連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第14週「羽ばたきたい!」第79回 7月2日(月)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二

79話はこんな話


鈴愛(永野芽郁)はボクテ(志尊淳)とユーコ(清野菜名)に手伝ってもらって漫画を描き始めたが、締め切りに間に合わなかった。途方に暮れる編集者に秋風(豊川悦司)が取り出したものは・・・。


仕事のスタンスその1ユーコ 引退してもう4年だ もう無理だよ


週明け、月曜日、鈴愛が最後の(?)漫画に挑むエピソードは各々の“仕事”に対するスタンスについて考えさせられるものでもあった。

まずユーコ。彼女は公私を切り分けている。
締め切りまであと5日。ボクテとユーコは毎日通って手伝うと言う。「逃げたやつ(ユーコ)に何がわかる」
「売れてるボクテは私を見て笑ってる。高見の見物や」などと鈴愛はあんなにひどいことを言ったのに。
「仲直りはいつでもできる」とユーコは言う。公私を分け、いまは締切までに原稿を書き上げることを優先しているのを感じる。
「この先どうしたらいいと思う?」と聞かれても「引退してもう4年だ もう無理だよ」と線引きもしっかり。
リングをおりた自分は迂闊なことを言えないというのもあるだろうし、この漫画に関しては鈴愛がひとりで始末しないといけないとわかっているのだろう。

鈴愛は追い詰められているので、今度はボクテに頼ろうとし、さらに秋風にも・・・でもハタと我に帰り「なんで止めないの? 私 この続きボクテに考えてもらってもいいの?」と聞く。
「今回だけ」「次から」と遠慮がちに言うユーコ。
「次なんてない」と自分で気づく鈴愛。このときのユーコのなんとも言えない表情がものすごく的を射ている。そう、もう、何も言えないし何もできない。鈴愛がひとりで責任をとるしかない。

寝ていて、暗闇を虫のように這いずり回り、蜃気楼のような夢を見る、輪郭がプリズムみたいになっているところが怖かった。
7月はじめの月曜の朝にこんな悪夢を放送することに関してNHK会長にご感想をぜひ伺いたい。

仕事のスタンスその2 鈴愛 描けなくなっちゃった


公私の線引ができているユーコに対して、鈴愛は公私の境がない。

朝、ひどいクマをつくった鈴愛に、律から電話がかかってくる(ブッチャーからケータイ番号を聞いた)。
大阪まで行ったことがバレたのかと思ったが、より子(石橋静河)は言ってないらしい。不幸中の幸い。
知ってたら、清(古畑星夏)のときのようにひどいことになっていたかも。
知らない律は、また心地のいいきれいな声でささやくのだ。
鈴愛は、これから律の乗る電車の色を聞くと、やたらといい声で「なんだその質問 夏虫色だよ」「そうだよ きれいな薄緑」と教える律。

でもそれだけ。
「バイバイ 律」
「バイバイ 鈴愛 頑張れよ」

あの夏の日の夏虫駅。歩道橋の緑が際立って目に迫ってくる。
「(律はもう)マグマ大使じゃない、笛を吹いても来てくれない」と本当の別れを感じる鈴愛。

「鈴愛 描けなくなっちゃった」
涙ぽろりをあまり長く映さず電車が出ていくカットに切り替えるタイミングが絶妙だった。

漫画の男の子が振り向いたところで描けなくなったのは、鈴愛の人生が漫画とリンクしているから。
彼女にとって漫画は仕事ではなく人生なのだと思う。
だから律が結婚してしまったいま男の子が振り向いた先が、描けない。

そもそも漫画の道をひらいてくれた(くらもちふさこの漫画を貸してくれたり、漫画を描くといいと言った)のも律だった。
考えてみたら律は鈴愛の「ロボットを発明しますように!!」という願いを叶え、鈴愛も律の影響の漫画を描こうとしていた。あゝそれなのにそれなのに。

