吉田秋生『BANANA FISH』(→公式サイト)がアニメ化されてしまった。
学生のころに読んだ脳内のバナナフィッシュのほうが500万倍凄いが、これはもうどうしようもない。

当時の妄想喚起力やら、いわゆる思い出補正的な凄さを、アニメで再現できるわけもない。
『バナナフィッシュ』は、吉田秋生の驚異的な憑依力をもってして、あの時代のエンタテインメントの業のようなものをすべて集約して我々の前に登場した。
だから、『バナナフィッシュ』を読みながら、『バナナフィッシュ』だけを読んでいたわけでなく、その前に吉田秋生が描いた『吉祥天女』やストレートに影響を与えている傑作『日出処の天子』といった作品を透かし見、さらに当時の時代の空気を作品のなかから嗅ぎ取り、絵のタッチの影響から大友克洋のかっこよさを召喚し、もっといえばアッシュがリヴァー・フェニックスで、奥村英二が野村宏伸で、というモデルにしたであろう人物を透視しながら、あの世界に没入していたのだ。
その歓喜。

その歓喜を知るものは、あれをアニメにするなんて考えないだろう。
観ないほうがいいに違いない。
きっと失望する。
と思いつつも、観てしまうのがファンのサガ。
思ってたのより良かった(最大級の賛辞)。
脳内の「バナナフィッシュ」のほうが500万倍凄いが、これはもうどうしようもない。アニメ化を歓ぶ
原作一巻

原作通りではないが、忠実。
ポリティカルにコレクトネスからはみ出したセリフは省略された。
だが、白ブタマービンがアッシュに「もう映画は撮らないのかい? 俺はお前のファンだったんだぜ」とゲスなことを言うシーン、「昔は仕事のたびにひーひー泣きわめいたもんだったが」というパパディノのセリフ(この直前に肩に手をかける嫌らしい動きはアニメならでは)などは生き残した、すごい。

枝葉の枝の細いところはカットされた(たとえば原作で7ページぐらいかけているワッツの自殺がらみのシーンはアニメでは一瞬。ドクターのところのミス・ブランデッシュは登場せず)が、そのおかげでアニメ的なテンポでぐいぐい進んだ。

『別冊少女コミック』の1985年5月号から1994年4月号に連載された作品で、ベトナム戦争が時代背景にある。
そのあたりをどうするだろうかと思っていたが、驚くことに「いま」にした。
「「刑事コジャック」みたいだ」というセリフは「『CSI NY』みたいだ」に変わった。
アッシュも英二くんもスマホを持ってる!
原作ではグリフィン・カーレンリースが行っていたのはベトナム戦争だったが、イラク戦争になった。

「栄光のベトナム帰還兵さ」というセリフは消えて、「イラクでたちの悪い薬にやられたって言ってたなあ」に変わった。

「人を…殺したことある」「…あるよ」のシーンの「重み」はアニメで観ることでより際立ったし、「せまいところへゴチャゴチャと…入ってきやがって!!」と言いながらのハイキックは動きがつくことでめちゃくちゃカッコよくなった。
正直に書こう。
アニメ版、すごい。
五百万点(俺にとっての原作漫画は五兆点なので)。
続きも観る。

このハイクオリティのまま描ききってほしい。楽しみです。
原作漫画を読んでない若者は、原作も読むよーに。

第二話は、今夜(2018/07/12)25:15からフジテレビで(→公式サイト)。
その1時間後よりAmazon Prime Videoにて独占配信

(米光一成)