これと似たようなことが、テレビ朝日の木曜ドラマ「ハゲタカ」(夜9時〜)のあと、CMをまたがずに始まる「報道ステーション」でも時々ある(“木ドラ受け”“ハゲタカ受け”とでも呼ぼうか)。

電機メーカー株をめぐる熾烈な争奪戦!
その先週放送の「ハゲタカ」第5話の冒頭、外資系ファンド「ホライズンジャパン・パートナーズ」を追われた鷲津は、一緒についてきた佐伯(杉本哲太)や中延(光石研)らと新たに「サムライファンド」を立ち上げる。
サムライファンドの目下の敵は、滝本(高嶋政伸)率いるPCメーカー「ファインTD」だ。経営難に陥った電機メーカー「あけぼの」を買収するべく、アメリカの軍需産業ファンド「プラザ・グループ」と組んだファインに対抗して、鷲津は友好的買収を行なうホワイトナイトに名乗りを上げていた。
ファインとプラザが狙うのは、あけぼののレーダー技術である。そのため、あけぼのの再生担当執行役員の芝野(渡部篤郎)は社長の諸星(筒井道隆)とともに、レーダー開発部門の売却を検討する。だが、二人が同部門の従業員たちに直接そのことを伝えると、反発の声が上がる。レーダー開発部門は、会長の新見(竜雷太)肝煎りの部署であり、諸星にとっては古巣であった。それだけに、元上司である部長の中尾(菅原大吉)からは「あけぼのを支えてきた部署を身売りするなんて恥ずかしくないのか」とまで言われてしまう。それでも諸星は従業員たちにあくまで真摯に向き合おうとする。
一方、滝本は諸星・芝野と折り合いの悪い新見に接近する。滝本は、自分ならあけぼのの名を傷つけずにレーダー技術をプラザに譲り渡すことができると、新見にファインとの経営統合を言葉巧みに誘いかけるのだった。
このあと、シンガポールであけぼの製のホストコンピュータが一斉ダウンするという事態が起きる。どうやらプラザの差し金か、外部からのハッキングが原因らしい。おかげであけぼのの株は暴落。そのなかでファインとサムライファンドは、あけぼの株の争奪戦を繰り広げることになった。
しかしプラザから潤沢な資金を得ているファインに、サムライファンドは一歩およばない。そこへあけぼののレーダー開発部長の中尾が、芝野に連れられて鷲津たちのもとに現れる。芝野から事情をすべて伝えられた中尾は、社員たちの持つ自社株をとりまとめてサムライファンドに売ると約束した。
勝負のためにはかつての宿敵に助けを求めることも辞さず
鷲津のほうでも秘策を用意していた。それは、政府系機関の「日本ルネッサンス機構」に、あけぼののレーダー部門を買い取ってもらうという案だ。政府系機関であれば、プラザもおいそれと手を出せまいという判断である。そのために彼が面会を求めたのは、何と、元三葉銀行の大番頭・飯島(小林薫)。9年前、鷲津が隠し口座の存在を暴露したことで三葉から追われた飯島は、もはや政財界には戻れないと言われていたが、見事に復帰を果たし、日本ルネッサンス機構の“裏の総裁”にまでなっていた。第3話で鷲津から「あなたはまだ生きている」と言われたのが、のちのち励みになったのか。
これと並行して、ファインの滝本も裏で動き、ついに新見を口説き落とす(最終的に新見を行きつけのマッサージに連れて行って話をつけたのが、何だかえげつない)。ファインとの統合を決めた新見は、あけぼのの重役会議で諸星を社長から解任してしまう。当然、芝野もお役御免だ。
それでも芝野は最後まで引き下がらなかった。新見に向かって「会社を私物化して恥ずかしくないんですか。社員を家族だと言いながら、その信頼にあぐらをかいて、会社を瀕死の状態にしていることを自覚してるんですか。権力と名声に振り回されてる自分の醜さを理解してるんですか!」と捲し立てたあげく、「はっきり言います。この会社をだめにしたのは、あなたです。あなたにあけぼのの未来をつくることはできません!」と断言する。これには新見も体を震わせながら「口を慎め」と言うのが精いっぱいだった。図星を指されたからだろう。
