「下、切ったの?」
「っていうかお前、外出するときトイレとかどうしてんの」
「はっ! ヘンタイだな」
「この、化け物!」

1月12日放送のドラマ女子的生活NHK)第2話。
トランスジェンダーで、身体は男性でありながら女性の格好をしているみき志尊淳)に、同級生の高山田(中島広稀)が心無い言葉をぶつける。
鬱屈した嫌味な引きこもり役を、2016年に連続テレビ小説『べっぴんさん』(NHK)で、一途で真面目な青年・たけちゃんを演じた中島広稀が務めた。
「女子的生活」2話「なんだと、この化け物!」女性らしさを蔑視するミソジニストの心理、自己肯定と羨望と
イラスト/まつもとりえこ

第2話 あらすじ



「心はレズビアン、身体は男」のトランスジェンダーである小川みき(志尊淳)と、借金取りに追われていた同級生の後藤(町田啓太)の同居生活がはじまった。
ある日、後藤はみきに会ってほしい人がいるとお願いをする。その人は、地元で「ミニーさん」と呼ばれていた背の低い同級生・高山田(中島広稀)だった。

男子の自己肯定感



みき「よくもまあ人のことを散々ディスってくれて。私は、あんたが吐き出す泥の受け皿じゃないっつーの」
高山田「なんだと、この化け物!」
後藤「やめろって二人とも……」
みき「やめない。だってこいつ、病気じゃないもん。ストレスぶつけたかったんでしょ、化け物に」

みきに会うなり、「下、切ったの?」と、みきの下半身を指さす失礼な高山田。
もてなしの料理にケチをつけて取り換えさせたり、みきの将来や生き方をあざ笑ったりする。
それは、自分よりも刺激的な生活をして、周囲の注目を浴びているであろうみきがうらやましくて出た態度だった。

「あのさ、あんた、私の服が着たいんでしょう」と言って、みきは高山田に女性装をさせる。
かつらと口紅、そして大判ストールを身につけたくらいで、高山田は自分の姿を肯定的にとらえる。
ひげを剃って、みきに全身コーディネートとメイクをしてもらってからは、自分のことを「可愛い」と言い出すようになる。がに股で、まだうっすらとひげが見えていて、全然可愛くないのに。

その自己肯定感の高さに、みきは驚いた。

〈よくもまあ、そこまで自分を信じられるな。うらやましい。
 そこでふと、思う。もしかして私は、ミニーさんのこの「俺は肯定されるべきだ」って感じが憎らしかったのかも。〉

(坂木司『女子的生活』新潮社 p.127)

高山田は、「スイーツ(笑)」というネットスラングを使ってみきをばかにする。スイーツ(笑)とは、可愛いものや甘いものが好きな女性に対する蔑称だ。
女性や女性らしさを蔑視する人のことを、ミソジニストという。インターネットでは、特にまとめサイトなどで気軽に女性をばかにすることが娯楽として定着しており、女性を「スイーツ(笑)」などの蔑称や性器の名前で呼ぶ人たちがいる。
高山田も、引きこもっている間にそういったサイトを見てミソジニー(女性性蔑視)の考え方を身につけたのかもしれない。

インターネットで見かけるミソジニストの発言にも「俺は肯定されるべきだ」という感情が見える。
たとえば、プリクラやデザートビュッフェの女性専用エリアや、電車に女性専用車両があることに怒る男性たち。
彼らの中には、なぜ女性専用の場所ができたのかをまったく考えずに、女性専用エリアを使用する女性をバッシングしたり、ばかにしたりする人たちがいる。
それは「俺が入れない(肯定されない)場所があるなんておかしい」という感情、憤りがあるからだ。

〈ああいう格好をすれば、おれだって簡単にちやほやされる。そしたら、世界が変わるかも。〉
(坂木司『女子的生活』新潮社 p.120)

高山田は、学生の頃は「いじられキャラ」として男子たちに構われていた。
自分が何もしなくても周りが勝手にいじって構ってくれることは、高山田にとっては自分の存在の大きな肯定だったのだ。
女性装をすることで、高山田は再び周りにツッコまれるようになり、理想の状況を手に入れた。みきをはじめとした、周りの力で。
そんな高山田を横目に、自分の存在を全肯定されることが少ないであろうみきの茫然とした顔が少し切なかった。

世間の態度を体現するドラマの存在


「女子的生活」2話「なんだと、この化け物!」女性らしさを蔑視するミソジニストの心理、自己肯定と羨望と
2014年発売の『志尊淳ファースト写真集』 (TOKYO NEWS MOOK)

ドラマ『女子的生活』は、説明パートが少なめだ。
2話で、みきが高山田のセクシャリティについて「ストレート」と発言したシーンがあった。
この「ストレート」が「ノンケ」「ヘテロセクシャル」と同じ意味、つまり「異性愛者(女性を好きな男性、男性を好きな女性)」だとすぐにわかる人は、まだそこまで多くない気がする。


また、男子たちにいじられていた高山田に対して、みきが「ヒロインだったのかな」と感じた具体的な理由についてもふわっとしていた。
ホモソーシャルや自己肯定感について考えたことがあれば、ドラマの中で読み取れないこともない。でも、併せて原作を読んだほうがはっきりと「ああ、そういうことだったのね」とわかる(なので、ぜひ原作にも触れてみてほしいです!)。

この説明の少なさは、「説明が足りない」こととは違う。
1話でみきが、自分のセクシャリティについて説明したあとに「すぐにわかれとは言わないけど」と言っていた。
言っていることはわかるけど、すぐにはわからない部分もある。だから、原作を読んだり、セクシャリティの種類やセクシャルマイノリティの生きる環境について調べたりしないといけない。もちろん、わからない部分をスルーして生きていくこともできる。

そんな視聴者の状況は、そのままセクシャルマイノリティへの世間や自分の態度と重なる。
「心はレズビアン、体は男」という人が存在することは知っていても、その人たちがどうやって暮らし何に悩んでいるかは、知ろうとしなければわからない。逆に、似たセクシャリティを持つ人であれば、ドラマを見て理解や共感、批判できることも多いだろう。

マイノリティはマジョリティからよく説明を求められる。
「そんな言い方じゃ、理解を得られないよ」「わかるように説明して」と。
でも、マジョリティであるストレートの人たちがマイノリティに自分のセクシャリティについてわかるように説明する機会はほぼない。そこに非対称性、マイノリティの生きづらさがある。

『女子的生活』は、丁寧に説明しないドラマだ。
もしかしたら、「そんな言い方じゃ、理解を得られないよ」「わかるように説明して」と感じる人もいるかもしれない。
「だったら、自分で調べてみて」そんなみきの声が聞こえる気がする。

『女子的生活』は全4話(予定)。第3話は今夜10時から放送予定。

(むらたえりか)

U-NEXTで配信中。

NHKドラマ10『女子的生活』
出演:志尊淳、町田啓太、玉井詩織、玄理、小芝風花、羽場裕一、ほか
原作:坂木司『女子的生活
脚本:坂口理子
音楽:鈴木慶一
トランスジェンダー指導:西原さつき
制作統括:三鬼一希
プロデューサー:木村明広
演出:新田真三、中野亮平
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