
『りぼん』はさくらももこが学生時代から投稿を続けて漫画家デビューを果たし、『ちびまる子ちゃん』の連載が行われた、いわばホームグラウンドのような雑誌。なお、同時発売のKindle版には小冊子がついてこないので要注意。発売日の10月3日は、まる子の祖父・友蔵の誕生日だった。

必読! 担当編集者による「ももこ百科」
本誌と同サイズ、全20ページの小冊子には、第1話「おっちゃんのまほうカードの巻」(1986年8月号掲載)と『りぼん』最後の掲載となった第132話「ぜんぜん知らない親せきの人の巻」(2014年5月号掲載)の2話を収録。第132話は単行本未収録作品であり、このエピソードを読むにはこの小冊子を入手するか、掲載当時の『りぼん』を入手するしかない。『ちびまる子ちゃん』ファン、さくらももこファンは必携だ。
なんといっても目を惹くのが、掲載当時をほぼ再現した欄外のハシラ(柱)だ。第1話の扉には「200万乙女の熱いリクエストにこたえ、ついにれんさい開始~~っ!!」というキャッチが躍っている。
2ページ目のハシラからは、作者に親しみを持ってもらうための「ももこ百科」が「1」から「4」まで掲載されている。
「ももこ百科1 ももこは昭和40(65)年の5月8日生まれの21歳。おうし座・A型。静岡で生まれ育ち、現在は東京に住むお姉タンです。一昨年りぼんNEW漫画スクールに投稿した一連の作品が佳作、S・B(シーズン・ベスト)賞を受賞。
「ももこ百科2 今『りぼんオリジナル』れんさい中“ももこのほのぼの劇場”は毎回大好評。ついに今回から『りぼん』でもれんさい開始となりました(ハートマーク) 日常の中のヘンな奴・情けない事を鋭く描きつつ、読み終えた人をほのぼのとさせるステキな味をお楽しみください」
「日常の中のヘンな奴・情けない事を鋭く描きつつ、読み終えた人をほのぼのとさせるステキな味」という部分が『ちびまる子ちゃん』のほとんどすべてを言い表していて、さすが担当編集者と言うほかない。「ももこ百科3」には、さくらももこ自身の「シーチキンのようにいつでもおいしい作品を描いていきたいです」という渋い意気込みも記されていた。
第1話の最後のページの柱には、「ちびまる子ちゃんは、実はアナタ自身でもあるのです(ハートマーク) 応援よろしくネ」と書かれている。第1話が掲載されたのは1986年だが、5年ぐらい遡れば、まだ舗装されていない路地や駄菓子屋は街のそこここにあった。読者にとって、まる子とまる子のいる世界はとても親しみのあるものだっただろう。
貴重な初カットや付録の写真も
第132話「ぜんぜん知らない親せきの人の巻」も『ちびまる子ちゃん』らしいなんとも言えない脱力ぶりが楽しめる。昭和が舞台なのに、いきなり「オレオレサギ」なんて言葉が出てくるところが自由だ。
小冊子には、そのほか『ちびまる子ちゃん』とさくらももこをよく知るための企画ページが収録されている。もちろん、当時の読者へのサービスでもあるのだが、アニメは知っているけどマンガは読んだことがない現在の小中学生女子読者に対して『ちびまる子ちゃん』を再プレゼンする内容とも言える。
本誌のほうは、キラキラした表紙をめくるとダブル表紙の『ちびまる子ちゃん』が出てくる仕掛け。「シリーズ累計3200万部」「最高視聴率39.9%」「おどるポンポコリンCD売り上げ枚数164万枚」などの数字がどれもすさまじい。
「さくらももこ先生とりぼん」と題された追悼企画には、記念すべき初カット(1983年11月号の「きらきら絵日記」)や『ちびまる子ちゃん』の連載予告カット、読者コーナー「み~やんのとんでもケチャップ」のイラストなどが再録されている。メモパッドや恋のおまじない集などのさくらももこがイラストを担当した付録の写真も。写真もキャプションもすさまじく小さいので目を皿のようにして見つめてみてほしい。
それにしても、めっちゃキラキラしている本誌の連載コミックを愛読している小中学生女子が『ちびまる子ちゃん』をどう読むのかが興味深い。やっぱり、まる子のことを自分自身だと思ったりするのだろうか? たぶん、そうなのだろう。小学3年生のまる子は昭和の子だが、次の元号を生きる子どもたちにも共通の部分はたくさんある。やっぱり、さくらももこは天才だった。
(大山くまお)