だが、芝野の抵抗もむなしく、あけぼのはファインとの統合に向けて動き出す。その矢先、中尾が病に倒れてしまう。芝野と諸星が病院に駆けつけると、鷲津も現れ、「まだ手はある」と告げた。彼が打った手は、サムライファンドのあけぼのに対するTOB(株式公開買い付け)だ。記者会見にのぞんだ鷲津は、「このTOBはあけぼのとファインの統合に異議を申し立てるため、ひいてはあけぼの従業員のみなさん、株主のみなさんを代表し、現経営陣に対してNOを突きつけるために行なうものです」と訴え、さらに「このTOBは、あけぼのにとってたしかな選択とは何かを問う戦い。いくさです」と宣戦布告するのだった。
かつての部下の鷲津への意趣返し
第5話では、あけぼの株の争奪戦のかたわら、鷲津をホライズンジャパンから解雇して社長となったアラン(池内博之)が、松平貴子(沢尻エリカ)の経営する日光みやびホテルの株式を売却してしまう。
鷲津は、みやびホテルの株を含め自分がホライズンの社長時代に手がけた株式を買い取るため、アランと契約を結ぼうとしていた。しかしその矢先、アランはあろうことか、鷲津の目の前で貴子に電話をかけると、みやびホテルの株は売ってしまったと伝える。もちろん、その目的は鷲津への意趣返ししかなかった。何の利益にもならないアランの行動に、鷲津は「このビジネスに勝者はいない」と吐き捨てるように、その場を立ち去る。
社員を味方につけてファインに立ち向かう
前回のレビューで、第2部の展開を「真田丸」にたとえてみたが、第5話では終盤で鷲津が「いくさです」と宣言したりと、本当に大河ドラマのごとき様相を呈してきた。まさに「盛り上がってまいりました」という感じだ。
そんな第5話でいい味を出していたのが、菅原大吉演じるあけぼののレーダー開発部長の中尾である(ちなみに菅原は11年前のNHK版「ハゲタカ」にも出演している)。芝野と社長の諸星がレーダー部門を売却すると伝えたとき、真っ向から反論した中尾だが、その後、彼らに協力するため、社員たちから自社株をとりまとめてサムライファンドに提供する。寡黙だが、きちんと話せばわかってくれる実直な人柄をうかがわせた。考えてみれば、経営陣から会社を奪うため、現場の従業員を味方につけるというやり方は、第1部で鷲津が太陽ベッドを買収したときと同じだ。
原作では、鷲津が買収先の企業の従業員とかかわる描写はほとんど出てこないにもかかわらず、今回のドラマではそのあたりがことさらに強調される。おそらくそのほうが見ているサラリーマン層の共感が得られやすいからだろう。この点は最近のTBS「日曜劇場」の傾向と重なる。そういえば、第5話に出てきたレーダー開発部門の従業員のなかには、「日曜劇場」枠のドラマ「陸王」で足袋メーカー・こはぜ屋の社員のヤスを演じていた内村遥の姿もあった。
ドラマはここへ来て、鷲津がホライズンを解雇されたのに続き、芝野があけぼのの執行役員を解任され、日光みやびホテルの貴子もホライズンが持っていた大量の株を売却されてしまい危機に陥る。それでも鷲津はサムライファンドを立ち上げ、芝野も鷲津とともにあけぼの旧経営陣に対しNOを突きつけ、TOBにより経営権を取り戻そうとしている。
(近藤正高)
【作品データ】
「ハゲタカ」
原作:真山仁『ハゲタカ』、『ハゲタカII』(講談社文庫)
脚本:古家和尚
監督:和泉聖治ほか
音楽:富貴晴美
主題歌:Mr.Children「SINGLES」
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:中川慎子(テレビ朝日) 下山潤(ジャンゴフィルム)
※各話、放送後にテレ朝動画にて期間限定で無料配信中
※auビデオパスでは第1話〜最新話まで見放題