城島健司、釣り三昧の引退生活に学ぶ「会社とは別の世界を持つ人生の過ごし方」

記憶とは曖昧なものだ。

子どもの頃、学生時代の同級生の名前や顔を忘れていると言うおじさんと会うと「マジかよ……」なんて軽く引いたけど、気が付けば20代後半あたりから自分もそんな大人になっている。
しかも、忘れているだけじゃなく、記憶の順番が前後した勘違いも増えてくる悲しい大人のリアル。バレンティンが60本塁打放ったのは2011年!……っていや2013年なんすけどみたいな例のアレだ。
そんな曖昧な過去は、ふとしたきっかけで一気に鮮明になることも多々ある。大学時代に住んでいた街を久々に訪れ、街並を眺めながら歩くと当時の出来事が甦ってくるあの感じ。風景や映像は時に記憶を呼び起こす。だから、酷い振られ方をしたおネエちゃんの写真類は即データごと捨てた方がいいと思う。その後の人生が決定的に暗くなっちゃうから。


図抜けた強肩強打の捕手だった城島健司


先日、『読売巨人軍宮崎キャンプ60年記念ジャイアンツvsホークスOB戦』でダイエーホークスの背番号2のユニフォームを着た城島健司を見て、さまざまなことを思い出した。工藤公康とバッテリーを組み巨人3番松井秀喜のキャッチャーフライをわざと落球してみせ、子どもの頃から憧れた恩師・4番王貞治を迎えると遠慮なく内角のカーブを要求する。久々に球場へ帰ってきた城島は相変わらず自由だった。最近の球界ではこの手の“自由さ”は許容されにくいだけに逆に新鮮に感じたファンも多かったかもしれない。

当初は無視されてもしつこく食らいついて信頼関係を築き上げた先輩・工藤とは、ダイエーが初日本一を達成した99年にパ・リーグの最優秀バッテリーを受賞したゴールデンコンビ。当時プロ5年目の城島は23歳の若さで正捕手として全試合出場すると、リーグ3位の打率.306を記録。
2度目の日本一の03年には全試合フルイニング出場、打率.330、34本、119点という凄まじい成績でMVPに選出されている。もちろん現在の球界にこんな猛打を誇る捕手は一人も存在しない。その打力ばかり注目されがちだが、強肩ぶりも図抜けており、02年には盗塁阻止率.508(63企図32盗塁刺)を記録。99年から05年まで7年連続でゴールデングラブ賞にも輝いている。


釣り三昧のスローライフから学ぶこと


プロ生活18年、日米通算1837安打、292本塁打。06年には日本人捕手として初めてメジャー移籍(マリナーズ1年目の18本塁打はゴジラ松井を上回り日本人打者メジャー初年度の最多記録)。五輪メダルやWBC優勝も経験したスーパーキャッチャーは、36歳の若さで惜しまれながら現役を引退した。さて、ご存知の通り城島はこれだけのキャリアを誇りながら、引退後は野球界と距離を置いている。じゃあビジネスでもやってるのか?と思ったら、聞こえて来るのは幼少の頃に父親に教えてもらった趣味の釣りの話だ。『城島健司のJ的な釣りテレビ』(RKB毎日放送)では、子どもたちに魚釣りをレクチャーし、嬉しそうに包丁を握り魚をさばく姿が確認できる。前回の本連載で取り上げた山本昌コラムでは多趣味の話をしたが、城島の場合は釣りが趣味と言うより人生の中心にあるようにすら見える。まさに30代後半からの悠々自適のスローライフだ。

城島健司、釣り三昧の引退生活に学ぶ「会社とは別の世界を持つ人生の過ごし方」
画像はRKB毎日放送『城島健司のJ的な釣りテレビ』公式サイトのスクリーンショット

う、うらやましい……。じゃなくて、近年の野球界の傾向として、メジャー移籍した日本人選手は引退後もすぐ古巣で現場復帰することなく自由に過ごすケースも増えてきた。城島だけでなく、佐々木主浩や黒田博樹、いまや巨人よりヤンキース色が強い松井秀喜にしても、一昔前なら日本の古巣球団で青年監督になっていたのではないだろうか。もちろんメジャー時代に貰った高給で、別に急いでフルタイムのコーチ職や野球解説をしなくても食うには困らないという余裕もあるだろう(佐々木は馬主としても有名)。

まあ自分たちが元メジャーリーガーの真似をしたら、「なんか釣りばかりしてる不審者」とご近所から警戒されてしまう可能性も否めない。それでも、城島の野球との距離感はなんかいいなぁと思う。元同僚たちとは適度な距離を保ち、仕事とは別の自分だけの世界を持っている。“趣味”を超えた“世界”と書くと大げさだが、会社とは別のもうひとつの日常だ。

転職すると、前職の会社の人事とか一瞬で興味がなくなった人も多いだろう。で、思うわけだ。誰が課長とか係長とかなんて小さい世界での出来事だったのだろうかと。出世争いに遅れを取ろうが、最悪リストラされようが、同僚のOLさんに女子会でディスられようがそれで人生が終わるわけじゃない。
会社の外には広い世界が広がっている。大人の男の嗜みとして、「まあたまにはゆっくり釣りでもしようや」くらいの余裕は持っていたいものである。

【プロ野球から学ぶ社会人に役立つ教え】
会社が“世界のすべて”ではない。
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