連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第7週「謝りたい!」第38回5月15日(火)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:土井祥平

38話はこんな話


アシスタント仲間の裕子(清野菜名)が口撃された鈴愛(永野芽郁)は即座に反撃。ボクテ(志尊淳)に止められる。


律と正人の運命の出会い


〈喫茶おもかげ〉でナポリタンを頬張りながら語らう律(佐藤健)と正人(中村倫也)。
正人がなぜモテるか語られる。
正人は犬を次々飼うように、女性も捨てることができない。
根本的に優しいのか、詭弁を弄しているのか・・・そこは視聴者の想像に委ねられる。

律「人間と犬が一緒はまずいんじゃないの」
正人「そっか 両方に愛あるよ 俺」

……うむ、ここだけ独立して聞くと、ちょっと違ったディープな意味にも思えてしまいそうな、なかなか含蓄のある会話である。

“犬”つながりで、中学時代、律が犬を助けた話が蘇る。
車に轢かれた犬を助けたことで律が受験できなかったことがあったが、犬を道路の脇に避難させていたのが正人だったことが判明する。
なんたる偶然。
北海道出身の正人が名古屋の高校を受けたわけは、叔父さんがそこの出身ですすめられて。そういうこともあるのだろう。

入学式したばかりでなぜこんなに正人が女遊びにふけっているのかそのわけもいつか説明されるだろうか。

鈴愛と裕子の争い


秋風ハウスで鈴愛が食事の合間にカケアミの練習に励んでいると、裕子が現れ、キツイことを言う。
カケアミ試験は、秋風(豊川悦司)がチャンスをくれたか引導を渡したか、鈴愛はチャンスととらえる。
お気楽であると。恵まれて育ってきてるんだねと。左耳が聞こえなくて苦労していると反論すると、だから甘やかされているのだと痛烈な批判。
これまで一部の視聴者が、鈴愛に感じていた気持ちを裕子が代弁した(「まれ」における「なめすぎ〜」の陶子みたいな存在)。

たぶん作家は、鈴愛の左耳が聞こえなくなったことでつらい気持ちを抱え続けているため、何かあると攻撃的になってしまうことをわかって書いている。
北川悦吏子の代表作「オレンジデイズ」(04年)を見ればそれがよくわかる。ヒロイン(柴咲コウ)はバイオリニストとしての才能がありながら失聴してしまったため、偽悪的な行動をとり、好きな男の子(妻夫木聡)に暴力的な言葉(手話)を投げつけるが、彼にはそれは彼女の気の遠くなるような孤独であることがわかるのだ。
ヒロインの母親役は「半分、青い。」のナレーション・風吹ジュン。彼女は、「オレンジデイズ」を経ているから鈴愛を見つめる役としてはぴったり。

「オレンジデイズ」ではヒロインの粗暴さと内面の苦悩がわかりやすく描かれているが、「半分、青い。」だとあえてなのかわかりにくい。1時間×3ヶ月の短期間の連続ドラマでなく、15分×半年の長いドラマだからこそ、ヒロインの心の葛藤と変化、成長をシュリンクしないで時間をかけて描いているのだろう。
いつなんどきでも笛を吹いて律を呼んでいたことの非常識さにもようやく気づきはじめた鈴愛。


犬の話も、ヒロインの失聴が人生にどう影響しているのかも、その因縁をどのタイミングでどう描いて、視聴者をあっと言わせるか、それこそが作家の腕の見せ所だ。

裕子のきつい批判も、彼女が正論なのではなく、彼女なりに何かあって、ああいう言い方になってしまっていることを、清野菜名の演技は伝えてくれる。さすが「トットちゃん!」で昼の帯ドラマの主演を張ってきただけあって、主人公を立てる側にまわることもできる頼もしさ。
それにしても、ボクテがいてくれてよかった。喧嘩の仲裁に入る志尊淳の冷静だけどきつくない口調が救い。
「半分、青い。」38話「人間と犬が一緒はまずいんじゃないの」「そっか両方に愛あるよ俺」
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元祖“朝ドラ”以上に“朝ドラ”ぽいという声もあった、黒柳徹子の半生を描いた、テレビ朝日制作の昼の帯ドラマ。清野菜名が黒柳徹子役に挑んだ。トットちゃんの母親役でW主演だったのが、「ゲゲゲの女房」のヒロインをとつめた松下奈緒。なんとなく因縁を感じる。

あと、豊川悦司のトボけた感じも。律と正人の会話をネタとしてメモっているとこがかわいい。
北川悦吏子の名作ドラマ「愛してると言ってくれ」(95年)で懸命に手話している演技は、その指の美しさと合わせて胸を打った。シリアスでもコメディでも、豊川悦司の伝える力が物語を救う。
(木俣冬)
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