最近、ひねりまくった妙な深夜ドラマで存在感を放っているテレ東が、ド直球な内容で勝負しているのが、「働くこと」をテーマにしたこの「ドラマBiz」枠だ。
2018年の4月からスタートしたばかりの枠だが、テレ東の気合いの入れようはかなりのもの。
第1作『ヘッドハンター』の主演は江口洋介、第2作『ラストチャンス・再生請負人』では仲村トオル。そして第3作目となる今期の『ハラスメントゲーム』では唐沢寿明を主演に据えており、脇役陣も含めテレ東っぽくない豪華さだ。
本作のテーマはタイトルの通り「ハラスメント」。
スポーツ界のパワハラ問題や、「#MeeToo運動」で注目されたセクハラ問題。その他、身近な場でも何かと「○○ハラ」なんてことを言われるようになっている昨今。旬な社会問題をド直球で攻めてきた!

ダーク・高嶋政宏たち濃い曲者キャラから目が離せない
大手小売店「マルオースーパー」練馬店で、メロンパンの中に1円玉が混入するという事件が起こる。
売り場主任・佐々部幸弘(尾上寛之)は「パワハラをやめないとマルオースーパー全店舗に制裁を加える」という若い女性からの電話を受けたと証言し、混入事件に加え社内でパワハラが行われていることが判明する。
新店舗開店への影響を心配し、警察に届けるのを渋る社長・丸尾隆文(滝藤賢一)は、社内で問題を解決するため富山中央店店長・秋津渉(唐沢寿明)を本社に呼び戻し、コンプライアンス室への異動を命じる。
コンプライアンス室長に就任した秋津が、社内で起こる様々なハラスメント問題を1話完結で解決していくという、言ってしまえばオーソドックスな構成なのだが、緩急がハッキリしたテンポのいいストーリー展開で引き込まれる。
登場人物たちがまた、キャラの濃い曲者揃いで目が離せないのだ。
「マルオーホールディングス」の社長・丸尾は、三代目社長らしくボンクラ感を放っているが、自身を失脚させようともくろむ常務一派に対抗すべく、秋津を抱え込んで何やら企んでいる様子。
対する常務・脇田治夫(高嶋政宏)は見るからにダークなオーラをまとっている、ザ・悪代官な風格。
脇田の取り巻き・水谷逸郎(佐野史郎)は安定のサイコパス感だし、唐突に「息抜きのお手伝いはできませんか? 私、セクハラなんてダサイことは言いません」なーんて脇田に迫る小松美那子(市川由衣)にもゾワゾワさせられる。
それにしても、かつては典型的なサワヤカ好青年ばっかり演じていた政宏&政伸の高嶋兄弟も、最近では闇のある悪〜いおじさんが異様に似合うようになってきていて素晴らしい。ふたりとも、色々あったからね……。
初期『美味しんぼ』感のある主人公コンビ
何より、主人公の秋津自体がかなりの曲者だ。
コンプライアンス室長としてハラスメント問題を解決する立場であるにも関わらず、目的のためならば露骨に部下をけなしたり、盗聴したり、コンプライアンス的にギリギリアウトなことを平気でやるタイプ。
一応、熱心にハラスメント問題に取り組んでいる様子ではあるが、それが会社をよくしたいという正義感からなのか、過去に因縁があったらしい脇田への復讐心からなのか、まだ読めないところ。
そして自分自身、部下を奮起させるつもりで言った何気ない一言をパワハラ認定され、地方の店舗に飛ばされたという経験を持っているのだ。
秋津とコンビを組む、部下の高村真琴(広瀬アリス)とのバランスもいい。
「彼女の方がタイプだったのに」
「優しい女の子と仕事したいんだよ」
「真琴ちゃんか!」
などなど、なかなかのセクハラ発言をフランクにかます秋津を、
「セクシャルハラスメントにあたります」
「減俸・けん責処分の可能性があります」
と、四角四面な優等生発言でバッサリと切り捨てる高村。
