8月17日(金)放送のドラマ10『透明なゆりかご』(NHK)。
ドラマの舞台である1997年よりさらに9年前、産婦人科医の由比(瀬戸康史)と看護師の榊(原田美枝子)は14歳の妊婦・北野真理(花田優里音)と出会った。

14歳の妊娠、出産、その後
今回は、1997年とその9年前の2つの時代が交錯した。
アオイ(清原果耶)は、由比産婦人科に向かう途中で男の子・明(込江大牙)と知り合う。明は、9年前に由比のもとで生まれた赤ちゃんだった。
真理は、9年前に由比が勤めていた港南医大付属病院で明を産んだ。当時、真理は14歳。父親にあたる男性・ナオキは大学教授であることを自称していた。しかし、大人たちが真理とナオキのツーショット写真を見たところ、どう考えても真理が嘘をつかれ騙されているとしか思えなかった。
もちろん真理の父母は出産に反対する。それでも産みたいという真理には、ナオキを信じていることの他に父母の意見に従いたくない理由があった。
真理「やだ! みんな堕ろすのが当たり前だと思ってるんでしょ。どうせ育てられない、なかったことにしてやるのが一番良いって。
真理の父「そんな言い方するな。お前のためだ」
真理「うそ! 恥ずかしいって思ってるんでしょ。パパもママも、本当は私のことなんて考えてない。パパは面倒が嫌なだけ。ママは賢くて勉強のできる自慢の娘がほしいだけ。それが私のため? 違うよ。私は赤ちゃんと一緒に、大好きな人と一生愛し合って生きていくの。それが私の幸せなの!」
これは、「尊重すべきこどもの意思」と受け取ることもできるし、「こどもの屁理屈」と取ることもできる。
赤ちゃんは殺されたほうが幸せか。真理の息子・明は9歳になっても健康で真理に愛されて生きているが、それは結果論だ。産む前、あるいは中絶する前に、赤ちゃんが不幸かどうかは判断できない。
また、「ママは賢くて勉強のできる自慢の娘がほしいだけ」は違うということが、明によって最後に示唆される。
インターネット上でも創作物でも、こどもが真理をついた発言をして大人がハッとさせられるシチュエーションはよくあるし人気だ。しかし、大人がするべきなのは、こどもたちの発言をそのまま受け取ることではない。それは、こどもの意思を尊重することにはならない。
真理の母・弘子(長野里美)は、「ママは賢くて勉強のできる自慢の娘がほしいだけ」と言われたことをそのまま受け入れたわけではなかったのではないか。
弘子が反省したのは、真理にそんな風に思わせてしまっていた自分の態度だ。親の愛情を上手く受け取れていなかった真理への態度を反省し、弘子は真理を自立させることを決意した。
今回登場した真理は本当に「こどもらしく」描かれていた。普通のこどもとしての真理が存在していたおかげで、こどもは大人をハッとさせてくれるために存在しているのではないことがよくわかる。妊娠できる身体を持っていたとしても、14歳は大人ではなくこどもなのだ。
また、多くの困難に出会いながら母になる真理を普通のこどもとして描いたことで、大人でありながらこどもを騙し何の責任も取らないナオキのような男性の非道さが一層際立っていた。
命が生まれる意味、消える意味
時は進み、1997年。真理(清水くるみ)とその息子・明が由比産婦人科を訪ねてきた。
望月「今日、駅で貧血で倒れたんだよ。お母さん無理して病気にでもなったら」
明「ばあちゃんみたいになる」
望月「そうなったら、きみもつらいでしょ」
明「なんで? そんなの俺のせいじゃないじゃん」
望月「あのね」
明「ばあちゃんが死んだのだって、母ちゃんのせいじゃない」
望月「どうしてそう思うの?」
明「だって母ちゃん、俺のこと好きだもん。世の中で一番俺のことが大事。それだけはわかる。だから、ばあちゃんも母ちゃんのことが一番大事だったんだと思う。好きだから頑張ったんだと思う。それで死んでも、ばあちゃんは母ちゃんのせいだなんてぜってえ思わねえ」
弘子は、真理と明のために収入を増やそうと働き、倒れてそのまま亡くなっていた。それを聞いたアオイは「真理さんのお母さんは、自分がいなくなることで真理さんを大人にしたのかもしれない」と考える。
でも、それは結果論に過ぎない。突然倒れた弘子は自分で「真理を母親にするために死のう」と思っていたわけではないだろう。
明が真理、真理の父母、由比、榊らの思いに後押しされて生まれてきたように、命の誕生には母親だけでなくたくさんの人の思いがそのまま集まる。
命が消えるときには、本来は何か特別な意味があるわけでないのに、残された人が生きていくために必要なように意味をつけてしまうことがある。アオイの想像も明の断言も、本当のところはわからないのだ。
第6話は、今夜10時から放送予定。
(むらたえりか)
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▼作品情報▼
ドラマ10『透明なゆりかご』(NHK)
毎週金曜よる10時〜
出演:清野果耶、瀬戸康史、酒井若菜、マイコ、葉山奨之、水川あさみ、原田美枝子
原作:沖田×華『透明なゆりかご〜産婦人科医院看護師見習い日記〜』1巻(講談社Kissコミックス)
脚本:安達奈緒子
音楽:清水靖晃
主題歌:Chara「せつないもの」