8月3日(金)放送のドラマ10『透明なゆりかご』(NHK)第3話。
主人公の青田アオイ(清野果耶)は、高校の准看護学科に通いながら由比産婦人科で看護助手のアルバイトをしている。コミュニケーションが苦手で、いつも何かに怒っている妊婦・安部さおり(田畑智子)を恐れていた。
アオイや医師の由比(瀬戸康史)のちょっとした言葉にもさおりは苛立つ。その理由は何なのか、アオイは考えていた。

自分と家族のために怒り続ける強さと美しさ
3話で描かれたのは、何も信じられない世界で生きていく人のつらさ。
さおりの夫は、5ヶ月前に市民病院で急性虫垂炎(盲腸)の手術を受けた。虫垂炎の手術なんて失敗するわけがないし一週間程度で退院できると、さおりも夫も考えていただろう。しかし、まれに起きる合併症のため重度の低酸素脳症になってしまった。自分で体を動かすことも、呼吸することもできなくなった。意識はなく、それが回復する可能性はないという。
「安心してもらいたい」という意図で「大丈夫ですよ」と声をかけたアオイを、さおりは叱りつける。
さおり「あなた見習いよね? 国家資格も持っていない素人に、どうして大丈夫ってわかるの。だいたい、なんで見習いなんかに世話されなきゃなんないの」
アオイ「私は体温はかるだけですし、検尿のカップ渡すだけ……」
さおり「あんたが名前書き間違えたらどうするの? カップ取り違えたら? それで何かあったら誰が責任とるの?」
アオイ「いえ、そんなことは……」
さおり「起こらない? 100%? 絶対に?」
こういう人を病院で見かけたら、クレームおばさんだと思ってしまうかもしれない。怒るポイントを探している人に見える。実際、さおりは怒る理由を探していた。
夫に合併症が起きたのは、あまりにまれで防ぎようのないことだった。麻酔科医にも病院にも、落ち度はないという。さおりが求める情報は開示し、入院費もできるだけ負担なくすると言っていた。きっと、手は尽くしてくれたのだろう。でも、どうしてもそれを100%信用できないというさおりの苦しさ。

出産の日になるまで、アオイはさおりのことを理解したくて積極的に声をかけ続けた。そんなアオイに、陣痛がきたさおりは本音をこぼす。
さおり「悪くないんだってさ、病院も麻酔科医も。
医療事故とまでいかずとも、たとえば婦人科や産婦人科で嫌な思いをしたという体験談は、定期的にSNSで話題になっている。信用できない相手に自分の健康や身体を預けなければいけない屈辱や憤り。自分や家族の命や尊厳を人質に取られた感覚。
それでも、どんなに嫌でも私たちは病院を頼らなければ生きていけないことがある。
怒っている人をことさらに嫌い腫れ物のように扱う人や、ポジティブなものだけに価値があると言う人がいる。しかし、さおりのように理不尽に対して怒り続けることは、自分と家族の尊厳を守ることでもある。
「私は、怒り続けたまま生きていくの」と覚悟を決め、目を見開いて前を見るさおりは、強く美しかった。
命について静かに考えるきっかけに
3話では、アオイとアオイの母・史香(酒井若菜)の関係についても描かれた。
さおりに叱られたことで、アオイは幼い頃に史香に「こんなことして恥ずかしいと思わないの!?」と怒られたことを思い出す。
アルバイトをして初めての給与で史香をおしゃれなカフェに連れて行ったアオイ。会話をしながらテーブルを拭くことについ集中してしまう。その手に触れようとした史香の手を、アオイは反射的に避ける。母親に厳しく怒られた記憶が、まだ消えないのだ。
それでも、病院でさおりと接したことでアオイは少しだけ考えを変えた。
アオイ「でも、人が怒ることには絶対理由があるんだよ。
さおりと、過去の史香と、2人の姿がアオイの頭の中にあったに違いない。怒る人にただ怯えるのではなく、理解したいと思うようになった。
「産婦人科で命を見つめる」という本作のテーマは、アオイが生まれてくる赤ちゃんやその母親たちを見ることだと思っていた。でも、まだはっきりと描かれたわけではないけれど、その見つめる命の中にはアオイ自身の命も含まれていることがわかった。
産婦人科編とアオイの過去編が分かれているのではなく、産婦人科でのストーリーに一本の糸を編み足すようにしている構成。過去の謎を煽らず、アオイが考えるペースを見守っているような絶妙な落ち着きがある。
もうすぐお盆のシーズンがやってくる。短い夏の夜に、自分と誰かの命について考える手がかりとして、アオイの物語を静かに待ちたい。
第4話は、今夜10時から放送。
(むらたえりか)
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・ U-NEXT
・NHK オンデマンド
▼作品情報▼
ドラマ10『透明なゆりかご』(NHK)
毎週金曜よる10時〜
出演:清野果耶、瀬戸康史、酒井若菜、マイコ、葉山奨之、水川あさみ、原田美枝子
原作:沖田×華『透明なゆりかご〜産婦人科医院看護師見習い日記〜』1巻(講談社Kissコミックス)
脚本:安達奈緒子
音楽:清水靖晃
主題歌:Chara「せつないもの」