『黄昏流星群〜人生折り返し、恋をした〜』(フジテレビ系・木曜22:00〜)が放送開始した。

原作は、現在も連載中の弘兼憲史の漫画『黄昏流星群』。


弘兼憲史自体が、いまだにバブル&トレンディを引きずっているような作風ではあるが、今回のドラマはそれに輪をかけてバブル&トレンディの残り香が漂っていた。
「黄昏流星群」佐々木蔵之介も黒木瞳も若すぎるよ…と思ったら原作の年齢設定に驚愕1話
イラストと文/北村ヂン

バブルでトレンディなベタ展開


若葉銀行新宿支店長の瀧沢完治(佐々木蔵之介)は、出世コースをひた走ってきたエリート銀行員。

秘書の篠田薫(本仮屋ユイカ)から露骨にエロ〜いアプローチをかけられても、「不倫は銀行では御法度」と自分に言い聞かせ、脇目も振らず仕事に励んできた。

本店への栄転も間近か……と思われていたところ、上司の不祥事の巻き添えで関連会社に出向させられることに。

失意の完治はひとり、スイス旅行に。そこで目黒栞(黒木瞳)と出会って……。

まあ、ベタなラブストーリーの展開だが、そこに至るひとつひとつのエピソードも、なかなかベタ!

出向を言い渡された完治は大雨に打たれながら号泣。びしょ濡れのまま居酒屋に行き、そこの酔客とケンカに。

ボロボロになった完治は、グラスに残った氷の形を見てマッターホルンを想う。……というわけでスイスに行くことに。

ベタなシーンが続く中、最後の「そうだ、スイス行こう!」だけは意外&唐突すぎる展開だが、その辺はバブル魂のたまものだろうか。

スイスで意気投合しつつも、連絡先も名前さえも交換せずに分かれてしまった栞との再会も実にベタな展開だった。

出向先となる「荻野倉庫株式会社」の社員食堂でまさかの再会→平井堅のいい歌。


食堂のおばさんとして働く姿を見られたくなかったのか、逃げ出してしまった栞を追いかけてエスカレーターに乗ったら、反対側のエスカレーターに栞が……。階段を駆け上ってついに再会。

「会いたかったです!」

うーんトレンディ。

まさかの雨までCG


笑っちゃうくらいベタでトレンディな展開だった第1話だが、実は、完治と栞の絡むシーンに関してはかなり原作漫画を忠実に再現している。

今回のドラマ版のベースとなっている、『黄昏流星群』第1集「不惑の星」は、描かれた1995年当時からしても「ちょっとバブルを引きずりすぎだろ」なエピソードだったが、それを23年熟成させて実写化した結果、何とも奇妙な味わいのある2010年代型トレンディ・ドラマが誕生したのだ。

ただ悲しいのは、これだけバブル&トレンディのニオイを漂わせているにもかかわらず、予算がバブル期のドラマとは比べものにならないくらい低そうなこと。

スイスのシーンの大半はCGで、おそらくスイス・ロケにすら行っていないと思われるのはいいとしても、問題はそのCGクオリティだ。

スイスで完治が栞を探し回るシーンは、近年なかなかお目にかかれないくらい変な合成で、ずっこけてしまった。

ロケに行けないなら、せめてもうちょっと合成がんばろうよ!

さらに、出向を言い渡され、大雨の中で完治が号泣するシーンの雨も露骨にCG。

雨くらい放水器で降らせようよ……予算がないなら、雨が降るまで待とうよ……。

トレンディ・ドラマになるのか、昼ドラになるのか!?


原作とは違うドラマ版独自要素としてキーとなってくるのが、完治の妻・真璃子(中山美穂)だ。

原作では「エリート会社員」という夫のステイタスにしか興味がなく、娘の結婚式が終わった途端に離婚届を叩きつけてくるという、「夫が不倫に走っても仕方ないよね」と思わせるようなヒドイ妻だったが、中山美穂は、かなりいい妻感を出していた。

夫に対する愛情はあるものの、仕事人間である夫からは相手にされず。完治が仕事と偽ってひとりでスイス旅行に行ったと知ってショックを受けつつも、夫を攻めることもできない耐える女。


完治たちの恋愛よりも、真璃子の方を応援したくなるような健気な妻なのだ。

そんな真璃子が、娘の婚約者である日野春(藤井流星)と、よからぬ関係になっていくようだ。

原作は、不倫ながらもストレートな純愛ストーリーだったが、夫の不倫に対抗して妻も不倫……となってくるとドロドロ展開も予想される。ましてや、その相手が娘の婚約者となれば、トレンディから一気に昼ドラ感が出てくる。

相手役の藤井流星がジャニーズWESTだけに、どこまでドロドロな恋愛模様を見せてくれるのか未知数だが、いっそのこと、親父もお袋も不倫、しかも自分の婚約者と! ということで娘が発狂して……くらいのヤバイ展開を期待してしまう。

オレたち『黄昏流星群』世代だったのか……


ところで、今回のドラマ版のキャストを知って、まず思ったのは「若すぎるよ!」ということだった。

原作では、年を取り、体形もかなり崩れてしまったおじさん、おばさん(時にはじーさん、ばーさん)による恋愛&セックスが生々しく描かれている。

それを考えると佐々木蔵之介、黒木瞳、中山美穂ってまだまだ若すぎる!

……と思っていたのだが、改めて第1集を読み返してみたら、ドラマ版の完治にあたるキャラは52歳、栞にあたるキャラは43歳!

対して、佐々木蔵之介は50歳、黒木瞳58歳、中山美穂48歳。若いどころか、黒木瞳に至ってはだいぶ年上! なんちゅう美魔女なのか。

それ以上に、すんごく年寄りの恋愛を描いていると思っていた原作の年齢設定が意外と若かったことにショックを受けた。

あのおばさん、43歳って……オレとほぼ同世代! オレ、もう『黄昏流星群』世代だったんだな。

今回のドラマ版も、今の時代にバブル&トレンディの残り香を振りまいていて、ものすごく変だとは思うのだが、見ていて妙な安心感があるのは、自分が『黄昏流星群』世代だったからなのか!?

80〜90年代にかけてトレンディ・ドラマで天下を取っていたが故に、いまだにトレンディを引きずっているフシのあるフジテレビ。


この『黄昏流星群』は、そんなフジテレビが今の若者にトレンディを押しつけることは諦め、かつてトレンディに夢中になっていたアラフォー前後のおじさん、おばさんたちに向けた、現代のトレンディ・ドラマなのかも知れない。
(イラストと文/北村ヂン)

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『黄昏流星群〜人生折り返し、恋をした〜』(フジテレビ)
原作:弘兼憲史『黄昏流星群』(小学館刊)
脚本:浅野妙子
演出:平野眞、林徹、森脇智延
主題歌:平井堅「half on me」(アリオラジャパン)
音楽:得田真裕
チーフプロデューサー:高田雄貴 (フジテレビ)
製作著作:フジテレビ
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