
ファンタジーな世界観でちょっと泣けるバンドにしたい
――1stアルバム『ナミダQUARTET』は、まるで前から一緒にバンドをやっていたように4人の個性がマッチングしていて驚きました。ファンタジックでメロディアスないい曲が多いし。
seek:うれしいですね。
――MIMIZUQが結成されたのは2018年の6月ですが、どんな縁があって、このメンバーが集まったんですか?
seek:僕とAYAくんは長年、音楽活動を共にしているんですが、あるとき、Psycho le Cemuとはまた別のベクトルのバンドを作れたらいいねという話になったんです。で、まずはボーカルを決めようということになって、僕は学生時代からずっとTAMAさんのファンだったので、ダメもとでお声がけさせていただきました。TAMAさんはCASCADEとして今も活動中なので、果たしてバンドを一緒にやってくださるんだろうか? と思いながら。
――もともと交流があったんですか?
TAMA:某バンドのPlastic Treeを通して。
seek:名前、言っちゃってますね(笑)。
TAMA:打ち上げで知り合って。
楠瀬タクヤ:じゃあ、お礼言っておこう(笑)。
seek:だいぶ前にお会いしているんですが、そのときは緊張しておしゃべりできなかったんです。その後、組んだMix Speaker's, Inc.ではCASCADEさんの曲(「S.O.Sロマンティック」)のカバーをやらせていただいていたので、その縁でイベントで共演させていただいたのが2011年ですね。
TAMA:CASCADEが復活してからですね。そのときに連絡先を交換しまして、活動やSNSを見ていて「いやぁ、がんばってはるな。アクティブに動いてはるな。
――交流が生まれて、seekさんも秘めていた思いの丈を伝えられたわけですね。「ずっと好きでした」(MIMIZUQの曲名)って。
楠瀬タクヤ:はははは。まさに!
seek:快く引き受けていただきました。タクヤくんがドラムを叩いていたHysteric Blueはもちろん聴いていたし、当時のプロデューサー、佐久間正英さんにPsycho le Cemuもデビュー当時、プロデュースしていただいていたんです。
楠瀬タクヤ:年齢的には僕のほうが下なんですけど、芸歴は先輩で……。
seek:なのでタクヤくんとも共通の知人を通して付き合いがあったんです。ご飯を食べに行ったときに音楽の話をする機会があったんですけど、若いときからいろいろなことを経験しているし、しっかりしていて素晴らしいなと思いました。AYAくんもタクヤくんが作る音楽に影響を受けていて。
AYA:そうなんです。
TAMA:自分もアンプラグドライブでタクヤくんが書いたHysteric Blueの名曲「なぜ…」(1999年)をカバーさせてもらったことがあったんですよ。
楠瀬タクヤ:先輩、とんでもないです(笑)。
AYA:僕としてはTAMAさんもタクヤくんも音楽的にもキャラクター的にもポップな方なので、表現したいファンタジー感がより届くんじゃないかって。
――なるほど。それぞれに繋がりがあったんですね。
TAMA:まぁ、みんな関西人やからね。
楠瀬タクヤ:いえ、お伽の国です(笑)。
AYA:森の住人ですから。

――「こんな音楽奏でたいよね」とか話したことはありました?
seek:話もしつつ、僕らにとっていちばん大きかったのはやっぱりTAMAさんの声の存在感ですね。声ありきの曲を作ってみたいなって。
AYA:TAMAさんの声の切なさ、儚さに魅かれて「ナミダミュージック」というキーワードが生まれたんです。ファンタジーな世界観でちょっと泣けるバンドにしたいなって。そこから森のシチュエーションとか動物たちというキャラクターに発展していって。
――MIMIZUQというバンド名はどの段階で決まったんですか?
seek:この4人の本名には“水”に関わる漢字が入っているんです。TAMAさんが玉水、僕が白水、AYAくんが大川、楠瀬にも“さんずい”が入っているので、“ミズ”を入れたいなというのとTAMAさんが動物が入ったバンド名は成功なさっている方が多いって言っていて。
楠瀬タクヤ:ビートルズを始めとして。
TAMA:ストレイ・キャッツ、スピッツ。
楠瀬タクヤ:THE YELLOW MONKEY。
TAMA:MONKEY MAJIKとか。
seek:そこでTAMAさんが考案してくれたのがMIMIZUQです。
AYA:バンド名が決まってから森のイメージが浮かんで。
seek:そのあたりから衣裳とかヴィジュアルも決まっていきましたね。
AYA:TAMAさんの帽子、衣裳の羽根はまさにミミズクのイメージです。
seek:これまでAYAくんとやっていたバンドはミミズクならミミズクそのものの格好になってしまうことが多かったんですけど、今回は擬人化というか。
AYA:みんな比較的、服に近いですね。僕はウサギでタクヤくんはタヌキ。seekはネコですね。なりきるのではなくseekの私服に近いネコの衣裳。
seek:衣裳まわりやトータルプロデュースはAYAくんが手がけているんです。イラストに描いてきてくれました。
――気になるのはAYAさんのパートがギターではなく“道化”だということです。
AYA:(笑)そうですね。ギターというよりはパフォーマンスで楽しませる役割をしたいと思ったのでライブではメインギターはサポートにまかせて。
seek:音源ではAYAくんがギターを弾いているんですけど、ライブのリハーサルになった瞬間、「何するんやろう?」って。
AYA:まずメンバーをビックリさせたいんですよね。特にseekは付き合いが長いから、“読まれる”のもイヤやなって(笑)。
TAMA:なるほどね。敵を欺くには味方からって(笑)。

