第25週「君といたい!」第147回 9月19日(水)放送より
脚本:北川悦吏子 演出:宇佐川隆史 田中健二

半分、青い。 メモリアルブック
連続朝ドラレビュー 「半分、青い。」147話はこんな話
朝8時、鈴愛(永野芽郁)と律(佐藤健)がキスをする。
高瀬アナのなぜ
「おはよう日本 関東版」にておなじみ高瀬耕造アナウンサーが、先日秋風先生が再登場すると言ったが、今週は涼ちゃんだったと訂正。
「ひじょうに出てきにくい展開のなかでの再登場なんです。
確かに先週の土曜日の予告には出ていたが、この日出てこない人物の「表情に注目」という紹介。災害のとき適切な情報を落ち着いた声で届け続け、信頼できると思ってきたアナウンサーがネタバレというのかフライングというのか早急な言動をするのはなぜ・・・。局をあげての応援という名の高視聴率ねらいだろうか。
24週までで各話平均視聴率が21%を超えたという。ここから最終回に向けて、147話を含めあと10回。さらに数字を上げたいのは人情であろう。
147話は狙って来た。高瀬アナいわく、涼ちゃんがひじょうに出てきにくい展開ーーそれは、鈴愛と律のキスシーンだった。
それについては、後述するとして、まずは順にお話を振り返っていこう。
貧乏夫婦コントのような
修次郎(荒木飛羽)にそよ風の扇風機を自分の発明と見栄を張っている津曲(有田哲平)を目撃した鈴愛は、とっさに津曲の会社の社員であると言って、彼を立てる。
鈴愛はそのバーター取引(津曲いわく)に、扇風機を作る工場を紹介してもらう。
町工場の親父・岩堀(俵木藤汰)と息子カツシ(吉村界人)が、大手を離れて小さな工場を経営している親父と三流大学を出て就職口のない出来損ないとが対立している池井戸ドラマのような状況を短い時間で演じてみせる。
その流れで鈴愛と律は貧乏夫婦コント。
鈴愛「夫婦じゃないけど 程遠いけど」
律「程遠いか」
うっかり自分たちを夫婦に例え照れて撤回した鈴愛と、それをちょっと寂しく思う律の微妙な空気。
こういうのはきらいじゃない。
その後、晴(松雪泰子)の近況・弥一の写真教室に通いはじめたとか、ブッチャーのお母さん(広岡由里子)と仲良くなったなどと語り、「わからんもんや 人生はおもしろいわ」としみじみ。
この言葉が鈴愛と律の思いがけない展開を暗示していたといえるだろう。
笛が大活躍
それにしても状況を思いどおりに進めるためのアイデアをよくぞ次々思いつけるものだ。北川悦吏子は優秀なストリーテラーだと感心する(これは本当にそう思っている)。カンちゃん(山崎莉里那)がドッジボールの審判になったからと鈴愛の例の笛を使おうとするが、ちゃんとしたホイッスルを買ってあげると鈴愛が言い、そのため宙に浮いた笛を、カンちゃんが鈴愛のシンプルなワンピースにアクセサリーとしてかけさせる。
鈴愛がこれまで着たことのないシンプルで上品なモノトーンのワンピにフォークロア調の笛のアクセサリーというコーデふうで、オフィスに。
そこでは研究に疲れた律が寝ていた。
以下、流れをまんま書き写すだけだとノベライズみたいになってしまうので、適宜ツッコミを入れていきます。
毛布をかけようとして、さげていた笛が律の顔に当たりそうになって、ふと彼の顔をまじまじとみつめた鈴愛は唇を寄せる。【かすかに音楽・・・】
躊躇して離れたとき、律が目覚めて手を握る。
「おはよう」
【握った手の甲から指にかけてのごつっとした節が男性性を感じさせる】
朝8時。【朝ドラがはじまる時間】
「入る?」と毛布のなかに鈴愛を入れる。
「何これ・・・」
バックハグの形で固まる鈴愛。【テッパンのバックハグ(あすなろ抱き)がアップデートされましたよー 】
笛を吹く。「りつ〜〜」