この、不良社員と生真面目な部下というふたりの組み合わせ、どうしても初期『美味しんぼ』の山岡&栗田がイメージされてしまい、やり取りを見ているだけでニヤニヤしてしまう。
唐沢寿明が、かつてドラマ版で山岡さんを演じていたのに引っ張られているのかも知れないけど。
第1話から「ハラスメントハラスメント」問題に踏み込んだ
1円玉混入事件の犯人は、犯人からの電話を受けたと言っていた売り場主任の佐々部自身だった。
丸尾社長のゴルフ仲間の息子ということで、コネ入社したものの、本社からは外され店舗勤務に。
「今の君の仕事はスーツを着て商品を企画することではありません。床に落ちた1円玉をはいつくばって拾うことです」
ふてくされた態度を練馬店店長の武藤譲(田中直樹)にとがめられたのをパワハラと認識し、店長への嫌がらせとして1円玉混入事件を起こしたのだ。
「部下が1円玉を混入したなんて分かったら管理者の店長としてはかなりヤバイでしょ〜?」
ドヤ顔で、パワハラの被害を訴える佐々部だったが、
「パワハラは上司から部下だけはなく、部下から上司にも当てはまります」
「ハラスメントで訴えると脅すのは、ハラスメントハラスメント」
と、アッサリ断罪される。
ワイドショーなどで「ハラスメント」加害者が袋だたき状態になっているのには危機感も覚えていたので、「パワハラを訴えているヤツ自身がパワハラを働いていた」問題を、第1話でちゃんと取り上げてくれてスッキリした。
もちろん、本当にハラスメントを受けている人たちが声を上げやすい社会は歓迎するところだが、何でもかんでも「コンプライアンス違反だ!」「○○ハラスメントだ!」と騒がれる、息苦しい社会と表裏一体とも言える。
佐々間に対して秋津が熱く語った、
「間違ったことをしている人間に注意すらしないことを見殺しと言います。その方がよほど残酷で無慈悲なパワハラなんだ!」
という発言も、ともすれば「お前のために言ってるんだから」というパワハラ発言ともなり得る。何とも難しいところだ。
この辺りの「ハラスメント」に対する矛盾や葛藤は、かつてパワハラで処分されたのに、コンプライアンス室長になっている秋津自身の葛藤とも重なる。ドラマ全体を通じて描いていってくれることを期待したい。
志田未来もよかったぞ
事件自体には大きく絡んではこなかったものの、1円玉が混入していたとクレームを入れたシングルマザー・小川麻衣(志田未来)の演技も素晴らしかった。
「このメロンパン子どもが大好きなの、でも他のより高いから給料日しか買わないことにしてて。
生活に困窮しつつも、プライドは大切に持っている母親の凄みを感じさせる。志田未来ったら、新婚さんなのになんちゅうスゴイ演技を見せてくれるんだ。
脚本が、志田未来の出世作である『14才の母』も担当していた井上由美子というあたりにもグッとくるのだった。立派な女優さんになって……。
そんなこんなで、全体的にすんごくいいドラマだったのだが、「ドラマBiz」枠の知名度の低さゆえか、ほとんど話題になっていないのが悲しいところ。
1話完結で問題が解決していくと思われるので、途中から見ても大丈夫。今からでも見よう!
(イラストと文/北村ヂン)
【配信サイト】
・ネットもテレ東
・Paravi
・TVer
『ハラスメントゲーム』(テレビ東京)
原作:井上由美子『ハラスメントゲーム』(河出書房新社刊)
脚本:井上由美子
演出:西浦正記、関野宗紀、楢木野礼
主題歌:コブクロ「風をみつめて」(ワーナーミュージック・ジャパン)
音楽:エバン・コール
チーフプロデューサー:稲田秀樹(テレビ東京)
プロデューサー:田淵俊彦(テレビ東京)、山鹿達也(テレビ東京)、田辺勇人(テレビ東京)、浅野澄美(FCC)
制作協力:フジクリエイティブコーポレーション
製作著作:テレビ東京