吉岡里帆主演の火曜ドラマ『きみが心に棲みついた』。天堂きりんによる原作のドラマ化である。
“ゾクキュン”なるキャッチフレーズが打ち出されているが、視聴者の女性の中には自分の過去と照らし合わせながらドラマを観ている人も多い模様。原作はまだ連載中なので、ドラマオリジナルの最終回が用意されるはず。ちょっと気が早いが、登場人物も、視聴者も救われる結末になるといいな……。
「きみが心に棲みついた」2話。吉岡里帆あるある「男におんぶされがち」地獄の依存関係を断ち切るのは誰か
原作1巻

今日子はインプリンティングされたヒヨコ


先週2話の振り返り。勤務先の下着メーカーで新ブランドの立ち上げを行うことになった小川今日子(吉岡里帆)。メンバーは先輩デザイナーの八木(鈴木紗理奈)と星名(向井理)だ。しかし、高圧的な態度の八木にオドオドしっぱなしの今日子。


「なんやねん、あんた、イラッとするわー!」

と言う堀田(瀬戸朝香)の言葉は正しい。あれぐらいのことでオドオドしていては仕事にならない(まぁ、八木のあの態度は今どきのオフィスで許されるものではないが)。それでいてすぐさま今日子のことを励ますのだから、堀田は優しい。堀田はこのドラマの良心だ。

吉崎(桐谷健太)が担当するマンガ家のスズキ次郎(ムロツヨシ)とともに下着の取材にやってきた。浮かれてミニスカートを履き(そこまでミニだった?)、社内で吉崎を見かけたらひょこひょことヒヨコのようについていく今日子。


「ヒヨコのように」と書いたが、家族や友人に受け入れられたことがない過去を持つ今日子は、自分を受け入れてくれたもの(受け入れてくれそうなもの)を見つけると、インプリンティング(刷り込み)されたヒヨコのようについていってしまう。今の今日子は生まれたばかりの自立できないヒヨコなのだ。

おんぶされる女・吉岡里帆


慣れないヒールを履いてきて、脚をくじいた今日子をおぶっていく吉崎。吉岡里帆は前作『ごめん、愛してる』でも長瀬智也におんぶされていた。当代一のおんぶ女優だ。

どちらのドラマでも吉岡が自分からおんぶしてほしいと言うのではなく、相手が自らおんぶしてやると名乗り出ている。それだけ吉岡演じる役柄が男にとって「放っておけない」存在ということなのだろう。


『ごめん、愛してる』では泥酔していたが、今回はシラフだった。まだ夜も更けておらず、周囲に人も多いのに、ほんの少しの逡巡の後、「失礼します」と言って吉崎の背中に身を預ける今日子。吉崎への好意の表れだろうが、同時に甘えや依存体質が表れているような気がする。文字通り、「自立」していないのだ。

ちなみにツイッターのタイムラインでは「おんぶされたい!」「キュンとした」という女性の声が多かったよう。スカートの内側が見えないようコートを腰に巻いてやる吉崎の優しさに褒めている人もいた。
なるほど。韓国ドラマでは男性が女性をおんぶするシーンが多いが、頼りがいのある男性、スキンシップなどを表現しており、それにうっとりする女性ファンが多いようだ。

余談だが、おんぶとは何かを考えているときに、つい「おんぶ フェチ」で検索したところ、「女性におんぶされる」という性的嗜好の男性がけっこういることを初めて知った。(性の)世界は広い。

ネクタイを緩めて闇の感情を解放する向井理


吉崎におんぶされる今日子をサイコ感丸出しの表情で見つめていたのが星名だ。星名のことを「ドS」と表現する人もいるようだが(演じる向井自身も「S男」と言っている)、あんなものは「ドS」ではない。みうらじゅんの至言「SはサービスのS」という言葉のとおり、SMのSはMの底なしの要望に応える立場だ。


じゃ、星名は何かというと、「闇」。彼がやっているのは、モラハラ、パワハラ、セクハラ、暴力、支配、強要、ストーキング。すべて犯罪行為だ。つまり、どうかしているのである。

「人の能力を引き出すのに一番手っ取り早いのは競わせることです。競争には必ず嫉妬が生まれますから」
「嫉妬?」
「ええ。
人間の妬みや嫉み、そういう醜さは時にポジティブな動機よりパワーになりますから」

こんなことをしれっと取材で言うのだから、スズキ次郎じゃなくたって「こいつ、ヤバいな」と思うだろう。

星名は今日子に嗜虐的な気持ちを抱くとき、必ず首元のネクタイを緩める。自由な社風の下着会社の中で、ネクタイを締めているのは星名だけだ。常にVネックのニットを着て、胸を広く開けている吉崎とは対照的である。星名が胸元を緩めるのは、普段隠しているダークな感情を解き放つ合図。それにしても、無表情な向井理はトカゲ人間のように見える。

今日子と星名、地獄の依存関係


このドラマで常に胸元を隠している人物がもう一人いる。ネジネジ(中尾巻き)をしている今日子だ。ネジネジは母親が唯一見せてくれた愛情の印である三つ編みの代わりであり、今日子の星名への依存心の象徴でもある。

「私、もう星名さんを卒業します!」

と、冒頭で叫んでいたはずなのに、ちょっと抱き寄せられるとすぐに胸に顔を埋めてしまう。星名が飯田(石橋杏奈)に優しくしているのを見ると、いてもたってもいられなくなって追いかける。「心にもない言葉、吐くなよ」と突き放されると、思い切り心の言葉を叫んでしまう。

「星名さんお願い待って、星名さんお願い待って、星名さんお願い待って、星名さんお願い待って!」

雨の中、タクシーを追いかける今日子の姿は、去りゆく母親を追いかける必死に追いかける哀れなヒヨコのようだ。そして、ずぶ濡れのまま、吉崎の前に現れて嗚咽しながら叫ぶ。

「卒業、終わらせたくないんです! 私、醜いんです!」

靴すら置いて、大雨の中、裸足で駆け出す(逃げ出す)今日子。こんな無残な姿を晒すドラマのヒロイン、久しぶりに見た。吉岡里帆の体当たりぶりには頭が下がる。

地獄のような依存関係を断ち切るのは、吉崎なのか、仕事なのか、自分自身なのか。第3話は今夜10時から。
(大山くまお)