芸人たちがお互いのプライドをかけて相手を笑わせ合う「密室笑わせ合いサバイバル」、『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』(Amazon Prime Video)。4月末よりシーズン5が始まった。

「放送コード無いんでしょ?」
シーズン5の参加者は、ジミー大西、千原ジュニア(千原兄弟)、ケンドーコバヤシ、陣内智則、たむらけんじ、ハリウッドザコシショウ、高橋茂雄(サバンナ)、秋山竜次(ロバート)、狩野英孝、山内健司(かまいたち)。
基本ルールはこれまでと同じ。制限時間6時間のあいだに「最後まで笑わない」かつ「最も相手を笑わせた」者が優勝。シーズン5からは新たに「助っ人システム」が導入され、各自一度だけ外部から「助っ人」を呼ぶことが可能になった。誰を呼んでいるかは参加者同士はもちろん、視聴者にも明かされていない。
記事執筆時点ではエピソード3までが配信され、番組内ではスタートから3時間ほど経過している。ジミー大西がイソジンを飲み、かまいたち山内が足をなめ、ロバート秋山が梅宮辰夫になるなど、激しい打ち合いが繰り広げられるなか、ザコシショウの手数が群を抜いて多いことに気づく。
ザコシショウは開始前のインタビューで「放送コード無いんでしょ?じゃ俺しかねぇでしょ?」と自信を覗かせていた。
ザコシ「攻める人と攻めない人いるじゃないですか。
その言葉に偽りなく、とにかく攻めるザコシショウ。「2兆個ある」とうそぶくモノマネレパートリーから、「誇張しすぎたPPAP」「誇張しすぎたPERFECT HUMAN」「誇張してないバイキング西村」「男梅」「ファミコン版北斗の拳でケンシロウが洞窟にはけるとき」など続けざまに繰り出していく。

ドキュメンタルで芸人が何か仕掛けようすると、どうしても「前置き」が必要になってしまう。小道具を身につけたり、ゲームを提案したり、集団芸に持っていったりなど、意図した笑いに持っていくまでに何らかのステップを踏みがちだ。
ザコシショウのモノマネは、こうした前置きを全て無視してしまう。体ひとつで表現することができ、時も場所も選ばない。急に「じゃぁ誇張しすぎた日馬富士いっとく?」と切り出したかと思えば、松居一代のモノマネで出前を頼もうとする。終いには、サバンナ高橋が話している最中にオナラまで放出する始末。
ザコシ「地上波のハリウッドザコシショウなんて10%もねぇよっていう。これぞクレイジー、ガイキチってのを見せてやりますよ」
松本人志も「独特の世界観持ってますから、下手したら下手しますよね……」と優勝の可能性に触れる。直後に「娘の彼氏だったら最悪ですけど」と付け加えるのも忘れなかった。
「選手」と「監督」のタッグマッチ
参加者の中でもう一人、千原ジュニアにも注目したい。ギャグやツッコミを得意とする、これまでのドキュメンタルのプレイヤーとは明らかにタイプが異なるジュニア。どんな戦い方をするか予測がつかないうえ、「小道具持ち込み可」にもかかわらず手ぶらで会場にやってきた。
かといって、ジュニアも体ひとつで笑いを取りにいくわけではない。紙コップ、マジックペン、インスタントカメラなどの小道具を「現地調達」し、機転を利かせてねじ込んでいく。なかでも最も有効な小道具が「人」。もっと言うなら「狩野英孝」だった。
例えば、全員で出前の寿司を食べる場面。ジミー大西が持ち込んだイソジンを取り上げ、「ロシアンイソジンする?」と提案する。醤油皿にイソジンを入れてみると、確かに醤油と見分けがつかない。そのまま隣の狩野英孝に「英孝ちゃんこれでいったらええんちゃう?」とイソジンで寿司を食べさせてしまう。一旦はロシアンルーレットを提案したが、リアクションで確実に笑いが取れる人物にフリ直している。
他にも、サバンナ高橋が持ち込んだ「師匠カルタ」の途中で「英孝ちゃん、次パッと引いて」と答えさせたり、ツッコミを間違えた陣内智則をいじったあと「なぁ狩野、どんな感じやった?」と真似させたりなど、狩野英孝にパスを出し続けるジュニア。いじることで輝く狩野と、ここでいけると判断できるジュニアの組合せは、まるで選手と監督のようでもある。

この「選手と監督」の関係、実はザコシショウにも当てはまる。ザコシショウは選手であり、監督はNSC11期生の同期・ケンドーコバヤシだ。
前述の「誇張しすぎたPERFECT HUMAN」や「ファミコン版北斗の拳」は、よく見るとケンコバが「あのモノマネやって」と直前に振っているのだ。2人の若手時代のナンパエピソードを披露したり、ザコシショウのタイガーステップに解説を加えたりなど、そっと背中を押している。ザコシショウが自分の子供(双子)に可愛い名前をつけているとツッコまれる場面では、
ザコシ「違う違う!(名前は)ヘッドハンターAとヘッドハンターBよ」
ケンコバ「それ、W★INGというプロレス団体に参加してた双子のプロレスラーや」
と、フォローも欠かさない。ザコシショウの手持ちのカードを熟知しているからこそ、適切な場所でその引き出しを開けることができるのだろう。
ただ、ずっと「監督」のポジションにいては優勝することはできない。脱落者が増えるのを待つか。自ら攻めに出るか。まだまだ駆け引きは続く。
(井上マサキ)