8月22日放送の7話で第2章に突入した『高嶺の花』(日本テレビ系)。(関連)
「高嶺の花」峯田和伸の無償の愛にとどめを刺された石原さとみ。結局は小日向文世が裏に7話
ドラマ「高嶺の花」 オリジナル・サウンドトラック/バップ

6話では「罪悪感」という言葉が飛び交っていたが、今回フィーチャーされたのは「ゲインロス」なるワードだ。


峯田和伸が計算高い


「ゲインロス」とは、心理学用語。「ゲイン」は獲得、「ロス」は損失を指す。簡単に言うと、獲得(プラス)と損失(マイナス)の変化量が大きいほど、人の心に与える影響が大きくなる効果のことだ。

前回のレビューでは、結婚式から逃げる月島もも(石原さとみ)に風間直人(峯田和伸)が見せた笑顔の意味を探ったが、冒頭でいきなり直人本人が種明かしをした。
「俺は彼女(もも)にどういう印象だったと思う? ただのお人好しっていうか、まあ、良くてその程度だろう。イケメンでもないし、金もない。それが、裏切られてショックですげえ悲しい顔したら想像通りだろ?」
「『なんで、こんな時に笑うの?』『悲しくないの?』『まさか余裕なの?』、つまり俺はゲインロスで劇的な印象を与えて、彼女の心に種を撒いてしまったんだ」
「俺は、いずれ彼女に忘れられちゃうことが、あの瞬間耐えられなくなった。だから、種を撒いちゃったんだ」

プーさん、計算高い! ゲインロスを駆使し、ももの心に傷跡を残そうとしたのだ。でも、計算だけでは済まなかった。携帯の将棋ゲームでレベル99に到達し、勝率は100%。先を読む才に長ける直人は、理性で物事を進めたはずだった。ももが生けた花の花びらがポロポロ落ちている。それらを集めながら、頬を伝う涙に気付く直人。

「何、これ? 嘘でしょ(笑)」
嗚咽が止まらなくなる直人。「中2以来、傷ついたことはない」と言っていたのに、ももとの別れには傷ついていた。直人は成長し、ちゃんと自分の物語を生きていた。

「そこ……笑うとこじゃねえから!」(もも)
ももはの心には、傷跡がまんまと残った。種を撒かれ、プーさんが気になって仕方なくなる。罪悪感の獲得(ゲイン)どころか、直人を失った損失(ロス)のほうが遥かに大きかった。

ももは、風間らが集うスナック喫茶へ足を運んだ。アクアマリンの指輪を返すという理由をつけていたものの、それより「プーさんに会いたい」の感情が大きいのは明らかだ。直人は、ももの建前を受け止めた。
「あなたは、高嶺の花。どこかで綺麗に咲いててくれるだけで、生きててくれるだけでいいんです」(直人)
「生きててくれるだけでいい」という愛に包まれたことが、ももにはない。父・市松(小日向文世)はもも覚醒のために結婚を壊し、しかも、ももよりなな(芳根京子)を後継者の本命と考えている節さえある。
そんな彼女に放たれた無償の愛。式から逃げた側のももが、愛でとどめを刺された。直人の撒いた種に花が咲いた。

一人になり、帰りの車中で号泣するもも。直人→ももより、もも→直人の恋心のほうが大きいように感じる。直人を忘れられないももがフラれた側のように見える。罪悪感どころか、ももの心には未練しか残っていない。

ななに遅れを取るもも


ももと対称的なのは、ななだ。

ももが惹かれる宇都宮龍一(千葉雄大)の正体が明らかになった。彼は、京都にある華道界の名門・神宮流の家元と愛人との間に生まれた婚外子。龍一は次期家元候補・兵馬(大貫勇輔)への敵意を剥き出しにする。
「卑怯者はあいつだ! 本妻の子というだけで、何不自由なく贅沢してきたんだ。俺と母さんがどんなひどい暮らししてきたと思ってる。
何が伝統文化だ。そうした世界の連中が芸術家気取りで、何人の隠し子がはした金で黙殺されてきたかわかるか!」

兵馬は華道の才に溢れている。ももが「もう一人の自分」が見えず苦悩していることを瞬時に見抜いた。
「あれは怪物だなあ。久々に華道界に現れたモンスターだ」(市松)
天才の兄にコンプレックスを抱く弟と、才能に恵まれた姉に負い目を抱く妹。似たもの同士の龍一とななは、いつしか惹かれ合っていた。

手段を選ばない市松は、妻のルリ子(戸田菜穂)とSEXしている現場にななを鉢合わせさせるよう龍一に命じた。

龍一 彼女は……ななさんはショックで壊れてしまうかもしれない。
市松 それでいい。この世の汚れを知らぬ者に、この世の美しさがわかるはずもない。

そして、目論見通りに現場を目撃するなな。自分の好きな男が女を抱き、しかもその相手が母。
母親が浮気をしていて、しかも相手は自分が好きな男。市松の望み通り、ななは闇落ちした。

市松 悲しいことだが、自分を正当化するために嘘を付き、得を求めて裏切り、しかも後悔も反省もない人間は多い。それらを強く憎み、その暗闇でもがきながら一条の強い光を探す。それが月島の真髄。月島の家元になるということだ。
なな ……はい。
市松 一方でそれらを諦め、許容し、折り合いをつけていく生き方もあるが。
なな 私は許しません。絶対に許さない……!

直人を捨てたのに、市松の目論む“もう一人の自分”を取り戻せなかったもも。一方、龍一の裏切りと母親の不貞により、市松の計画通りに壊れ覚醒したなな。

次回、姉妹は家元の座を巡り俎上で対決をする。
ももはななに遅れを取った。

新登場の香里奈が不穏


結局、このドラマは市松が全部悪い。

・吉池拓真(三浦貴大)にハニートラップを仕掛け、ももの結婚を破談させた。
・ルリ子を誘惑するよう龍一をけしかけた。
・ななを誘惑するよう龍一をけしかけた。
・実母の最後の言葉は「この子(もも)は月島を継ぐ子」だったと、自らももに教えた。
・直人と別れるようももを促した。
・ルリ子とSEXしている現場をななに目撃させるよう、龍一に指図した。
・壊れたななを看病し、「裏切った者を憎め」と自ら洗脳した。

全て、策略の上に行われた出来事である。

第7話より、看護師の新庄千秋(香里奈)が登場した。正直、あやしい存在。
直人との出会い方ができ過ぎているのだ。図書館で同じ本を取ろうとして手と手が触れ合う、あまりにも運命的な初遭遇。
彼女も市松からの刺客ではないのか? 何しろ、仲の深まり方が完全なる千秋ペースだ。率先して車に同乗させたり、名前や職を進んで明かしたり……。狙いを定め、意図的に誰かと恋仲へ引き込ませるのは市松の得意技である。

ホームページで「怒涛の純愛エンターテインメント」と謳っている、このドラマ。「どこがだよ!」と、今や苦笑い必至である。華道の権力闘争こそが、現在のストーリーの主軸。それを盛り上げる材料として、脇に恋愛がある。

完全に野島伸司、本性を出してきたようだ。第2章に入り、俄然面白くなった。
(寺西ジャジューカ)


『高嶺の花』
脚本:野島伸司
音楽:エルヴィス・プレスリー「ラブ・ミー・テンダー」
チーフ・プロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松原浩、鈴木亜希乃、渡邉浩仁
演出:大塚恭司、狩山俊輔、岩崎マリエ
※各話、放送後にHuluにて配信中
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