連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第11週「デビューしたい!」第63回6月14日(木)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:橋爪紳一朗

64話はこんな話


1992年、ユーコ(清野菜名)がデビューした。担当編集者もついた。
ファンレターも来た。
鈴愛(永野芽郁)は喜ぶが、ボクテ(志尊淳)はちょっと違っていて・・・。

秋風劇場


かつて担当編集に恵まれなかった秋風は、「才能の芽も水をやり良質な光を当てなければつぶれる」と考え、ユーコをそのまま編集者に預けることを拒み、自分で面倒見るという。

小劇場のような描き割り(それも漫画調)の貧乏アパート背景で、秋風のデビュー時の回想が綴られた。
たらいに水を入れて足を冷やしながら描いている(エアコンがないから)という70年代リアリティー。

◯スポ根で時代物でナンセンスギャグ すべてを取り入れるようと言う編集者。
「そんなん話めちゃめちゃになるやん」(秋風)
◯ほんとうは文学やりたかったという編集者。
男が少女漫画なんてと全否定。酔って本音を言ってしまう編集者。
◯僕ね、どうしても〜〜したい。最初のカットはこんなアングルで、と自分のイメージを押し付ける編集者。
「自分で描けば」(秋風)
◯この前別れた愛人の名前をキャラにつけようとする編集者。
◯ひとことで言ってテーマはなんですかね? などと聞く編集者。

◯定時で仕事を切り上げる編集者。

このへんは、編集者と仕事をしている多くの職業の人が「あるある」と頷いたに違いない。出版業に限らず、テレビ業界(プロデューサーと作家)にもありそう。
それにしても、秋風の雰囲気はどこからどう見ても少女漫画家ぽくなく、少年(青年)漫画家ぽい。このヒッピーみたいな感じでどうやったらくらもちふさこのおしゃれ漫画になるか想像がつかない。着ている服はおしゃれではあるが。
風貌的にどうしても柴田昌弘みたいな強いタッチの漫画が浮かんできてしまう。または、豊川がオッチョをすてきに演じた(森山未來とのコンビネーションとかすごく良かった)映画「20世紀少年」の原作者・浦沢直樹。
「半分、青い。」64話、秋風(豊川悦司)の70年代回想最高
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もっとも意外なことがあっていいのが創作物だから、それはそれでいい。しつこいが指がきれいなところだけは少女漫画作家としてのイメージを十分過ぎるほど守っている。あの指が、あのくらもちふさこタッチを生み出しているとは想像に難くない。

けなる〜い


編集者・楠木(清水伸)の差し入れを中庭で食べるボクテと鈴愛。
ユーコはそこにいなくて、ひとり寂しく食べている。
いつもつるんでいたのに、なんとなく距離ができてしまった3人。
「妬むよりは喜ぶでしょ」とボクテに言う鈴愛だが、ほんとうは「けなるいよ」(岐阜弁でいてもたってもられない)と告白。ふたりは「けなる〜い」と空に向かって叫ぶ。

それでも鈴愛は、実家にユーコのデビュー作の載った雑誌を三冊も送り、家族ぐるみで喜びを分かち合う。
宇太郎〈滝藤賢一〉は鈴愛がデビューしたら店の本棚を「鈴愛の本まるけ(だらけ)」にすると夢見る。

宇太郎の素朴な人の好さと、秋風の圧倒的なスター性が「半分、青い。」を底上げしている。

鈴愛はさらに、ユーコと一緒に雑誌をあちこち買いに走る。
「友達にいいいことあったら喜びたい そうしたら人生は2倍楽しくなる」(嫉妬したら半分になる)。

律がいない寂しさをユーコがいてくれて助かったと感謝する鈴愛。よかった、ユーコのありがたみをわかっていて。

みんなそれぞれ思うことがあって。

秋風は「先生、なにか人が変わったみたい」と菱本(井川遥)に言われ、
「一度は終わったと思った命だ。生き直したい。若い人たちと一緒に」と真面目なことを言う。
「実力がある。そしてがんばっている がんばっている者はむくわれる 私はそう信じている」とは珍しくいい話。

その頃、ボクテはおもかげで草萌書房の編集・黒崎(古澤裕介)と会っていた。
何か起こりそう(風吹ジュンの語りいわく「嵐の予感」)ですね。
ちなみに、黒崎役の古澤裕介の所属事務所のプロフィールの「本人からのひとこと」欄がすごい。
“負のオーラを放ち、歪んだ心情を吐露する異端の役者。
その歪な存在感は、見るものに不快感を与える。“
「ひよっこ」では135話、川本世津子(菅野美穂)を追う記者役で出ていた。

ユーコ担当編集役の清水伸は清野菜名と「やすらぎの郷」出演つながり。
(木俣冬)