「律の真ん中で律を呼ぶ なんちって」
ときめきと照れとの交錯。【この笛、私には警告の笛のように思えてしまった。イエローカードか レッドカードか】
そこへクラクション。
「音はこわい 左が聴こえないからなんの音かすぐわからなくて」
そんなか弱い鈴愛を律は抱きしめる。
【ここが人生及び恋愛のストーリーテラーの技の見せどころ。
「音はこわく
風はやさしく
律はあったかい」
【ここで「薔薇は赤い スミレは青い 砂糖は甘い あなたは優しい」というマザーグースの歌詞を思い出す人も多いのではないか。私がこの詩に触れたのは「大草原の小さな家」だった。】
毛布にくるまれながらのキス。
【渾身の陰影の美しい照明。朝設定が効いている。朝の光最高。鈴愛の耳たぶが赤く見えるのもいい感じだ】
以上、書き写し終ります。
まるで三木孝浩監督作に代表されるティーン向け恋愛映画のようだった。
これはこれで素敵。
だが、順を追って時間の経過を確認しながら見てきた視聴者にとっては落ち着きが悪い。
なぜなら、アラフォーに見えないから。現実的で申し訳ない。
いっそアラフォーまで描こうと思わず、二十代くらいでソウルメート同士が起業して恋愛感情に火が付いて・・・という話だったらすんなり見られたと思うが、いつもの朝ドラのパターン・主人公が年を重ねていくところを残すから齟齬が生じて見える。
仕事にはお金が必要で(「仕事いう怪物はお金を食べていきます」・・・というナレーション(風吹ジュン)も大人対象に書かれたものとは思えず、永野芽郁ファンの若い人に向けている印象だ。
そして、うまいこと、その後の「あさイチ」の特集「ちょこちょこ借金」とつながる(華丸大吉、近江ちゃんさんの朝ドラ受けもここはしっかり入れて来た)。
年齢的もしくは精神的に若く未熟な人たちがうっかり借金して貧しさが加速してしまうことへの警鐘。
「半分青い」の脚本の技術的未熟さが気になるような一定レベルの知性や教養のある人だけを対象にこのドラマと「あさイチ」はしていない。言葉を変えれば、そうでない人たちがたくさんいるということでもある。
いわゆる“多様な”視聴者を取り入れようとがんばった結果、24週までの平均視聴率が21%を超えた。開始当初は苦戦していたように感じるが、豊川悦司の力で盛り上がった漫画家篇以降安定し、注目度も上がった。漫画家篇が終わっても人気は継続し、24.5%をとったこともありながら時間帯変更による14%台などが災いしたか、Twitterで脚本家・北川悦吏子が満身創痍の自分ネタを毎日明かしたりネットニュースで毎日記事になったりするわりには、歴代の朝ドラから突出しているわけではない。
上には上がいて、「あさが来た」は23・5%、「とと姉ちゃん」は22。8%、「花子とアン」は22.6% である。毎日記事にしていなかったらもっと注目されていなかったのではないかと思うと、広報戦略は有効だったと思える。
よく練られたなめらかなストーリー、評論の俎上に乗せたくなるようなテーマ性等々を求めず、あくまでも瞬間的に感情が激しく動くエンターテインメントとしてどれだけネタを投入できるかに焦点を絞ったと思われる「半分、青い。」。
本日、律と鈴愛の胸キュンキスシーンを起爆剤にして、残り9話でどこまで視聴率は上がるのか。
過去、「ロングバケーション」や「ビューティフルライフ」などで高視聴率を欲しいがままにした女王の真価がいよいよ問われる。
このドラマの何が面白いといったら作家の闘いっぷりだ。
私には今、最終ラウンドを前に満身創痍でリングに立ったボクサーの姿が見えている。
はたして世の中は彼女の思うがままに動くか。
それにしても、この状況で今後、涼ちゃん出てきても、おじゃま虫だろう。なんか不憫だ・・・。
(木俣冬)