エキレビ!の高坂希太郎監督インタビュー後編では、ラストシーンまでのストーリーにも触れながら(原作のラストについても言及)、本作オリジナルキャラで物語のキーマンでもある木瀬文太が生まれた理由なども明かしてもらった。
(ネタバレ無しの前編はこちら)

登場するお客さんには、ある種、通底しているものがある
──主人公おっこのライバル的な立ち位置の秋野真月は、どのようなキャラクターとして捉えていますか?
高坂 おっこは勉強があまり得意ではなくて、ちょっと地味だけど、都会育ち。真月は勉強が得意で、派手で、花の湯温泉の象徴として位置づけられている。そんなキャラクターですし、おっことは正反対の存在。最初は都会から来るおっこを簡単には受け入れないけれど、徐々におっこが花の湯温泉のことを理解して馴染んでいくことによって、二人の距離もだんだん縮まっていくという展開にしました。
──真月は、おっこに対してかなりきつい物言いもしますが、ギリギリ嫌な子には見えないのは絶妙のバランスだと思いました。
高坂 そこも原作の一つのテイストだと思ったので、「この子だったら許せるな」と思ってもらえるように、セリフなどはかなり気をつかって考えました。

──ウリ坊や美陽もユーレイではありますが、とても明るいキャラクターです。
高坂 ある意味、両親が死んでいることをおっこが意識せずに済んでいたのは、ウリ坊や美陽や鈴鬼の存在があったからなんですよね。でも、成長するにつれて、ウリ坊たちとはコンタクトが取れなくなってきて、追い込まれていき、最後のとどめとして、事故の加害者(木瀬文太)がお客さんとしてやってくるという流れ。おっこには、かなり辛い思いをさせてしまいましたね……。でも、先ほど(前編)も話しましたが、おっこを可愛く描くのは大変で、逆に僕もおっこにいじめられながら仕事をしていました(笑)。
──原作は全20巻もあり、春の湯を訪れる宿泊客だけでも非常に多くのキャラクターが登場します。
高坂 まずは、原作の特色が一番色濃く出ているということで、1巻に登場する(神田)あかね君。彼は物語の説明をする上でも必要な登場人物でした。それに、僕の中では、今のおっこを象徴するというか、対比にもなっているキャラクター。親を亡くしたという点では同じ境遇で年齢も同じ。今、表出している姿は全然違うけれども、もしかしたらおっこもあかね君と同じような反応したかもしれない。そういう存在としても捉えていたんです。その後に出会う占い師のグローリー(・水領。原作では6巻で初登場)さんは、同じ接客業を生業としているので、未来のおっこをイメージして描きました。最後のお客さんの木瀬一家は原作には出てこないオリジナルキャラですが、息子の翔太君は過去のおっことの重なりをイメージしています。それぞれのお客さん同士が物語の中で深く関与することはないのですが、僕の中の設定では、ある種、通底しているものがあって。そのように位置づけて表現しました。
「死」を扱いながら、原作のテイストも壊さないように
──冒頭、原作では直接的に描かれていない交通事故の場面も描写されていますが、作品自体は基本的にポジティブで明るい印象を感じます。その点について、意識したことはありますか?
高坂 おっこは両親が死んでいると分かってはいるけれども、それを(完全に)受け入れられてはいない。どこかで生きているんじゃないかな、と思っているからこそ明るく振る舞える。おっこについては、そういう温度感で描きました。もちろん、ウリ坊たちの存在も大きいんですけどね。おっこの両親の死に関しては、原作ではあえてオミットとしている要素だと思うんです。子供さんが読む児童文学ですし、「死」という重いものをはっきり表現すると読んでいる子も辛くなるので。だから、「死」を扱うと原作のテイストからは逸れていくところもあるんです。(物語に必要な範囲で)「死」を扱いながら、原作のテイストも壊さないようにするための塩梅は難しかったですね。

