いよいよ今夜、最終回を迎える日本テレビの水曜ドラマ「正義のセ」(夜10時~)。このドラマでは主題歌を、主演の吉高由里子と同じ事務所(アミューズ)に所属する福山雅治が歌っている。
そのタイトルは「失敗学」。失敗学とは実在する学問で、「事故や失敗の原因を究明し、その失敗情報を分析・共有することで再発防止につなげようとする」ものだ(『情報・知識 imidas 2018』)。この歌でも、失敗を学びにできれば、また勝負できるということが歌われている。

本作の主人公の吉高演じる新米検事・竹村凛々子は、自分の信念を貫くあまり、ときには失敗もするが、けっしてくじけず、いつも前向きだった。だが、先週放送の第9話では、そんな彼女が検事になって以来最大の失敗をしてピンチに陥る。
吉高由里子「正義のセ」痴漢冤罪の危機9話。寺脇康文の役づくりの参照元はあの人?今夜最終回
イラスト/まつもとりえこ

凛々子を励まし、助けようとする同僚たち


凛々子がピンチに追いこまれた原因は、以前、担当した地下鉄車内での痴漢事件だった。この事件で彼女は被疑者の村井直陽(東幹久)を起訴したものの、あとになって真犯人として郷田(河野マサユキ)という男が逮捕されたのだ。

村井は取調べで素直に容疑を認め、しかもその手には被害者である女子高生の杉本菜月(森高愛)が通う学校の制服スカートの繊維が付着していたので、凛々子は確信をもって起訴に踏み切った。しかし、真犯人のDNAと、菜月の衣服から検出されたDNAが一致したことから、村井は無実と判断されたのである。

村井に対し、凛々子は事務官の相原勉(安田顕)、支部長の梅宮譲(寺脇康文)とともに謝罪するが、相手の怒りは収まらない。凛々子は検事になったとき、絶対に冤罪事件は出さないと心に誓っていたため、今回の失敗にすっかり落ち込んでしまう。

梅宮はそんな凛々子を叱責したりせず、これまでどおり仕事を続けるよう言い、相原をはじめ同僚の検事や事務官たちも、今回の取調べで凛々子に落ち度はなかったと励ます。ネットニュースで冤罪事件について知った家族も、彼女が帰宅すると、好きな料理を用意して待ってくれていた。


それでも凛々子はなかなか立ち直れず、一瞬、検事をやめようかとまで思い詰める。そこへ先輩検事の大塚仁志(三浦翔平)が別の地検にいる同期に頼んで捜査資料を入手してきて、彼女に新情報をもたらす。それによれば、先に逮捕された郷田は、インターネットの掲示板で人を募り、集団で痴漢を繰り返していたと供述したという。

さっそく凛々子が掲示板を確認すると、そこに村井らしきアカウントを見つける。どうやら彼は郷田たちと一緒に痴漢を繰り返していたらしい。しかし、郷田と同じ日に痴漢していたことを証明するには裏づけをとらねばならない。

ここで鉄道ファンである相原の勘が今回も発揮される。電車通学の生徒はIC定期券を持っているので、学校の最寄駅改札の通過履歴から被害者を割り出せばいいと思いついたのだ。さっそくデータを入手して学校に赴くと、リストアップされた生徒に片っ端から話を聞いていく。だが、生徒の多くが痴漢被害に遭っていたものの、肝心の事件のあったその日に遭ったという者はいなかった。

事件解決後、元カレと久々の再会


あきらめて学校を立ち去ろうとしていたところ、被害生徒の菜月に呼び止められ、事件のあった日以来、学校に来なくなった生徒がいると教えられる。坂下あゆみ(向井地美音)というその生徒にさっそく自宅まで会いに行くと、彼女は痴漢に遭ったことがショックで、電車に乗れなくなり、大好きだった制服も着られなくなってしまったという。凛々子は、あゆみに被害届を出して、しまいこんだ制服を証拠物として提出してほしいと頼むが、心に傷を負ったあゆみはなかなか踏み切れない。


