カッコいい大人たちが、キレイにスーツを着こなし、華やかなオフィスで優雅に仕事をする。こんな場所でこんな風に働きたい、もしくは働きたかった。
ストーリーを見るというよりは、登場人物のライフスタイルや大人でスマートな関係性を憧れるように鑑賞する。今期の月9「SUITS/スーツ」の印象はそんな感じ。

その代わり、大どんでん返しや、汗を流す義理人情、細やかな心理描写はほとんどない。傲慢で違法行為ギリギリで勝ちにこだわる甲斐(織田裕二)と、完全記憶能力を持つ頭脳明晰な天才の鈴木(中島裕翔)みたいな紹介があったが、正直どちらもわりと普通の人。ステータスや身なりなどは浮世離れしているが、人間性が普通。別に勝利至上主義の人間の醜くさも描かれていないし、ぶっちぎった天才っぷりも見られなかった。


まぁ、公式ホームページが「スタイリッシュな弁護士ドラマ」って謳っているので良いと言えば良いのだが、正直ちょっと物足りない。
月9「SUITS」スタイリッシュすぎてもやもや。中島裕翔と織田裕二、もっともっと壊れてくれ3話
イラスト/Morimori no moRi

中島裕翔がただの子供!いいぞ!もっと壊れてくれ!


しかし、第3話。ストーリーこそ相変わらず薄味だったが、中島裕翔と織田裕二がやってくれた。

中島裕翔演じる鈴木は、仕事を得るために世界的なゲームメーカー『BPM』のCEO兼チーフクリエーター・藤ヶ谷樹(柳俊太郎)に接触。そのパーティで薦められるがまま、業務時間内にも関わらず酒を飲んでしまう。酔っぱらった鈴木はそのまま帰社。代表弁護士の幸村(鈴木保奈美)を前に、「(甲斐は)サイコーです!サイコーでーす!」と酒臭い口を近づけ、新入社員とは思えない態度をとる。


直属の上司である甲斐の部屋でも、異様なリラックスモード。ため口交じりに意見をして、酒を飲んでいることを指摘されると、「飲んでません。部下を信用できないんですか?答えてください。あなたは僕を信用できないんですか?」とまるで居直り強盗のような態度をとる。挙句、「あなたのそういう態度がいちいちムカつくんですよ!」とハッキリとした暴言まで吐く始末。「顧客に近づくために仕方なく飲んだんです」とでも言っておけば少しは状況も変わるだろうに、鈴木はそれをしなかった。


「自分を認めてほしい。もっと大きな仕事がしたい」という気持ちを拗らせ、鈴木はスネてしまったのだ。なんと精神性の幼いキャラクター性なのだろう?まだ雇われて日も浅く、弁護士資格すらないクセに、自分の自由は堂々と主張する。しかも、飲酒したことを棚にあげてだ。

全く持って“完全記憶能力を持つ頭脳明晰な天才”という謳い文句とはかけ離れているが、このぶっ飛んだキャラクターは完全に個性だ。素直に従う良い子であるより、こういうめんどくさい部分を持っていてくれるほうが、面白い。
もっともっと、ストーリーに違和感やとっかかりを作ってほしい。

織田裕二もなかなか頭おかしい


対する織田裕二の甲斐もなかなかに頭がおかしかった。今回の話は、老舗時計メーカー「KAMIYA」の新社長就任問題がメイン。甲斐は、先代社長の意向を守るため、取締役の安樂孝志(久松信美)の社長就任を阻止しようと画策する。

なんだか良い話に聞こえるが、この先がめちゃくちゃ自分勝手。新しい社長にちょうどいい人材がいないので、古株の工場長・岡林達樹(きたろう)を「仕方ない。
あの頑固おやじにするか」と嫌々推すことに。岡林が「経営なんてわからない」「退職金もらっておさらばする」と拒否しても、ムリヤリ言いくるめて、クーデターに参加させる。先代の意向という形の義理人情を盾に、やりたくないと言い切っている岡林を巻き込んだのだ。

しかし、クーデター画策がバレて岡林が会社をクビになると、なんと甲斐は、「あなたも納得したことだ」とバッサリ切り捨てる。ただただ一生懸命働いていた工場のおっちゃん岡林は、「ひとの人生をなんだと思っているんだ」とあまりにもかわいそうな捨て台詞でその場を去ってしまった。

最終的には鈴木の偶然に近い活躍を利用し、岡林を社長に推し戻すことに成功するが、それは本当にただの結果論。
もし、鈴木がいなかったら先代の意向も岡林の人生もどこかにほっぽり投げてしまっていただろう。

サクサクとストーリーが展開していく「SUITS」。スタイリッシュでおしゃれな雰囲気もいいが、中島裕翔と織田裕二のように、もっともっとアクやクセを出していって欲しい。
(沢野奈津夫)

「SUITS/スーツ」
月曜 21:00〜21:54 フジテレビ系
キャスト:織田裕二、中島裕翔、新木優子、中村アン、今田美桜、國村隼、小手伸也、鈴木保奈美など
脚本:池上純哉
演出:土方政人、石井祐介
主題歌:B'z「WOLF」
U-NEXTにて配信中