──おっこが両親の死を完全には認められてないことの表現として、おっこの前にお父さんとお母さんが現れて、自然に会話もした後、そのまま現実に戻るシーンが何度かあります。非常に切ないですが、素晴らしい演出でした。
高坂 あれは僕の経験が元になっているんですよ。父が亡くなる前に入院していた時、ずっと病院通いをしていたのですが、亡くなった後で夢に父が出てきて、「なんだ、生きていたんだ」と思ったんです。
──終盤には、おっこの両親が亡くなった事故の加害者である木瀬文太が宿泊客としてやってきます。この展開は本作のオリジナルですね。
高坂 最初の案では、原作のように幽霊たちとの別れがラストシーンでしたが、プロデューサーからもうひと盛り上がり欲しいという提案があって。いろいろと思案した中で出てきたアイデアが事故の加害者が客として来るというものでした。王道といえば王道なのですが、面白いかなと。それに(終盤に)大きい壁を用意して、おっこにはもう解決できないという状況を作り、最後には自分じゃないもの……若おかみになることで、それを乗り越えていく姿を表現したいと思ったんです。

──木瀬は、非常に難しい役柄だと思うのですが、山寺宏一さんはさすがの名演でした。このキャスティングも高坂監督からのリクエストですか?
高坂 山寺さんに関しては音響監督の三間(雅文)さんからの提案だったのですが、本当に助かりました。すごく複雑でクセのあるキャラクターなので、仮に、あまり声優の経験が無い人だったら、指示が大変だったと思います。山寺さんは、最初にどういうキャラクターかを説明したら、もうそれだけで上手くやっていただきました。
──今作のキャストには、声優以外の役者やタレントも参加していますが、個人的にグローリー役のホラン千秋さんの芝居が非常に好印象でした。
高坂 僕自身、ホランさんの声が入ったことで、改めて「グローリーさんって、こういう人だったんだ」と気づかされたところもありました。それに、先ほども言いましたが、グローリーさんには未来のおっことしての裏設定もあったので、おっこの声質と少し似ているのも良かったです。

ラストの御神楽は、映画のストーリーと内容が重なっている
──おっこが神楽を舞いながら、両親やユーレイたちとお別れするラストシーンも素晴らしかったです。
高坂 最後は御神楽のシーンでということは早くから考えていて、それありきで(構成を)作ったところもありますね。あの御神楽は、この映画のストーリーと内容が重なっていて。村の子供を殺めた狼を、村人が追って山深くに入っていき、お互いに怪我をしてしまう。村人は、自然に湧いてるお湯で体を癒す狼を見て、矢を射ようとするのだけど、結局、矢を射ることはできず。
──モデルにした祭りや御神楽などがあるのでしょうか?
高坂 直接的なモデルはないですね。御神楽は、元々、日本神話をモチーフにしているものなので、今話したような内容の舞いをやることは、基本的にはナンセンスなんです(笑)。それに、本当の御神楽は夜にやりますし。だから、おっこたちの舞ってる御神楽は、子供たちに花の湯温泉の謂われを継承させるためのもの、という裏設定で作ったものです。
──そこまで細かく設定してあるのですね。最後に、映画『若おかみは小学生!』は、高坂監督にとって、どのような意味を持った作品になったのかを教えてください。
高坂 この映画は、児童文学という僕にはあまり接点の無かった作品であるという意識も強かったので、本当にいろいろな人の意見を聞きながら作ったんです。人によっては(意見を)言いづらい人もいるだろうから、「別に代案を出せなくてもいいから、とりあえず気になったことや、思いついたことを話して」と言って、人の意見を聞いて。みんなで、ああでもない、こうでもないと話しながら作りました。それがすごく面白かったし、自分としては上手くいったと思っています。
(丸本大輔)
【作品情報】
『若おかみは小学生!』
9月21日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
原作:令丈ヒロ子・亜沙美(絵)(講談社青い鳥文庫『若おかみは小学生!』シリーズ)
監督:高坂希太郎、脚本:吉田玲子、音楽:鈴木慶一 他
キャスト:小林星蘭、水樹奈々、松田颯水、薬丸裕英、鈴木杏樹、ホラン千秋、設楽統(バナナマン)、山寺宏一 他
主題歌:藤原さくら「また明日」(SPEEDSTAR RECORDS)
製作:若おかみは小学生!製作委員会
アニメーション制作:DLE、マッドハウス
配給:ギャガ
劇場版公式サイト:http://www.waka-okami.jp/movie/
(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会