仕事のスタンスその3 秋風 「代原があります」


仕事のスタンス、最後は秋風。彼は徹底したプロフェッショナルだ。

締切当日、昼前に来た編集者・吾妻(丸一太 日曜劇場によく出てる 「ブラックペアン」にも出てた)は
漫画ができていなくて悲鳴をあげる。
結局30ページのうち15ページしかできていなかった。
余談だが、この一連の流れを起きぬけに見ながら、漫画雑誌の編集経験もある身としては、事前に状況をチェックして、15ページしか無理そうなら16ページ(紙の取り都合的に15とか30は効率がよくないので)でなんとかまとめてもらい、残り16ページの代原を考えるか、完全に落として代原入れるかとか考える。編集長は台割(何ページに何が入るか雑誌全体の目次みたいなもの)も変更しないとならない。・・・などと自分だったらこう対処するということがどんどん頭に浮かんできてすっかり目が覚めた。

鈴愛は土下座するが、秋風が「代原があります」「私が描きました」と颯爽と。
鈴愛の「月が屋根に隠れる」を独自に描き上げていた。5日で誰にもアシスタントも頼まずたったひとりで。菱本(井川遥)に「落書きだ」とうそぶきながら。もうかっこ良すぎる。
自分が出版社に持ちかけた話だから自分で責任をとったのだ。これこそプロフェッショナルだと思う。


編集者は「それはもう願ったりかなったり。もともとうちがほしいのは秋風先生の原稿でして あっ」などと
無神経発言。「半分、青い。」にはいい編集者がひとりも出てこなかった気がする。教師に続き、編集者が敵として描かれている印象。なぜだ・・・。

鈴愛は、原案/楡野スズメ 作画/秋風羽織 と記された原稿を見て「先生と私の名前が並んでいる」と
感動する。気持ちはわかるが、そこか・・・。

ミステリーか


鈴愛が描いている漫画「いつか君に会える」は、離れ離れになっていた幼馴染のふたりが夏祭りに再会する話。
名前を呼ばれて振り返った男の子のアップからあとが鈴愛は描けない。
つぎの場所は神社、河原、歩道橋、トンネルの下・・・と鈴愛は頭を巡らす。
「無数にある選択肢のなかから次々と選び取っていく作業です」とナレーション(風吹ジュン)。
なんか、探偵や刑事が事件の真相を考えているみたいなシーンだった。

それにしても、神社、河原、歩道橋、トンネルの下・・・ドラマや映画のロケ地でよく見る場所ばかり。
というか定番。意外とないもんなんだなあと、ドラマの脚本を書くのも大変だろうなあ、としみじみ。
そういう意味で漫画は自由に理想の場所を描けてすばらしい(もちろん想像力とそれを形にする技量や資料を集める取材力とかも必要ですが)。

表紙は「オレンジデイズ」だった


秋風が描いた「月が屋根に隠れる」の表紙の元絵は、くらもちふさこの描いた、北川悦吏子のドラマ「オレンジデイズ」のノベライズの表紙だった。
レビュー20話[「半分、青い。」20話。少女漫画のレジェンド・くらもちふさこが秋風羽織の影武者という贅沢]、はじめて律が鈴愛に秋風羽織の漫画を貸した回で「オレンジデイズ」のことを紹介している。
「半分、青い。」79話。ロンバケの次は「オレンジデイズ」、北川悦吏子のセルフパロディが止まらない
ノベライズ「オレンジデイズ」 北川悦吏子/角川文庫 

65話の「ロングバケーション」のパロディといい、72話の「愛していると言ってくれ」のオマージュ的な駅の描写といい、この表紙の使い方といい、ちょいちょい脚本家のセルフパロディが入ってくるのは鈴愛のように“私”あっての作風なのか、ほかに違う意図があるのか(宣伝したい!とか)、気になる。
でもそれより秋風が鈴愛のネームからどんな漫画を描いたのかすごく気になる!! くらもちふさこ先生が描き下ろす神企画はないのか!
(木俣冬)
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