第6週「叫びたい!」第36回5月12日(土)放送より。
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二
36話はこんな話
律(佐藤健)は、同じマンションに住む、同じ西北大生・浅井正人(中村倫也)と出会う。
一方、鈴愛(永野芽郁)は、メシアシとして呼ばれただけで、漫画修業ができるわけではないことにショックを受け、とんでもない行動に出る。
「泣きたくないのですのです」
「こんなんに大切に育てたのに」「どこの羊の骨ともわかんないのの餌食になったら」
和子(原田知世)は律を心配する心の声を口に出して、律に指摘される。
いつもだとナレーション(風吹ジュン)が心情を語るが、ナレーションが入る間もないほど和子の感情は切実で、だだ溢れしてしまったのだろう。
そのほか、「あいよ」「泣きたくないのですのです」など、原田知世だから可愛いと思える台詞も飛び出した。
マンションの窓から、下の道路を歩く和子に「ありがと」と声をかける律。
颯爽と歩いていく原田知世の後ろ姿は、現役感(主役感)たっぷりだった。
ミレーヌ
律はワンレンボディコンと知り合いたいというオトコの欲望を秘めていた。そのためには鈴愛に岐阜のときのようにしょっちゅう来られては困ると。
そんな血気盛んな男の腹の上に子猫が乗っかる。どこから入ってきたのかと廊下に出て見ると、ワンレンボディコンの女が、芝居がかった台詞を吐いている。
愁嘆場を演じる相手の男に関して、ここはナレーションの登場だ。
「どんだけイケてるか・・・と思うとあれ そんなでもない?」
「半分寝ているような顔して そんなかっこいいこと(「別れ際はよく切れるナイフですぱっと」)」
これは、律の視点だと思うのだが、やはり「タジオ」と呼ばれた自負が彼にはあるのか。
半分寝ているような顔した(すごい言われよう)男は、浅井正人。北海道出身。
ミレーヌを肩に乗せたポーズが決まっていた。
「別れ際はよく切れるナイフですぱっと」とか「一文節だとなまりがばれない」とかなかなか策士な正人。
一文節をいくつか並べたあと、「一文節だとなまりがばれない」と嬉しそうに言う中村倫也が巧い。
「奇遇」「奇遇」ふふふ、と笑いあう中村と佐藤の間合いもよかった。
「なんかトレンディ・・・」(律)な部屋に住んでいる正人と律のこれからが気になる。
炭水化物要員
「秋風羽織は危険な香りよ」とアシスタント仲間の裕子(清野菜名)に忠告された鈴愛。
メシアシとして、朝から、秋風(豊川悦司)のお気に入りの大福を買いに行かされる。
大福はこれしか食べないとこだわりのある秋風だから、五平餅も、仙吉(中村雅俊)のつくったものにこだわり、鈴愛がようやくつくったそれを「どちゃくそまずい」「偽物だ」「(じいちゃんも)そのうち死ぬぞ 秘伝の技を伝えておかなくてどうする」などと言って捨ててしまう。
鈴愛は、自分が呼ばれたのは五平餅を再現するためだったことを知り、「私をだましましたね」と頭に血がのぼり、原稿を窓から捨てようとする。・・・で7週につづく。
鈴愛は「岐阜の猿」と呼ばれるだけあって言動が粗暴。「うそつき」とか「だました」とか世の欺瞞を暴き立て、ドラマに嵐を巻き起こしていくのだろう。鈴愛タイフーン って感じ。
アサイといえば
新キャラ・浅井正人。アサイといえば、岐阜県出身で、早稲田大学卒業の作家・朝井リョウを思い出す。
佐藤健は朝井の「何者」
が映画化された(監督、脚本は三浦大輔)とき、主演した。

直木賞受賞作
「何者」は、就職活動に勤しむ大学四年生たちが、一見、仲良さそうだが、内心では相手と自分を見比べながらどろどろした感情を抱いていることを描いたもの。Twitterの裏垢に本音を書く描写がリアルだった。
律が正人に抱いた感情(ナレーションが語る「そんなでもない?」「半分寝ているような」)も人に見せない律のちょっと黒い部分なのだろう。
北川悦吏子は、心の内面をじわじわあぶりだす系の物語が主流となってくる前の、心情直球系のドラマを得意としていた作家だが、「半分、青い。」では彼女なりにいまの時代に向き合い葛藤しながら書いているような気がする。饒舌なナレーションはそのトライのひとつかもしれない。
(木俣冬)