前回の「ゴールデンカムイ」10話は、もう1人の主人公とも言える谷垣が、死んだマタギ・二瓶の猟師の魂を受け継いでスナイパー尾形と戦う、男の生きざまを描いたシリアス回だった。
今回は、杉元組(杉元・アシリパ(リは小文字)・白石)。
こっちの話はグルメ話(エゾシカのカレー!)と変態オンパレードに偏っていくのが「ゴールデンカムイ」流。
今回はアシリパの知り合いで元第7師団のキロランケが合流、札幌で一旦休憩する話だ。

当時は、アシリパの集落が近かった小樽の方が大きく、札幌は発展途上。鰊漁でガツンともうかった小樽の盛り上がりと違う、開拓拠点としての堅実な街並み。街の人の雰囲気や家の並びにこだわり、北海道各地の細かい差異を表現することで、ロードムービーとしてのクオリティをぐっと高くしている。
「ゴールデンカムイ」11話 ド、ド、ドリフの札幌殺人ホテル
9巻にしてようやく表紙になった、脱獄王白石。「ゴールデンカムイ」トップクラスの人気を誇る、へっぽこコメディリリーフにして、キーマン

殺人ホテルは実際にあったのか?


刺青人皮を追いかけて来た一行が泊まったのは「札幌世界ホテル」。妖艶な女将の家永カノが経営している、ハイカラな建物だ。
ここに、刺青持ちであり、土方歳三チームの牛山が泊まりに来たから大変。

・家永は刺青持ちの、女装した犯罪者。
・牛山は白石と面識がある。
・2人は化粧をしていない家永と、網走刑務所で面識がある。
・家永と牛山が刺青持ちなのは、杉元は知らない。
・家永は牛山の屈強な身体と、アシリパの目玉を手に入れたい。


「知っている」「知らない」の関係がややこしい。
複雑に入り組んだホテルを演劇のセットのように描写することで、彼らのすれ違いを表現。
家永「やばい! 白石が見つかる! 白石うしろー!」
白石が穴に落ちるわ、爆薬を投げるわ、牛山が家永の尻を追いかけるわ。
まんまドリフのコントだ。
そういや作中で、カレー食べながらアシリパさんと牛山がチ○ポの話を延々としていたけど、考えてみたらドリフで志村けんが「ぞうさん」の替え歌で「ちん○んも長いのよ」と歌って苦情が殺到していたなあ。

コミカルにまとまっているものの、起きている出来事はかなりシビア。
家永はやってきた宿泊客を次から次へと殺害して食べ、死体は跡形もなく消していく。真性サイコパスの話だ。

「殺人ホテル」という題材は、19世紀後半のアメリカのシカゴで実際にあった、と都市伝説化している。
レオナルド・ディカプリオが映画化権を購入している、ヘンリー・ハワード・ホームズの事件だ。
「ゴールデンカムイ」11話 ド、ド、ドリフの札幌殺人ホテル
H・H・ホームズの殺人とシカゴ万国博覧会の話をまとめたノンフィクション「悪魔と博覧会」

エリック・ラーソンの『悪魔と博覧会』では、シカゴ万博の盛り上がりと、その裏でホームズが数多くの人間を、ホテルの仕掛けにかけて殺した話が書かれている。

ホームズの建てた「ワールズ・フェアー・ホテル」は、からくり屋敷。

部屋の全てが隠し通路でつながっており、壁からこっそり入るためのスライド式の扉や、のぞき穴が仕込まれている。
ボタンを押すとガスが出てくる仕掛けがあり、あちこちに落とし穴も設置。
地下には拷問器具と解剖道具が完備されており、証拠を隠滅するために硫酸銅の水槽を用意。
いびつな構造のホテルを建築するにあたって、建設→中断→別の業者の建築→中断と繰り返しており、全体像が誰にもわからないようにしていたそうな。

……という話を、当時のゴシップだらけのパルプ・マガジンがこぞってネタにしたため、どこからどこまでが真実かわからないのが本当のところらしい。
殺した人数は確実なところで9人。いずれもホテル以外の場所での犯行だ。
なおホームズの自供が27名。噂では200名

いびつなホテル自体は写真も残っている。実在はしていたのは間違いない。
猟奇ネタはいつの時代だって、みんな大好物だ。


なおホームズのホテルの内部は、何者かによって爆破され、炎上している。
今回の札幌世界ホテルも、偶然ではあるものの、白石が落とした爆弾による爆発で幕を閉じた。
重い話にせずに、黒焦げドリフオチにまとめているのも、「ゴールデンカムイ」流。

同物同治


ホームズの殺人は保険金目当てなどの犯罪だったようだ。
しかし「ゴールデンカムイ」の家永は殺すのに明確な目的意識を持っていた。
彼が執着していたのは、完璧な自分
家永「牛山、鍛え続けてるあなたならわかるでしょ、若い頃は力強くて美しかった。他人から奪ってまで最高の自分にしがみついたの。あなたの完璧はいつだった?」

医者である家永は、年老いていく自分の身体に耐えきれず、少しでも維持し若返らせる方法を考えた。そこでたどり着いた答えが「同物同治」だ。

目が悪ければ目を食べる。腎臓が悪ければ腎臓を食べる、という中国の薬膳の考え方。

確かに内臓部分はビタミンやタンパク質、鉄分、亜鉛などが含まれているので、「内臓が疲れている時に内臓を食べる」というのは、食の知恵としては間違っていない。
しかし食べることで病気が治るわけではないし、ましてや食べたらその部位が若返る、なんてことはあるはずもない。

家永は同物同治の考え方に取り憑かれたことで、次々と人を殺して、食べた。
結果化粧はしているものの、白石が気づかないほどの美女になった。
効いているというよりは、極端なまでの執着が身体に影響を及ぼしている、という感じ。

「ゴールデンカムイ」に出てくる変態たちは、行動も見た目もコミカルで、かつ極悪人揃い。
ただ全員が美学や信念を持っており、そこにしがみつくことで生命を燃やし煌めいているから、どうにも憎めない。だから以前の「殺されたい」辺見のように、退場しても愛され続けているキャラもいる。
ち○ぽ先生こと牛山に救われた家永は、今後話を支える存在の1人になっていく。

にしても12話1クールだとすると次の話で終わり。
それだと女占い師が登場して、競馬回でラストになっちゃうんだけれども、そんな妙なところで区切るかなあ……? いやゴールデンカムイならヘンテコエンドもありなんだよなあ。
まずは12話を待ちたい。
まだ網走行きに出発する前段階、メインキャラ集結しきっていない段階だ。

(たまごまご)
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