連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第7週「謝りたい!」第39回5月16日(水)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:土井祥平

39話はこんな話


東京で、懸命にカケアミに励む鈴愛(永野芽郁)と、早くも女子との出会いに励む律(佐藤健)は、故郷のたまり場〈喫茶ともしび〉に似た〈喫茶おもかげ〉で再会・・・。

律と正人の運命の出会い


律(佐藤健)は大学の体育の授業で弓道を選択。いっしょに正人(中村倫也)も。

「律くんの心深くに あの出会いは宝石のように輝いていました」(ナレーション・風吹ジュン)と言われるように、律は14話で一目惚れした弓道部の少女(古畑星夏)のことをずっと想っていた。
律がながらく浮かない顔をしているように見えたのは、恋の憂いだったのか。

38話で、律が高校受験の日に助けた瀕死の犬を道の端に寄せていたのが正人だったというエピソードがあって、その必然性を問われながらもあえて入れたというようなことを北川悦吏子先生がTwitterで明かしていたが、律の高校のときの淡い想いのエピソードを振り返るために、高校時代のエピソードがもうひとつあったほうが良さそうだし、運命の出会いはある、という説得力にもなりそうだ。

おそらくだけれど「半分、青い。」は“運命”がテーマ(のひとつ)で、それをカケアミみたいに、コツコツと描いているのではないか。
鈴愛と律も〈喫茶おもかげ〉で偶然(運命?)の再会をするわけで・・・。

「どちゃくそ」とか「いっそ」とか「毒親」とか


「どちゃくそ」を連発する秋風(豊川悦司)。
「どちゃくそ」という言葉を誰が考えたのか知らないが、ネットで広まった言葉らしい。でも、「半分、青い。」では秋風が発し始めた言葉のようになってしまっている。
何十年後には、「半分、青い。」を資料にして、90年頃から使われていたなどと発言してしまう人もいるかもしれない。

くらもちふさこの漫画の一コマのきれいなカケアミも、鈴愛が描いたことになっている「半分、青い。」。
これが当時のくらもちふさこのアシスタントの仕事だとしたら、歳月を経て、鈴愛というキャラクターの仕事として自分の仕事がクローズアップされて嬉しいと思っているといいなあ。

「どちゃくそ」も気になるが、「いっそレトロで」(38話)「逆に。いっそ。
おしゃれみたいな」(39話)の「いっそ」も気になる。「いっそ」といえば、井上陽水の「いっそセレナーデ」(84年)を思い出す。
現実世界では、90年に高橋真梨子がカバーしている。

「半分、青い。」では、使用される言葉が、リアルに当時なもの、ちょっと現代のものと混在しているが、
「毒親」は、この時代にない言葉(概念)とナレーションが説明した。

朝ドラ革命の道 


律が東京へ行ってしまいすっかりしょげている和子(原田知世)に、「上京した子どもから頻繁に手紙来るのはNHK の朝ドラだけだから」となぐさめる晴(松雪泰子)。
「半分、青い。」の世界には、倉本聰(「前略おふくろ様」(75〜76年))は存在していないらしい。もっともこのドラマも第一話で一年便りがないと母が手紙で訴えているわけで。
「半分、青い。」39話「異論!反論!OBJECTION」的釣り餌なのだろうか
「前略おふくろ様」ブルーレイ バップ
70年代に放送された倉本聰脚本の名作ドラマ。萩原健一演じる主人公が、離れて暮らす母親に手紙を書く体裁でナレーションが入る。パート2(76〜77年)には風吹ジュンも出ている。

なにはともあれ、朝ドラで「朝ドラ」発言。朝ドラ革命への道なのか(これまでの朝ドラ革命らしきところは、主人公が胎児から登場したところ)。
ちょうど37話のレビューで、「リーガルハイ」で古沢良太が書いた「朝ドラのヒロインのようだ」という
台詞を紹介したように、他局ドラマの「朝ドラ」いじりはすでにあったが、本家本元のいじりは「ひよっこ」2話の「朝ドラにはへんなおじさんがよく出てきますよね、なんででしょうね」という増田明美のナレーション以来か。

ところで、晴と書いて思い出したが、晴の夫役滝藤賢一は、「花のち晴れ〜花男Next Season〜」(TBS 火曜よる10時〜)では、ヒロインの相手役・晴(はると)のお父さん役を演じている。読みは違うけれど、同じ「晴」という奇遇。
滝藤賢一がさすがと思うのは、「半分、青い。」では庶民的なお父さん、「花のち晴れ」ではクールな資産家のお父さんで、立ち居振る舞いからしてまるで違うところだ。


朝ドラ名物、翌日解決 


革命を巻き起こす一方で、朝ドラ伝統も守る「半分、青い。」
何か事が起こっても翌日解決するのは朝ドラあるある。
39話では、38話で鈴愛と大揉めしたユーコ(清野菜名)が一転、優しくなって、カケアミに丸ペンよりもスクールペンがいいと手渡す。
どうやら家庭に問題があり、家族が仲良さそうな鈴愛に苛立っているようで、また、秋風におしゃれな遊覧船ホワイエの撮影を頼まれた鈴愛に、違う船(ピンクの海賊船)がレアでいいとアドバイスしてしまったため、鈴愛が怒られた(結果的に、菱本(井川遥)が、ピンクの海賊船は若い女の子に人気ととりなす)ことも気にしているのだろう。

ユーコの今後も気になるが、ユーコもユーコで、「そろそろ半袖着たいし」と、それを取りに行くから用意してくださいと頼んでいるのか、送ってくださいと頼んでいるのかわからないが、仲良くない母に用事を頼んでいるのは、自立してないような気が・・・。でもそこもまた作家が仕掛けた「異論!反論!OBJECTION」的釣り餌なのだろうか。
拝啓、北川悦吏子先生、ギャグもメタも流行ネタも型破りな言動も、すべては我々視聴者の倫理観や教養を試していらっしゃるのでしょうか。
(木俣冬)
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