8月24日に放送された『dele』(テレビ朝日系)は、冒頭に全てが描かれていた回。なのに、やり取りの本当の意味は最後が来るまでわからない。
そんな5話だった。

「dele. LIFE」の依頼人、天利聡史(朝比奈秀樹)は親友の宮田翔(渡辺大知)とスポーツバーで仲睦まじく飲んでいた。

宮田 婚約の件? その冴えないツラの理由だよ。
聡史 俺、やっぱり彼女に言おうと思う。
宮田 遅せーよ。かえって彼女を傷つけるってこともある。

バーの帰り、宮田の目の前で聡史は車にはねられ、意識不明の重体になった。
「dele」冒頭で全てを明かしたのに真実が最後までわからない。リンクする山田孝之と橋本愛の物語5話
イラスト/Morimori no moRi

嘘をつき合う菅田将暉と橋本愛


今回、ストーリーテラーの役割を担ったのは、聡史の幼馴染の楠瀬百合子(橋本愛)。彼女は、“小学生時代の聡史の同級生”と身分を偽る真柴祐太郎(菅田将暉)に聡史との思い出を語った。聡史は運動神経抜群で、頭も良かった。
「高校も聡史の学力ならもっと上の学校行けたはずなのに、私に合わせるみたいに同じ学校行った」
百合子は嬉しそうだ。百合子は聡史に気がある。
「婚約してるの、私と聡史」

「dele. LIFE」の人間であることが百合子にばれてしまった祐太郎。
聡史の依頼の取り消しを百合子は主張した。
「事故に遭う前、『依頼は取り消すつもりだ』と本人が言った!」

百合子は宮田のことに関しても言及する。
「私と聡史が話してると、遠慮して絡んでこなかった」

もし聡史がいなくなると、聡史について語り合える存在が百合子にはいない。百合子と引き合わせるため、祐太郎は宮田に接触した。

祐太郎 婚約者の楠瀬百合子さんと一緒に病院に行きませんか? 楠瀬さんも、宮田さんから色々お話聞きたいと思うし。
宮田 楠瀬さんが婚約者って、聡史の……ですか? 誰が、そんなことを。
祐太郎 誰が!? えっ、違うんですか! は!?

身分を偽っていた祐太郎と同様に、「聡史と婚約してる」というゆり子の話も虚偽申告だった。

聡史の気を引くため、他の男と付き合ったことが百合子にはある。会社の先輩に告白され、その事実を伝えても聡史は応援するばかり。百合子はその先輩と婚約した。それを聡史に伝えると……
「聡史、いきなり私をギュッと抱きしめたの。『遅いよ、馬鹿野郎!』ってそう思ったけど、泣きたいくらい幸せだった。
でも、聡史、私の耳元で言ったの。『おめでとう』って。結局、聡史にとって私って何だったんだろう」

データ削除を取り消そうと思ったのは、その答えが知りたかったから。一方の宮田は、祐太郎に告げた。
「依頼通りに、必ず削除してください。楠瀬さんにとっても、そのほうがいい」

百合子はつぶやいた。
「聡史のことなら、全部わかってると思ったのに」

最後に自分が脇役だと察した橋本愛


聡史の容態が急変。祐太郎と百合子、そして宮田は病院に向かった。聡史は意識を取り戻していた。

病室へ駆け込む百合子と宮田。それを見守る祐太郎に、聡史の母親が声を掛けた。
「真柴さん、あなたもお願いします。あなたの呼びかけが聴こえたのかもしれない」
“小学生時代の聡史の同級生”と身分を偽る祐太郎は、意識が戻らない聡史に「早くこっちへ戻っておいでよ」と呼びかけていた。


ベッドに横たわる聡史。寄り添い、泣きながら聡史の顔を撫でる百合子。聡史は必死に手を伸ばす。その先にあったのは、百合子ではなく宮田の手だ。聡史の手を握りしめ、頬に寄せながら宮田は号泣する。
「聡史、良かった……!」(宮田)

百合子は「聡史のことなら、全部わかってると思った」と言っていた。聡史が自分に気があるかどうか、そんなことは知っている。いや、百合子は聡史をわかっていなかった。聡史が通じ合っていたのは宮田だ。聡史は同性愛者だった。

聡史が学力通りの高校に進まなかったのは、百合子ではなく宮田に合わせたから。宮田が遠慮して百合子に絡まなかったのは、聡史と自分が惹かれ合っているのに百合子が聡史に好意を抱いていたから。

百合子が婚約を告げた時、聡史は百合子を抱きしめた。自分に好意があることはわかっている。でも、応えられない。そんな彼女が自分以外の男性を好きになり、幸せになろうとしている。百合子は幼馴染で大事な存在。だから、本当に嬉しくて聡史は百合子を抱きしめた。

