NHK総合の土曜ドラマ「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」(略称「やけ弁」。
しかし、第3話ではその後、田口がピンチに追いこまれ、高城の意に背くような行動をとってしまう。

あわや裁判沙汰。新米・田口はお呼びでない?
事の発端は、田口がスクールロイヤーとして派遣されている中学で起こった事故だ。バドミントン部の練習中、男子生徒の振ったラケットが、女子生徒の目に当ってしまい、失明こそ免れたものの視力低下は避けられないだろうというかなり深刻な事態となる。
事故発生時に体育館にいた同部の顧問代理の宇野(佐藤隆太)によれば、生徒たちには互いに距離を取り合うよう指導はしていたものの、男子生徒が悪ふざけしているうち、女子生徒と接触して事故が起きてしまったらしい。宇野に対しては同僚の教師から、男子生徒に注意はしなかったのかとの質問が出るが、彼はほかの生徒を指導していて気づかなかったと弁解する。
被害者生徒の保護者は、さっそく五十嵐という弁護士(安井順平)を雇って学校に送り込んできた。
だが、このあと事態は一転する。教務主任の三浦(田辺誠一)があらためてバドミントン部の生徒たちに話を聞いたところ、事故発生時、宇野が居眠りをしていたことが発覚。先の発言との食い違いを追及され、宇野はあっさり嘘をついていたことを認める。
これを受けて校長の倉守(小堺一機)は、宇野に学校をやめてもらうことで決着をつけようと判断する。だが、宇野が居眠りしていたのは、前回の第2話で描かれていたとおり、その前夜、母親を老人ホームに入れるため徹夜で作業をしていたためだ。そうせざるをえなかったのは、教師たちがろくに休みをとれないほどの過重労働にあることは間違いなく、学校側もけっして責任は免れまい。あまりの理不尽さに、田口は「トカゲのしっぽ切りだ!」と倉守校長を非難するも、のれんに腕押し、校長は笑みを浮かべながら「切って済むなら万々歳。幸い、宇野先生は非正規。
さっきまでの自信はどこへやら、自分の無力さを思い知らされ、ピンチに追いこまれた田口。そこへ追い打ちをかけるように、高城からこの案件から手を引くよう命じられてしまう。スクールロイヤーは本来、学校で起こったトラブルを仲裁するのが役目だが、訴訟の可能性が出てきた以上、上司である高城が対応することになったのだ。
「裁判には裁判を」奇策に出た田口だが……
納得のいかない田口は、考えた末、宇野に学校を訴えないかと持ちかける。唐突な申し入れに戸惑う宇野を、「保護者は宇野先生を、宇野先生は学校を、三つ巴でどこに本当の責任の所在があるのかはっきりさせるんですよ」と説得し、自分は実際には宇野の代理人にはなれないが、「先生の先生として」アドバイスしていくことを約束した。
こうして田口はさっそく学校を訴えるためデータを集め、ベテラン弁護士・小柴(井上順)に宇野の代理人になってくれるよう依頼する。法廷での小堺一機と井上順の化かし合い、これは見ごたえありそうと一瞬期待させるが、そういう三谷幸喜のコメディ的な展開にはならないのがこのドラマ。
裏で準備を進めていたにもかかわらず、田口が学校に行くと、学校を訴えるという話がすでに教務主任の三浦の知るところとなっていた。肝心の宇野が、やはり訴えることはできないと、学校をやめる決意を固めたためだ。けがをさせた生徒のことを考えれば、事態を早く収束させねばならない。そこで自分がすべての責任を負うことを決めた宇野。
高城と五十嵐のあいだでも、被害者と加害者両方の生徒にしこりを残さないよう、穏便に事を解決するため示談で手を打つことで話がまとまる。宇野が学校をやめる日、送別会の話も出たものの、夜になって生徒が万引きをして補導されたとの連絡が入り、多くの教師が出払ってしまう。宇野は結局、同僚の誰にも見送られないまま、ひとり学校をあとにする。最後に校舎を前に「教師になりたかったな……」とつぶやきながら。
前回のレビューにも書いたとおり、10年前のドラマ「ROOKIES」での熱血教師役が印象深い佐藤隆太だが、今春放送された「弟の夫」(NHK BSプレミアム)で演じた男手ひとつで娘を育てるバツイチ男といい、このドラマといい、中年の哀愁が似合う俳優になったとしみじみ感じさせる。
今週は生徒と教師のあいだで校則論争勃発か!?
それにしてもこのドラマ、学園物にしては生徒がちょっと置き去りになっていやしないかと思っていたところ、第3話の後半で、事故を起こした男子生徒が自責の念にかられ、放課後に教室で泣いているシーンが出てきた。そこへ三浦が入ってきて声をかけると、「君のせいじゃない」と励ます。普段は田口と対立してばかりで、ドラマにおいては憎まれ役の三浦だが、生徒に対しては宇野と同じく「いい先生」なのかもしれない。
宇野が学校を去った日、三浦が夜遅くに帰宅すると家は真っ暗で、誰もいない。テーブルの上には、妻の名前が先に書きこまれた離婚届が。
一方、そのころ、田口は悔しそうな表情で今夜も事務所でひとり、カップ麺をすすっていた。今回の挫折は彼にとってチャンスとなるのか。続く第4話の予告では、これまであまり前面に出てこなかった生徒たちと教師たちのあいだで校則をめぐり一騒動起きそうな気配。放送は今夜、「ブラタモリ」伊豆編のあと8時15分から。
(近藤正高)
※「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」はNHKオンデマンド(有料)でも配信あり