクシングを熱く語る香川も近頃お馴染みだがこっちの香川の方がよりリミッターが壊れてる感じだ。
実際、香川がムキになればなるほど番組の熱は上がり、「草むらを見るとムラムラする」「私は今日は12歳」(特別編・2017.8.12)など名言が続出する。


自ら草むらでロケ


そしてロケ。仕事として河川敷で虫捕りできるのがとにかく嬉しいらしく

「俳優生活苦節28年、ようやく本当にやりたい仕事と巡り会えました!」

と、今までのキャリアを全否定しちゃう香川。
『半沢直樹』も『トウキョウソナタ』も『剣岳』も『あしたのジョー』も歌舞伎の舞台も全て「本当にやりたい仕事」ではなかったという激白。それを被り物で叫ぶ。(ロケ時は頭のみ被り物で体は緑ジャージ)

自前の肘当て・膝当て・手袋を身につけ、常人が見向きもしない草むらに嬉々として分け入る。市民が草野球に興じるグラウンドの真横で地べたに這いつくばり蠢いているが、その変質者が香川照之だと気づく人はいない。
弁当も食べず何時間も虫を探し続けることはザラで、スタッフが休憩を勧めても
「カマキリに休憩はない!」と一喝。

正直、香川が休まなくてはスタッフが休めないのでは…と思いかけたが、その潔いほどの熱中ぶりに悪い印象はなく、ホームページで「香川さんの香川さんによる香川さんのための番組」とスタッフが語るのも頷ける。もはや子供達の番組ではなかったのだ。

VS哀川翔


昆虫好きと言えば哀川翔(主にカブトムシ類)が頭に浮かぶが、彼は旅先から幼虫を何匹も持ち帰り羽化させたり(ハマったきっかけ)、ロケ中に見つけたクワガタを九州から持ち帰り飼ったりとコレクター・ブリーダーの側面が強い。
一方の香川は、子供の時逃げられて以来40年恋い焦がれていたタガメを捕獲した際も(特別編)、見てて微笑ましいほど胸熱な顔は見せものの、それでもあっさりリリースしたように所有欲は現在さしてないようで、それより昆虫の生き方や存在そのものに惹かれている信奉者といった印象。
哀川が、あくまで人という立場から対象を飼育したいのに対し、香川は好きすぎるあまりむしろ対象そのものになってしまいたいのではないか。

例えば、こだわりのカマキリの着ぐるみ(「トゲ」の位置が違うなどスタッフに何度もダメ出しして誕生した逸品)でスタジオ初登場した時も、それを装着した自分がいかにリアルかを見て欲しいらしく、カマで人間の顔部分を隠しガニ股で立ち、完全に同化できてる姿に酔っていた。あれは、盛り上げるためとか笑いのためではない、美しい自分を見て欲しい人の目だった。

2時間目の授業では頭の模様がリアルなり、さらに3時間目(2017.10.9)には「茶色のカマキリにもなってみたいという香川たっての希望で新たに制作」された全身褐色のカマキリで登場。つまり一度たりとも同じカマキリでいたことがないこだわりぶり。毎回意味のない(失礼)着ぐるみの自慢から番組は始まる。

また途中のコーナーで、バッタが飛び上がる高さ(11m=人間サイズに換算)までクレーンで吊り上げられたり、蝶々の羽(直径5m)を付け、またもや吊るされたりするのだが(2時間目・2017.5.5)、高所で羽が風に煽られ折れてしまっても、怖いとか危険というリアクションより、むしろ「昆虫に近づけて嬉しい」「昆虫の羽は折れない=昆虫さすが」といった前向きなオーラを発してた。

ちなみに哀川・香川の共演は多く、しかも96年の映画『蛇の道』では「昆虫の大マニア」(香川談)という黒沢清が監督をしており、3人がどんな会話をしたのか気になる。

人間くさい香川


撮影や解説しながらだと勝手が違うのだろう、なかなか対象を捕らえられずのたうち回る姿も見もの。


バッタが逃げた時「あいつ!ふっざけんなチクショ!」と教育番組なのにガラ悪く吐き捨てたり、
途中真剣になりすぎ被り物を脱ぎ捨て、それを生徒に指摘されるや否や
「当たり前だろ!被りモンなんだから!カマキリなんかじゃないよ!」とブチまけたり、
巨大な網を使っても捕り逃がしてしまった微妙な空気を「それだけ難しいって事ですね」と山内が好フォローしてるのに「失笑だろ?」と大人気なくイジけたり、そんな人間・香川が愛おしい。
「失笑だろ?」に対し「そうですね」と笑顔で答える寺田(9歳)も見事。

そしてようやくバッタを捕獲した際、大声で「確保ー!」と叫ぶ香川。さすがよく似合う。

とにかくこの番組、名言の宝庫で

「羽が教えてくれる、『トノサマ』の匂い」(ようやく捕れたトノサマバッタを手に思わずポエム)1時間目
「害はないよ!むしろこの子(モンシロチョウ)にとってはお前の方が害なんだよ!」(蝶々に怯える生徒・新谷あやかに向かって)2時間目
「俺と交換しねーか?人生」(人生初のギンヤンマを捕まえ興奮し虫に語りかける)3時間目
「池に落ちるなんて当たり前の想定内!」(スタッフに夢中になりすぎ池に落ちないように言われて)3時間目
「周りにあんな人いますか?」(7年土中にいて地上に出てすぐ鳴きだすというセミの生態を説明しながら)3時間目
「エイドリアーーン!」(吊るされたまま高速で動く獲物に見立てたバレーボールを掴む実験に成功して絶叫)3時間目

他にも、ホワイトボードを使いクマゼミやタガメ(キングジョーがタガメに見える程好き)への思いをホワイトボードを使い熱く語るKC高峰のようなコーナーがあったり、30分くまなく昆虫と香川を堪能できるこの番組。
しかも新作ではマレーシアで14時間カマキリ被りっぱなしのロケを敢行したとか…ぜひ年末年始、テレビの前で「香川すごいぜ!」と唸っていただきたい。

2017 12.31 9時~『香川照之の昆虫すごいぜ!』4回分一挙再放送
2018  1.1 9時~『香川照之の昆虫すごいぜ!』カマキリ先生マレーシアへ行く

初回オンエアのデータ
1時間目 2016 10.10 トノサマバッタ
2時間目 2017 5.5 モンシロチョウ
3時間目 2017 8.12  特別編〜出動!タガメ捜査一課〜
4時間目 2017 10.9  オニヤンマ

(柿田太郎)