目の前で親友が轢かれたのに、宮田はお見舞いへ行かなかった。病室には、聡史の母親がいる。百合子もいる。だからこそ、行くわけにはいかない。自分を律していたが、聡史の手が触れた途端に想いがこぼれ落ちてしまった。
聡史の母親は、「祐太郎の呼びかけが目を覚ますきっかけだったかも」と言った。
そうかもしれない。男声だったからかもしれない。祐太郎の声を宮田が呼びかけたのだと聡史は錯覚したのかもしれない。

スポーツバーで「やっぱり彼女に言おうと思う」と聡史は言った。聡史の誠実さだ。百合子は婚約した。今なら「自分は宮田が好きだ」と言える。
「遅せーよ。かえって彼女を傷つけるってこともある」(宮田)
婚約した百合子に、今伝える意味があるのか? 知ったら傷付くだけだと、宮田は咎めた。データ削除を主張した宮田は、自分と聡史の思い出が消えたとしても百合子を傷つけたくない優しい男。冒頭の聡史と宮田のやり取りは、聡史の誠実さと宮田の優しさの衝突だ。

フラれると“幼馴染”としての聡史までなくしてしまうと思い、百合子は告白できなかった。
本当の自分を伝えると幼馴染としての百合子を失ってしまうと思い、聡史はカミングアウトできなかった。

第5話のストーリーテラーは百合子だが、百合子が語れぬ本当の聡史は宮田の手を握る一瞬にある。百合子と聡史の関係とは別に存在する宮田。いや、違う。聡史と宮田こそ主軸で、百合子は脇役だった。
「遅いよ……馬鹿野郎!」
聡史の手の動きだけで、全てを察した百合子。その時、世界は真逆になった。

今回、祐太郎は初めて過去を語った。9年前、彼は14歳だった妹を亡くした。
「大切な人がいなくなったはずなのに、世界は何も変わらない。昨日と同じ顔してる」
祐太郎の言葉は、聡史の本当を知った百合子の支えになるだろうか。

依頼と山田孝之のラブストーリーがリンクする


坂上圭司(山田孝之)と元恋人・沢渡明奈(柴咲コウ)の、一年に一度の待ち合わせの日。圭司が高校生の頃、大学生の明奈が教育実習で高校に来て2人は出会った。圭司が車椅子に乗った後から2人は付き合った。そういう過去。

この日の別れ際、2人は今後について話し合った。
明奈 自分じゃ消せないデータって確かにあるね。それを消したら、自分が自分じゃなくなるように感じるデータ。
圭司 あるのか?
明奈 待ち合わせは今年で終わりにしよう。
圭司 ……わかった。
明奈 長くは待たないよ。私からデータ削除の依頼が来たら、もう他人だと思って。

明奈が立ち去った後、聡史の生存を確かめた祐太郎が事務所に戻ってきた。
圭司 (聡史の)データの内容はわかったのか?
祐太郎 いや。でも、だいたい想像つく。たぶん、愛の証だよ。

祐太郎の言葉を聞き、指がピクッと動く圭司。明奈が言ったデータとは、自分との愛の証を指している。今、圭司はそれに気付いた。明奈は「私からデータ削除の依頼が来たら、もう他人だと思って」と言った。でも、その前に「長くは待たない」とも言っている。明奈は圭司と復縁したい。データを削除する前に、圭司に動いてほしい。待ち合わせの終わりを提案したのは、年に一度しか会わない関係性から進みたい気持ちの裏返しだ。

全てを察した圭司は、口を開いた。
「データを元に戻す」

全く共通項のない2つのラブストーリーが、祐太郎の「愛の証」という言葉でシンクロする。いつか来ると思っていたが、第5話は圭司が初めてデータをdeleteしなかった回だ。

祐太郎 あっ、そうだ! 今、そこで、ケイの彼女に会ったよ。
圭司 彼女じゃない、古い知り合いだ。今のところは。

本心では、圭司も明奈との復縁を望んでいるということ。
(寺西ジャジューカ)

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金曜ナイトドラマ『dele』
原案・パイロット脚本:本多孝好
脚本:本多孝好、金城一紀、瀧本智行、青島武、渡辺雄介、徳永富彦
音楽:岩崎太整、DJ MITSU THE BEATS
ゼネラルプロデューサー:黒田徹也(テレビ朝日)
プロデューサー:山田兼司(テレビ朝日)、太田雅晴(5年D組)
監督:常廣丈太(テレビ朝日)、瀧本智行
撮影:今村圭佑、榊原直記
制作協力:5年D組
制作著作:テレビ朝日
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