エミー賞主要5部門、ゴールデン・グローブ賞2部門受賞という話題作『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』は、ハードな内容とで、視聴者をぶん殴る。
賞レース総舐めドラマ「ハンドメイズ・テイル」配信スタート。予想したよりもっと凄い地獄

キリスト教原理主義に則った、強烈なディストピア


カナダの作家、マーガレット・アトウッドによる原作小説『侍女の物語』が発表されたのは1985年。アーサー・C・クラーク賞を受賞したベストセラーであり、1990年にも一度映画化されている。
2度目の映像化であり、2月28日よりhuluにて配信されるドラマ版は、原作から一歩も引かないストロングスタイルな作品だ。

舞台はかつてアメリカだった国家。キリスト教のファンダメンタリスト(原理主義者)によるクーデターでアメリカ政府は崩壊し、現在は「ギレアデ共和国」という名称に変わっている。市民は「目」と呼ばれる秘密警察によって監視され、少しでも逆らうと放射性廃棄物などの処理をする「コロニー」に送り込まれたり、処刑されて見せしめに死体を晒される。ポル・ポト派と文化大革命とキリスト教原理主義の悪魔合体みたいな国である。

そのキリスト教的価値観は生殖に関して大きな影響をおよぼす。
様々な原因によって白人の人口減少が著しいギレアデでは「再婚の夫婦および未婚の男女の性的交渉は全て違法」とされ、そのようなカップルの男性側は逮捕、女性は再教育を施された上で「侍女」となる。子供を産む能力を持った「侍女」は不妊のギレアデ政府高官(「司令官」と呼ばれる)の家に送り込まれ、代理母として健康な子供を産む任務に供される。制度の根拠は「『創世記』にそういう話があるから」である。

「侍女」たちは身分を示す赤いドレスを着せられ、他人から顔を隠すための白い覆いを頭に付けられ、「司令官」たちの家で暮らす。月に一度の「儀式」の日には「司令官」たちの妻の股の間に寝かされ、「司令官」から半ば強姦のように子作りの相手をさせられる(ちなみにギレアデでは「儀式」は神聖なものなので、当然全員服は着たまま。エロい雰囲気はご法度)。
「侍女」はかつての名前を奪われ、「オブ〇〇」(〇〇には「司令官」たちの名前が入る)と呼ばれる。「オブ」は所有を示す英語の「of」。彼女たちは名前もなく、産むためだけに「司令官」に所有されて生存を許され、産めなくなれば捨てられる。主人公オブフレッドは、そんな「侍女」たちの一人だ。


原作から逃げた要素一切なし! 『侍女の物語』本気の映像化


賞レース総舐めドラマ「ハンドメイズ・テイル」配信スタート。予想したよりもっと凄い地獄
赤いドレスと頭には白い「翼」をつけた「侍女」。この服装も原作通りだ

『ハンドメイズ・テイル』はオブフレッドの視点で進む物語だ。毎月子作りのためだけに行われる「儀式」の、誰が「目」かわからない疑心暗鬼、日常的に行われる処刑など、原作の要素をほぼ再現。
代用通貨を使った味気ない買い物や、首を吊られて壁に晒される異教徒や同性愛者など、暮らしぶりのディストピアっぷりもそのままだ。「侍女」は体を提供させられた上に子供はまだかと催促され、生理が来るたびに周囲は猛烈に落胆。おまけに健康な子供ができない限り「司令官」の正妻からは泥棒猫扱いだ。「侍女」なんかやりたくてやってるわけじゃないのに! 絶対にこんな状況にはなりたくない。

「侍女」の立場は弱い。どこに「目」が潜んでいるかわからないからうかつなことは言えないし、「司令官」の機嫌を損ねたり叛逆したりすれば即死だ。
読み書きすることすら許されないオブフレッドは機転だけで敵と味方を峻別しつつ、へこたれずになんとか生き抜いていく。

特に注目したいのは、カメラワークである。「司令官」の家の中でのオブフレッドの暮らしは基本的にカメラを固定して撮影されており、カッチリと決まった構図である。躍動感はゼロ。これが、退屈だけど気が抜けない、息がつまる雰囲気を伝える。一方でオブフレッドが過去の記憶を振り返るシーンなどは、手持ち撮影、躍動的で開放感がある。
見ててはっきりわかる。このように『ハンドメイズ・テイル』は抑圧と解放の落差を伝えようとする。途中からは「も、もうわかりました……勘弁してください……!」と言いそうになるくらい。

情け容赦のない世界観は原作通りだが、ストーリーは原作通りには進まない。原作を意識していると、3話あたりで「あれ? 展開ちょっと早くないですか……?」と先の展開が不安になる。ディストピアものであると同時に『ダウントン・アビー』のような特権階級の邸宅を舞台にしたドラマとして、一気に見てしまう新鮮なパワーがある。
そりゃエミー賞もゴールデン・グローブ賞も取るわけである。
賞レース総舐めドラマ「ハンドメイズ・テイル」配信スタート。予想したよりもっと凄い地獄
過去の性的暴行の経験を「自分のせいだ」と指弾しあう「侍女」たち。地獄だ……

この物語が扱っているのは、「女性、そして個人の尊厳」。ハリウッドでも大物プロデューサーや俳優らによるセクハラが次々に告発され、その動きは世界的に波及している。そんなタイミングに『ハンドメイズ・テイル』がぶつかったのは、どこまで偶然なのかわからない。

また、ギレアデ共和国の基本的なバックボーンはキリスト教原理主義である点も重要だろう。トランプ大統領の支持層にキリスト教保守の人々が含まれていることはよく知られている。彼らの存在が誰がアメリカの大統領になるかを左右した以上、原作が出版された1985年よりも『ハンドメイズ・テイル』の物語は切実である。

『ハンドメイズ・テイル』には現実世界の裏返しとしての寓意がある。「侍女」たちが直面する事態に比べて、我々の世界は本当にマシなのか? 取るに足りないように見えるセクハラと、「侍女」たちの苦痛は根底でつながっていないか? 
(しげる)
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◆Huluプレミア「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」シーズン1(全10話)
2月28日(水)から独占配信スタート、以降毎週水曜日に1話ずつ追加予定(字・吹)

(C)2017 MGM Television Entertainment Inc. and Relentless Productions LLC. All Rights Reserved. (C)2017 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.
クリエイター:ブルース・ミラー 監督:リード・モラーノ 原作:マーガレット・アトウッド 「侍女の物語」(早川書房)
出演:エリザベス・モス、イヴォンヌ・ストラホフスキー、ジョセフ・ファインズ、マックス・ミンゲラ、マデリーン・ブルーワー、アレクシス・ブレデル、アン・ダウト 他
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