高畑充希主演のTBS「メゾン・ド・ポリス」毎週金曜22時〜)第5話。視聴率は初めての1桁台の9.6%となったが、たぶんまた上がる気がする。
西島秀俊の「そんな死体後回しだ」というセリフが秀逸すぎた。

「メゾン・ド・ポリス」は、夏目惣一郎(西島秀俊)、伊達有嗣(近藤正臣)、迫田保(角野卓造)、藤堂雅人(野口五郎)、高平厚彦(小日向文世)という退職警察官だけが住むシェアハウス「メゾン・ド・ポリス」の住人に振り回されながら、新米刑事の牧野ひより(高畑充希)が難事件に挑む一話完結の刑事ドラマ。
高畑充希「メゾン・ド・ポリス」西島秀俊「そんな死体は後回しだ」今だから言えた、人の心を取り戻した5話
イラスト/Morimori no moRi

5話のあらすじ


第5話は、認知症の老人・金森春子(島かおり)の「私、人を殺しました」というセリフから始まった。ひよりと伊達が春子をシェアハウスに連れていくと、「男の人を階段がから落としました」とさらに謎が深まる発言。やがて、連絡を受けた丸山栄一(大谷亮介)、西条(内藤大輔)、岡嶋(木下政治)がやってくる。3人は春子の亡き夫が創業した零細工場の従業員で、春子は3人のことを息子同然に可愛がっていた。

春子が帰宅後、ひよりが転落事故について調べると、2週間ほど前に春子の工場とも関係する営業マンの三崎(亀田佳明)が転落死する事故が起きていたことがわかる。
他にも、春子の娘が7歳のときに連続幼女誘拐事件の犠牲者になっていたこと、その犯人が三崎と年齢も出身地も一緒だったこと、足立という男が最近工場を辞めていたことが発覚する。

パワハラ若い者なんて認めないぞジイさん・迫田の変化


新事実が発覚する度に、事件は様相を変える。そんなものミステリードラマにおいては当たり前なのだが、ちょっとした遊び心が加わっているのが楽しい。例えば、いつも的外れの推理を高平がいきなり核心に迫ってみたり、最初に推理した犯人が一転して怪しくなくなったり、最終的にもう1度怪しさが復活したり、だ。

登場人物が少ないので「誰が犯人か?」を予想するのは比較的簡単。だが、その筋道には、一考させられてしまう動機や、思いも寄らなかった形からある人間関係が浮かび上がり、最後はミステリーよりも圧倒的にヒューマンドラマ要素が強くなっていく。

ヒューマン要素が強いものだから、1話完結の連続ドラマとしては、キャラクターの成長や変化が早い。
5話にして、初めは“ひよこ”扱いを受けていたひよりが「メゾン・ド・ポリス」のおじさんたちに、ビシバシ指示を送る。パワハラ若い者なんて認めないぞジイさん・迫田も、ひよりを認めるどころかちょっと頼りにし出している。1話で頑固だったジイさんが、最終話付近で主人公を認める……みたいな展開はよくあるが、5話でここまで変わってくれると、この先どんな関係性になるのか楽しみだ。

「そんな死体は後回しだ」から読み取る夏目の変化


1番変化しているのは、夏目だ。潔癖で完璧主義者で不器用で1番ひよりに心を閉ざしていた夏目が、今話では荒れるひよりに「お前……やさぐれてるな」とちょっと面白みを出した間で絡む。なんなら仲良しの雰囲気さえある。
修羅場をくぐり抜けまくったことで、冷徹にならざるを得なかった捜査の仕方にも変化があった。

春子が死体が埋められた場所にひよりと夏目を案内するシーン。夏目がスコップで掘り、死体が見つかると、心労の重なった春子は気を失ってしまう。ここで夏目は、ひよりと共に春子に肩を貸し、「そんな死体は後回しだ」とその場を去った。昔の夏目なら、事件をいち早く解決するため、全てを明らかにするために、春子をひよりに任せ、自分は死体を掘り起こしきっていたはずだ。事件よりも生きている春子を優先。
真実を明らかにすることよりも人の心を優先したのだ。

「そんな死体は後回しだ」。いくら春子が倒れたとはいえ、夏目は死体に「そんな」という言葉をつけていた。捜査一課のエースとして修羅場をくぐり抜けた夏目にとって、死体は、「そんな」ものなのだろう。珍しくも何ともないのだ。「そんな死体は後回しだ」は、冷徹な夏目が人の心を取り戻す過程の、今だからこそ、生まれたセリフなのかもしれない。


(沢野奈津夫)

「メゾン・ド・ポリス」
金曜 22:00〜21:54 TBS系

キャスト:高畑充希、西島秀俊、近藤正臣、角野卓造、野口五郎、小日向文世、西田尚美など

原作:加藤実秋「メゾン・ド・ポリス」シリーズ
脚本:黒岩 勉
演出:佐藤祐市、城宝秀則
主題歌:WANIMA「アゲイン」