その夜、職場に戻った凛々子のもとへ、あゆみが母(峯村リエ)を通じて被害届を出すことを決めたと連絡が入る。翌日、再び取調べに呼び出された村井は犯行を否定。被害者の制服から自分のDNAが検出されたと告げられても、「こんなこと、たいしたことないじゃないだろ」と逆ギレする始末。これに凛々子は思わず立ち上がり、「たいしたことなんです!」と一喝する。そして被害に遭ったあゆみが、いまだに苦しみ続けながらも勇気を振り絞って被害届を出したことを伝え、「一人の女性の将来が変わってしまうほどの大きな罪なんです」と、村井にきちんと反省するよう諌めるのだった。

事件を解決したあと、凛々子は元カレの中牟田優希(大野拓朗)から会えないかと久々に誘われる。優希もニュースで冤罪事件のことを知って心配していたのだ。無事に解決したことを知り安心した彼は、ニューヨークに転勤が決まったことを伝える。以前からの夢がかなうことに、一緒に喜ぶ凛々子。このあと、彼女は優希と破局したとき(第3話)と同じ場所で別れたが、あのときの泣き顔とは違い、晴れ晴れとした表情で帰路に就いた。

寺脇康文の役づくりの参照元はあの人?


第9話の予告を見た時点では、凛々子が冤罪となった元被疑者から名誉毀損で訴えられたり、ネットでの中傷など社会的にバッシングを受けたりといった展開を予想していたのだが、実際の放送では、地検に集まった記者たちが凛々子を追及する場面こそあったものの、描写としては控えめに感じた。むしろ、今回の話で強調されていたのは、冤罪を出してしまったという自責の念にさいなまれる凛々子の姿であり、彼女をフォローしようとする同僚や家族の姿だった。


それまでどちらかといえば背景的な存在だった支部長の梅宮も、ここへ来て前面に出てきた。部下に対しても物腰柔らかに接する梅宮は、どこか人気ドラマ「相棒」で水谷豊扮する刑事・杉下右京を思い起こさせる。梅宮を演じる寺脇康文は、「相棒」で右京の初代相棒・亀山役を務めていただけに、役づくりで参考にしたのかもしれない。ただし、完全に右京のコピーというわけではなく、リーダーとして部下を温かく見守るところなど、寺脇の持ち味を生かした部分も多い。第9話の終盤、あらためて反省の弁を述べる凛々子に、「今回のような経験を通して君はもっと強い検事になる――そんな気がするんだけど、君はどう思う?」が語りかける梅宮は、理想の上司そのものだった。

梅宮だけでなく、同期に頼んで新情報を入手してきた大塚といい、また、自分の行動に疑問を口にする凛々子に対し「あなたは自分のために戦ったことなんかありません、いつも被害者のために戦っています」と励ました相原といい、彼女を助けようとする同僚の描写は、他人の失敗に不寛容になりがちな昨今の社会に対するメッセージともとれた。

第9話では、被害者生徒を演じた森高愛と向井地美音の演技も印象に残った。「烈車戦隊トッキュウジャー」の天然系のヒロイン役でブレイクした森高だが、今回は勇気を出して被害者を告発し、凛々子たちの捜査に積極的に協力する役回りで、演技の幅を感じさせた。一方、AKB48の現役メンバーである向井地は、心の傷ついた少女という難しい役を好演していた。AKBからは、前田敦子や川栄李奈など俳優として活躍するOGも少なくないが、彼女もそれに続くのか。ついでながら、ちょうどAKBの選抜総選挙の投票期間中だけに、今回の出演が彼女の順位に影響するのかも気になるところである。

さて、「正義のセ」も今夜がついに最終回。
これまでレビューで何度か書いてきたように、キャストに朝ドラ出演経験者の多いこのドラマだが、最終回のゲストである落合モトキも岡本玲もそれぞれ「あまちゃん」「わろてんか」と過去に朝ドラに出演している。ちなみに岡本の役名は「笑子」。はたして凛々子たちは笑ってラストを迎えられるのか!?
(近藤正高)

【作品データ】
「正義のセ」第9話
原作:阿川佐和子『正義のセ』シリーズ(角川文庫)
脚本:梅田みか
音楽:得田真裕
主題歌:「失敗学」福山雅治(アミューズ/ユニバーサルJ)
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデュース:加藤正俊、鈴木香織
演出:明石広人

日テレ無料TADA!にて第9話配信中(6月13日21時59分まで)
Huluにて配信中
アマゾンプライムにて配信中
U-NEXTにて配信中
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