岩田剛典の初主演ドラマ『崖っぷちホテル!』がスタートした。負債総額3億円、ダメスタッフの巣窟と化した老舗ホテルを舞台としたコメディで、キャッチフレーズは「『クセ』が凄すぎる!? 痛快シチュエーションコメディ」(HPより)。


第1話の視聴率は10.6%。同枠の前作『トドメの接吻』の平均視聴率が6.9%、前々作『今からあなたを脅迫します』の平均視聴率が6.1%だったことを考えると、上々の滑り出しだろう。
岩田剛典が可愛すぎる「崖っぷちホテル!」似た設定の「王様のレストラン」との最大の違いを考察
イラスト/Morimori no moRi

驚くほど不快なホテルマンたち


舞台は老舗ホテル「グランデ・インヴルサ」。かつては栄華を誇ったが、今は建物以外見る影もない。何が問題かというと、箱の中身、つまり働いている従業員だ。ちょっと公式サイトから引用してみよう。

「威厳0の新米総支配人」桜井佐那(戸田恵梨香)は自信喪失気味。「空気の読めない新人パティシエ」鳳来ハル(浜辺美波)はいつも空虚に騒がしい。「存在感0のウエイター」服部要蔵(佐伯大地)は忍者のように音もなく現れる。でも、このへんはまだマシなほう。

「英語しゃべれぬビビりベルマン」ピエール田中(チャド・マレーン)は英語が喋れないだけでなく、ホテルマンとしての基礎的なことができていない。「競艇狂いの総料理長」江口竜二(中村倫也)は、傲岸不遜で客に対しても信じられないぐらい態度が悪い。「元腕利き清掃員 現アメニティ泥棒」吉村尚美(西尾まり)は言語道断。
「24時間ほろ酔いのバー責任者」枝川梢(りょう)も店の酒を黙って飲んでいるなら泥棒と同じ。「絶賛横領疑惑?の副支配人」時貞正雄(渡辺いっけい)に至っては、客を見た目で差別したり、上得意客(松原理恵子)に対しても平気で「ハァ?」とか言う。

要するに、ものすごく不快なホテルマンたちなのだ。このホテル、たぶん実際に客として泊まると、すごく心にダメージを負うと思う。単に負債を抱えているとか、社会のはみだし者が集まっている意味でのダメさではない、もっとイヤーな感じが充満しているホテルなのだ。

ちなみに芸人組の「愚痴ばかりダラダラ清掃員」阿部長吉(宮川大輔)と「謎の強面フロントマン」大田原大志(くっきー)は今のところ、わりとまともなほうなのが面白い。

岩田剛典は「ディズニーの中の妖精さん」


そこにやってきたのが、いつも微笑みを絶やさない男・宇海直哉(岩田剛典)。彼の正体は一流ホテル「バリストンホテル東京」の副支配人。

客として宿泊しつつ、にこやかにホテルマンたちに注文をつけていく彼は、「グランデ・インヴルザ」について熟知しているだけでなく、かなり愛着がある様子。かつて「グランデ・インヴルザ」の名物だった、夕陽がプールの水面に反射して、光のゆらめきが建物じゅうを満たすという仕掛けも、宇海が演出してみせた。

時貞らの前でホテルマンたちのダメな部分をぶった切っていく宇海に、佐那は突然「ここで私たちと一緒に働いてください」と申し出る。そして、それを「いいですよ」とあっさり受託する宇海。けっこう唐突な展開だったのだが、宇海が「グランデ・インヴルザ」にやってきた目的、彼が持っていた大量のハガキなどの謎などは今後明かされていくだろう。


なお、「そんなワクワクすること、見逃せません」と言うとき、岩田が両手の2本指を頭の横でクイクイと折り曲げるポーズをとる様子がツイッターで「可愛い!」と拡散されていたが、あれはいわゆる「ダブルクォーテーションマーク(二重引用符)」のポーズ。「ワクワクする」の部分に皮肉めいた意味が込められているのだ。

しかし、役作りのイメージを「ディズニーの中の妖精さん」と語る岩田はたしかに大変可愛い。とても『HiGH&LOW』シリーズでコブラを演じていた男とは思えない。

『王様のレストラン』との大きな違い


設定が似ているため、三谷幸喜脚本の傑作ドラマ『王様のレストラン』、あるいは『王様のレストラン』に影響を与えたと思しき山田太一原作のドラマ『高原へいらっしゃい』と比較されることが多い。

『崖っぷちホテル!』はまだ始まったばかりなので、ストーリーに予測がつかない部分があるが、「崖っぷち」に陥っている店が「大逆転(グランデ・インヴルザ)」を目指すという意味では、設定だけでなく大筋でも似ることになるだろう。

ただ、ちょっと気になるのは、『崖っぷちホテル!』が「コメディ」であることを意識しすぎているのではないかということだ。公式サイトの「イントロダクション」には「日曜の喜劇はここにあり!」「痛快シチュエーションコメディ!」「笑って笑って、いつの間にやら感動する」などの文言が並んでいる。お笑い芸人を複数キャスティングしている意図もこのあたりにあるのだろう。

しかし、渡辺いっけいやりょうがコントめいた演技をしているシーンが続いたり、チャド・マレーンが盛大に転んだりするのだが、いわゆる「ギャグ」のシーンは一切ない。だから「面白げ」なのに笑えないのだ。ためしに『王様のレストラン』の1話を見返してみたら、役者たちは(多少大げさなところはあるが)至極まっとうに芝居をしていて、それでも笑える作りになっていた。


今後、どのように笑いどころを作っていくのかが『崖っぷちホテル!』の成否を決定づけるような気がする。「笑って笑って」がなければ「感動する」もない。くっきーが変顔をするだけでは笑えないよ。第2話は今夜10時30分から。
(大山くまお)

Huluにて配信中
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