「芸人になりたい」という斎藤工が、覆面&匿名&野性爆弾くっきープロデュースでピン芸人を目指す『MASKMEN』(テレビ東京系)。「人印(ピットイン)」の名前で芸能事務所グレープカンパニーに所属し、ライブ出演やNSCでの修行を経て、ネタに磨きをかけてきた。


第5話、満を持して出演した「よしもと∞ホール」のライブで、斎藤工は他の出演者との「笑いの量の差」に愕然とする。ジャングルポケットなどは、客席のニーズに応えた笑いを提供していた。自分はくっきーが作ったシュールな世界観に甘え、笑いを求めていなかったのではないか。もっと笑いがほしい。

終演後の楽屋で、「僕はくっきーさんから離れます」と斎藤工は宣言し、「僕はこういうネタしか書けないんで」とくっきーはその場を去った。

迎えた第6話。いつもタイトル前に「斎藤工 挑戦のしるし」と出ていたテロップが、「斎藤工と野性爆弾くっきー 挑戦のしるし」に変わった。後半戦に入り、「二人の挑戦」に風向きが変わる。第6話のタイトルは「苦悩」。
斎藤工「MASKMEN」小峠に相談「コントも漫才も役者も人が面白いかどうか」6話
イラスト/まつもとりえこ

くっきー「わかりやすく言えばスランプ」


2017年11月24日。斎藤工がシンガポールに滞在していたその頃、渋谷のスクランブル交差点に「人印」の姿があった。第2話で斎藤工が初めて人印として人前に立った場所。斎藤工と違い、コミカルな動きで笑いを取っている。
ロケバスに戻った人印がマスクを取ると中身は……くっきー本人だった。

くっきー「斎藤さんはどういう気持ちでこれやったのかとか、なんか他にやりようあったのかなとか。そういうの考えつつ、一回やってみようかなって」

「女子高生とか気持ち悪いと言ってはけてく」のを感じたと言うくっきー。これまで人にネタを提供したことはなく、基本的にこんなに悩むことはなかったと言う。一方で、「さよなら人印という、お別れ会的なとこもあんのかな」と、人印を終わらせることも匂わせる。

2017年12月19日。くっきーは自身初の個展「超くっきーランドneo」の会場にいた。長年書き溜めた絵や創作物に囲まれ、初心を見つめ直したい、とカメラに語る。

「わかりやすくいえば『スランプ』というか、自分の中でね。何がおもろいのか、ようわからなくなってきたっていうかね……。なんとなくこう、匂いとかあるじゃないですか。あの時のあの頃の匂いって。
ああいう感情でいたって思い出すじゃないですか。その感じなんですよね今」

初舞台の不安や緊張は、くっきーにもあったはずだ。どういう気持ちで芸人になったのか、どういう思いでこの芸風になったのか。それは芸人のスタートを切った斎藤工に、思いを馳せる作業でもあった。

ただ、そのあと巨大な鈴を前に「このR(曲面)と、この距離が、オスプレイのここ(先端)と同じなんですよ」と真顔で言うシーンが挿入されており、スランプ発言の真意を煙に巻くのだった。

「人形」では伝わらない


一方そのころ、斎藤工はバイきんぐ小峠に今回の企画を打ち明けていた。

斎藤工が初めてコントに挑戦した番組『日10☆演芸パレード』(2012-2013 TBS系列)。同じく出演していたバイきんぐは、斎藤にとって「笑いの師」だという。

その師匠に先日の∞ホールの様子を見せる斎藤。「うひゃひゃひゃ!」と笑い声をあげる小峠。客席の反応と全く逆……と思いきや、VTRを見終わった小峠の一言は「鬼すべってんな」。「中に斎藤工が入ってる」とわかっている状態だと、すべった状況が面白い。だが、「誰があの中に入ってるかわからない状態でやっても、まぁウケないよね」と小峠は言う。


小峠「やっぱり、人を感じないね。結局コントも漫才も役者さんもそうなんだろうけど、人が面白いかどうかだから。人形がシュールなことをやってるから、結局何も伝わってこないよね」

だが、人印は覆面を外すこともできないし、中身を明かすこともできない。表情も声も客席に伝えられない。この状況で「人」を感じさせるにはどうしたらいいのか。くっきーは「斎藤工を捨てて人印になれ」と言っていた。一方、小峠は「工くんのやりたい笑いを入れたら」と言う。見た目で表現できないなら、せめて意思を入れようという考えだ。

これまで、斎藤工はくっきーの「人形」だった。人印になりきろうと己を捨てる努力をしてきたが、己を捨てる余り人印の中身は空っぽになってしまった。遂には第5話で「僕じゃなくてもい」と言いだした。

「人形」がシュールなことをやっても何も伝わらない。
ならば、やりたい笑いをやって、「この笑いをやりたい誰かが中に入っている」と、客席に感じさせればいい。

小峠「工くんがネタやるってなったときに、普通のピンネタやるってなったところで、面白みがないんだよね。ウケるネタだったとしても『斎藤工器用だな、お笑いも出来るんだ』ぐらいなんだよね。やっぱ、くっきーさんとやって、あの人のいかれた世界観を取り入れた斎藤工って、ちょっとやっぱワクワクするもん」

そのワクワクは「そうとう高いところになる」と小峠は言う。「一流の人と一流の人がやってるんだから、なんかあるよ」という優しい言葉に、斎藤工の表情は和らいでいった。

お笑いは「六畳一間のカラーボックス」


番組は再びくっきーを映し出す。くっきーは家族と砂浜で戯れていた。「家族一切出さないですよ。初めてです」と言うのだが、嫁と子供二人は顔にモザイクがかかっており、本物か偽物か判別はつかない。

くっきーは「笑いの根本って子供かなと思って」と、寄せては返す波にキャッキャと喜ぶ子供たちを見つめる。波から逃げるだけで笑う。単純なことなのだが、シンプルなものほど人の手で生み出すことは難しい。


くっきー「六畳の部屋与えられて、そこにカラーボックス一個だけ一番ええ位置に置けって言われても難しいじゃないですか。シンプルすぎて。それと一緒お笑いも。六畳一間のカラーボックスなんですよ、お笑いってね」

家族団らんを終え、「みんなが笑えるようなネタを書けるようになるかな」とこぼすくっきー。個展で初心に返り、家族団らんで童心に返る。「スランプ」を乗り越えて、くっきーはどんなネタを書くのだろう。


今夜2月23日放送の『MASKMEN』(テレビ東京系)では、グレープカンパニーのライブにX JAPANのToshiが登場しネタを披露するというサプライズが。一体なにがどうなっているのか。そして斎藤工とくっきーはお互い歩み寄るのか。

ちなみに、これまでのエンディングでは、斎藤工とくっきーがテラスで語り合う映像をバックにスタッフロールが流れていたが、今回はテラスに誰も座っていなかった。寂しい。二人が再び同じテーブルにつけばいいな、と思う。


(井上マサキ)
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