「週平均60時間もの長時間労働。しかも残業代なし。
『自主的活動』という名目の強制的な部活動地獄。休日手当にいたっては日当3,000円。完全なブラックな職場ですよ。しかもブラックの先にはブラックボックスがある。非正規教師の存在です」


NHK総合の土曜ドラマ「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」(略称「やけ弁」。夜8時15分~)。先週放送の第2話の劇中、主人公の新米弁護士・田口章太郎(神木隆之介)が、スクールロイヤーとして派遣された青葉第一中学がいかにブラックな職場か、所属する法律事務所の所長・高城(南果歩)に報告した。冒頭にあげたのは、そのときのセリフである。おそらく、ここにあがっているような労働状況は、ドラマのなかだけの話ではなく、きっと全国の多くの学校で実際に生じていることなのだろう。

従来の学園ドラマでは、こんなふうに教師の労働環境が取り沙汰されることなどなかった。先生たちは、昼も夜も生徒たちと向き合い、ときに激しくぶつかり合いながら問題を解決する。それが学園ドラマの王道だった。
それに対し「やけ弁」は「労働者としての教師」に着目したのだから画期的だ。
神木隆之介「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」学校はあまりにもブラック職場2話
イラスト/まつもとりえこ

「桃太郎」と「かちかち山」で大激論


従来の学園ドラマとの関連でいえば、第2話でクローズアップされた非正規教員・宇野を演じていたのが、かつてドラマ「ROOKIES」(2008年)の熱血教師役で注目された佐藤隆太ということに、キャスティングの妙を感じた。

宇野は教職に対し情熱を抱きながらも、仕事に忙殺されるあまり、正規教員採用試験の受験勉強ができないという悪循環に陥っている。しかも、母親を老人ホームに入れることが決まっていたのに、土日も部活の指導(吹奏楽部の副顧問)のため休めず、入所引っ越しが延び延びになっていた。ついには、老人ホーム側から今週中に入所できないなら次の希望者に回すとの通告を受ける。田口はこれを知って、校長の倉守(小堺一機)に、宇野が有給休暇をとれるよう交渉。このとき、新学期の忙しい時期に一人でも教員に抜けられては困ると、「時季変更権」を持ち出す校長に対し(小堺のタヌキぶりがハマっている)、田口は労働基準法を盾に、正論で押し通す。結局、教務主任の三浦(田辺誠一)が校長に、宇野には休んでもらうよう取りなしてその場は収まった。

話をまとめたのは三浦とはいえ、宇野の有給を勝ち取ったことにすっかり満足し、事務所で一人、自分へのご褒美を称して寿司をとる田口。だが、一夜明けて学校に赴くと、どういうわけか宇野が出勤している。聞けば、やはり学校を休むことはできないと思い、母親の入所作業は昨晩から徹夜で済ませたのだという。

産休の教師のためバドミントン部の代理顧問となっていた宇野は、この日の午後も体育館で生徒たちを指導していたが、いかにも眠たげ。それを眺める田口には、いたたまれない雰囲気が漂う。
そこへ三浦が現れる。田口が呼び出したのだ。

そもそも宇野が休めなかったのは、教務主任である三浦がリスクを承知で教師たちに過重労働をさせているためだ。そう考えた田口は、三浦に「あなたはリーダーに向いていない。ほかの先生たちのためにも教務主任をやめてもらえますか」と切り出す。

ここで田口はおとぎ話の『桃太郎』を引き合いに、犬・猿・キジをきび団子一つで働かせる桃太郎(これは田口が16歳のとき参加した模擬裁判で、桃太郎を有罪にしたという話がもとになっている)に三浦をたとえた。これに対し、三浦は学校を『かちかち山』の泥船になぞらえて反撃する。

「いまの学校が泥船だってことは自覚してますよ。でもだからといって、いますぐ誰かが新しい船をつくってくれるんですか? 私たち現場の教師たちができることは、一丸となって泥船の穴をふさぐことだ。泥船であっても生徒たちが乗っているかぎり沈ませるわけにはいかない。……間違ってます? 私のやってること?」

現状にもとづく三浦の反論に、田口はぐうの音も出ない。問題意識を共有しているにもかかわらず、理想を掲げて根本的な改善を追求する田口に対し、現場でそれをやるのは無理だとあきらめ、その場その場で問題を解決していくしかないと考える三浦。
ここまで考え方が違っては、話は平行線をたどるばかりだ。

こうして第1話から続く二人の対立が再燃したところへ、バドミントン部の生徒がけがをして倒れ、話は今夜放送の第3話へと続く。
神木隆之介「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」学校はあまりにもブラック職場2話
イラスト/まつもとりえこ

「ブラック化する学校」と「行き場を失った老人」問題は表裏一体?


そもそも学校の先生たちが過重労働を余儀なくされている要因の一つには、(第2話の三浦のセリフにもあったように)少子化を理由に教員の数が削減されていることがあげられる。

少子化の一方で年々増え続けているのが高齢者人口だ。第2話では、吹奏楽部の練習の音がうるさいと近隣の住民・長沼(渡辺哲)からクレームが入る。これに対し田口は“論破”したつもりだったが、後日、長沼はほかにも住民を集めて学校に怒鳴り込んできた。その面々は長沼以下、みな高齢男性ばかり。おそらく彼らは、定年退職したあと相手にしてくれる人がおらず、家以外に居場所がないのではないか。こういう人たちは往々にしてクレーマーになりがちだ。

長沼のエピソードは、行き場のない現在の日本の高齢者の反映ともいえる。思えば、宇野が母親を早急に老人ホームに入れなければならなかったのも、ほかにも入所を希望して待っている人がいるからだった。「少子化にともなう教師の数の削減によりブラック企業化する学校」問題は、「数が増えるにしたがい行き場を失う高齢者」の問題と、ある意味、表裏一体ともいえそうだ。

現実のスクールロイヤーに求められるもの


さて、ドラマで神木が演じるスクールロイヤーという制度についても少し調べてみた。
この制度は、アメリカなどでは以前から一般的で、日本でも近年、いじめや保護者とのトラブルなどについて法律的な助言を得るため、導入する自治体が増えている。文部科学省はこれをさらに広げようと、昨年度より大阪府箕面市と三重県を対象に、弁護士への委託費用を助成する事業を始め、その有効性について調査研究を行なっている。

独自に制度を導入した自治体では、すでに有効性を示すケースも伝えられる。東京都港区では、ある小学校で子供同士のけんかの対応に保護者が不満を抱き、訴訟の可能性にも言及したため、学校側が担当のスクールロイヤーに相談、助言を受けて事態収拾にいたったという(『日本経済新聞』2018年3月24日付)。ただし、実際にスクールロイヤーを務める弁護士に話を聞くと、現状では弁護士のなかに学校現場の事情にくわしい人はほとんどおらず、制度の拡大は時期尚早との意見もあるようだ(「ホウドウキョク」2017年9月11日)。

「学校の事情にくわしい」ことがスクールロイヤーの必須条件とすれば、ドラマで描かれているように、学校現場どころか本来のフィールドであるはずの法廷に立った経験すらない新米弁護士が、スクールロイヤーになるなんてことはありえない話だろう。

もちろん、ドラマはあくまでドラマである。学校の状況のおかしさを追及する役回りは、まっさらで、よくも悪くもまだ世間ずれしていない新米弁護士のほうがやはりふさわしいように思う。スクールロイヤーの仕事を通じて否応なしに現実に直面する田口が、今後どんなふうに成長していくかも気になるところだ。
(近藤正高)

※「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」はNHKオンデマンド(有料)でも配信あり
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