「私は、こどもは産まないっていう自分の決断が間違っていたとは思わない。でも、別の道を選んだ人を見るとね、どうしても考える、私は正しかったのかなって。
女同士って、どうして比べちゃうのかしら」
紗也子「わかるからじゃないですか、気持ちが。どんなに立場が違っても、なんとなくわかってしまう。だから、比べてるんじゃなくて、私たちは共感しているんだと思います」

9月7日(金)放送のドラマ10透明なゆりかご(NHK)第8話。
主人公・アオイ(清原果耶)の先輩看護師である望月紗也子(水川あさみ)が妊娠した。産科の看護師として多くの妊娠・出産と向き合ってきた自信がある紗也子。しかし、つわりなど体調の変化に、その自信を崩されかけていた。

同じ時期、由比産婦人科には中絶を希望する宮本久美子(異儀田夏葉)と、仕事をしながらキツいつわりに苦しむ中森弥生(滝沢沙織)が通院していた。
「透明なゆりかご」女の敵は女じゃない。妊娠・中絶・出産してもしなくても私たちは連帯している8話
沖田×華『透明なゆりかご〜産婦人科医院看護師見習い日記〜』1巻(講談社Kissコミックス)

女たちは対立していない


本当はこどもを産みたいのに、経済的理由や夫の反対によって中絶を希望せざるを得ない宮本。そして、そんな宮本の前で「もう嫌だ」と泣き崩れながらも、出産することを選んだ中森。
こどもを産まない人生を自ら選び、産婦人科の婦長として生きる榊(原田美枝子)。産科の看護婦として妊娠・出産について誰よりも学び、自分の出産にも活かせるはずだと思っている紗也子。

今回は、この4人が妊娠・出産についてある種対立した立場の女性であるかのように描かれていた。そのストーリー上の構造が一変したのは、宮本が中森を突き飛ばしたときだった。


宮本「産めるのに、もう嫌だとか逃げたいとか甘ったれたこと言ってんじゃないわよ。お金だっていっぱいあるんでしょ。贅沢なのよ! そんなに嫌なら産むのやめれば!」

産みたいという気持ちを殺さなければいけなかった宮本。彼女にとって、嫌だ嫌だと言いながらそれでも産むことができる中森は妬ましい存在になってしまっていた。
妊婦を突き飛ばすなんて、あってはいけないこと。それを示すために、警察が由比(瀬戸康史)に事情聴取をする場面が挟まれる。でも、女たちの間では、宮本は完全な悪者にはならない。

中森「流産してたかもしれないって考えると、あの人のことは許せません。でもなんか、気持ちはわかります」

自分と違う人生を選んだ女性を気にしてしまう気持ちについて、榊が「女同士って、どうして比べちゃうのかしら」とこぼす。紗也子が「比べてるんじゃなくて、私たちは共感しているんだと思います」と返す。

女たちは、立場が違うだけで「女の敵は女」と揶揄されることがある。例えば昔は、キャリアウーマンは専業主婦を馬鹿にしているなどと対立を煽られることもあった。
ドラマを盛り上げる一要素として、雑に「女の戦い」が用いられることは最近でも見られる。

しかし、『透明なゆりかご』は、立場の違う女たちを対立関係にあるとは描かない。妊娠・出産、もしかしたら子育てに関してまでも、立場や考え方が違っていても女たちの間には緩やかな連帯があることを伝えた。

ヘンタイ男だけに訪れる幸福


女たちの間の連帯を伝えていく中で、由比や紗也子の夫・広紀(柄本時生)のような男性たちは置いてけぼりかというと、そこも取りこぼさない。
女性の身体・心の変化や苦悩に共感してあげることのできない広紀は、男性である自分が何をしたらいいのか困っていた。由比もまた、妊婦たちの気持ちを完全にわかることができないと自覚している。

広紀「だから無理なんですって、男なんだから」
由比「でも、わからないぶん、わかりたいって思う気持ちは強いです。女性の医師が『女だからわかる』って流しているところも、僕は勉強して経験を積んで、わかろうとします」
広紀「ヘンタイですね」
由比「ヘンタイです」

女性について理解しようとする人を「ヘンタイ」と言う広紀。でも、そのあとすぐに自分から「ヘンタイ」になるために行動を起こす。

女たちが「女の敵は女」と揶揄されるように、女性の心身について素直に知ろうとする男たちは「ヘンタイ」と馬鹿にされてきた。現代のSNSでも、そんな男性たちに心ない言葉を投げつける人たちがいる。
由比と広紀は、男性同士で連帯してその心ない世界を抜け出した。
そして、女性やこどもたちとともに生きる道を選んだ。

紗也子の人生や思いを素直に知ろうとする人になった広紀。自分のこどもはかわいそうなんじゃないかと悩む紗也子に、こんな気持ちを伝える。

広紀「結論から言うと、かわいそうでも良い。多少はね」
紗也子「どういうこと?」
広紀「さーやが、理想の看護婦を目指したいなら目指せばいい。それでこどもを寂しい思いをさせるならさせろ。自分は良い母親なんだろうかってとことん悩め。俺も、良い父親なんだろうかってきっと悩むから。人一人育てるんだからさ、不安はあるよ。でも、とにかくこれは俺たちの問題だから、こどものために何ができるのかとにかく悩んで答えを探して、その結果、俺たち家族全員が幸せだったらそれが正解だよ」
紗也子「……“不安を抱える”って、そういうことか」

「ヘンタイ」になる人だけに、こんな幸福を感じる機会が訪れる。由比も、「ヘンタイ」であろうとし続けたからこそ、これまでたくさんの妊婦たちの力になれた。5話の14歳の妊婦・優里音のように、何年経っても思い出される存在になれている。


「女の敵は女」という言葉が廃れつつあるように、由比や広紀が「ヘンタイ」と馬鹿にされるような雰囲気もなくなっていってほしい。広紀の力強い言葉と迷いのない目には、その未来を感じさせる明るいパワーがあった。

今夜10時から放送の第9話は、小学生の性被害を扱う。原作漫画のインターネット広告バナーで、その話を目にしたことがある人も多いだろう。全10話の本作も、いよいよクライマックスにさしかかっている。

(むらたえりか)

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NHK オンデマンド

▼作品情報▼
ドラマ10透明なゆりかご(NHK)
毎週金曜よる10時〜
出演:清野果耶、瀬戸康史、酒井若菜、マイコ、葉山奨之、水川あさみ、原田美枝子
原作:沖田×華『透明なゆりかご〜産婦人科医院看護師見習い日記〜』1巻(講談社Kissコミックス)
脚本:安達奈緒子
音楽:清水靖晃
主題歌:Chara「せつないもの
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