――公開中のミュージックビデオ「ずっと好きでした」は、森の音楽隊が渋谷の街に繰り出していくようなイメージですものね。
AYA:都会の中のファンタジーの異質感を出したくて渋谷で撮りました。
seek:森から街に動物たちが出ていく構成でね。
AYA:ちなみにあの映像は合成じゃないですよ(笑)。
seek:スチール撮影とムービー撮影は別の日だったんですけど、スチールは梅雨入りの季節で、曜日も水曜日で、不思議と“水”にまつわることが多くて。ムービーのときは小雨が降っていたんですけど、傘をさすほどではなくいい具合にファンタジー感が出たなって。あまりに僕らの異物感があって「合成なんちゃう?」って言われたんですよ(笑)。
楠瀬タクヤ:夜更けのセンター街に行ってね。
seek:音もそうですけど、アートワークもMIMIZUQの面白さですね。
――映像の質感もノスタルジックで、昔の映画みたいです。
楠瀬タクヤ:フィルムみたいでオシャレですよね。
seek:字幕みたいに歌詞が入っていたりね。
「ちょっと帰りに映画でも見ていこうかな」っていうテンション感のバンドにしたい
――アルバム『ナミダQUARTET』全体を聴いても4人で共有したイメージがあったからこそ出来たのかなと感じました。1曲目のSE「ナミダQUARTET」からしてナミダのような水滴が朝を告げて鳥が飛び立つようなイメージの曲で。
AYA:コンセプトアルバムを作ろうって感じではなかったんですけどね。
楠瀬タクヤ:SEが効いてるんちゃいます?
AYA:水を使った音楽をずっと作ってみたかったんです。街の雑踏から洞窟を抜けて森に行くようなイメージで作りました。
seek:昨年の6月に結成してワンマンを先に発表していたので悠長に「曲作りどうする?」っていう雰囲気ではなかったんですけど、統一感があるっておっしゃってくれたことで言うと、いくつかのキーワードがあったのは大きいかもしれないですね。それぞれキャリアを積んでいるのでそんなに話さなくてもイメージの共有ができたというか。
AYA:昨年の秋にはほぼレコーディングは終わっていたんですけど、“ナミダミュージック”と“森の仲間たち”というコンセプトがライブを重ねる中で自分たちの中に浸透していったところがあるかもしれないですね。あと選曲する段階で激しい曲は省きましたね。
――先行第2弾配信シングル「ジグザグザ」のような曲だったりとか?
AYA:そうですね。ああいうライブ向けの曲もあるんですけど。

――共作している曲が多いのも新たな発見があったり、刺激になったのでは?
seek:TAMAさんが作詞している「angel song」や「VIOLET SKY」は“ナミダミュージック”という言葉がない段階で書いていただいたんですけど、雰囲気が一致していたり、自分の書いた「鎮む森に降る慈しみの雨」(第3弾配信シングル)はCメロのコーラスのスケール感や切なさをタクヤくんがアイディアを出して加えてくれたりとか。
TAMA:新人バンドなので、まだまだ伸びしろがありますが、SEからドラマティックで起承転結がありますよね。「鎮む森に降る慈しみの雨」も自分が今まで歌ったことがないタイプの曲だったし。
seek:Psycho le Cemuとも違うし、TAMAさんやタクヤくんのバンドの匂いとも違うMIMIZUQだからこその世界観が表現できた曲ですね。
――パレードっぽくもあるんだけど憂いがあって不思議な曲ですね。
seek:そうですね。具体的なイメージはなかったんですが、トライバル系だって言われて「そうなのか」って(笑)。
AYA:僕は「ジグザグザ」を作って「この曲はTAMAさんだな」って。「ギラギラした感じでお願いします」って伝えたんですけど、タイトルだけでもインパクトがあってTAMAさんやなって。期待以上でした。
――あと「東京INVADERZ」という曲はパッと最初に聴いたとき、ぶっ飛んでてTAMAさんワールドだなと思ったら、AYAさんの作詞、作曲だったり、いろいろ化学反応が生まれているんだなって。
AYA:いちばん最初に書いた曲ですね。自分も得意なパターンの曲だし、TAMAさんの声に合うかなって。予想通りでした。
TAMA:探り合いしながら作ってたね(笑)。
楠瀬タクヤ:共作でいうと僕は「NEW HOPE」という曲で歌詞を書かせていただいたんですけど、さっきTAMAさんにあんなに曲のことを褒めていただいたのに僕、まだ曲を書いていないんですよ。MIMIZUQで集まるときはいつもプレッシャーでお腹が痛いんです(笑)。みんな才能があるし、生半可なことはできないなと思ってます。

――MIMIZUQがライブで伝えたいことに通じるのかもしれないですけど、大人だからこそ描けるファンタジーですよね。それでいて少年性、透明感が感じられる世界がいいなと思いました。
全員:嬉しいですね。
AYA:透明感、少年性はTAMAさんじゃないですかね。
TAMA:いや、いや、アホですから。
楠瀬タクヤ:まるで妖精のような。
seek:僕ら、失ってますから(笑)。
楠瀬タクヤ:僕ら若い頃は目の前のことにがむしゃらでせいいっぱいだったんですけど、俯瞰できるようになった今、AYAくんのコンセプトをもとに「この曲はこうしたらどうだろう?」とか、みんなで言い合いながらこねているのが楽しいですね、泣けるバンドっていうのも今、主流になっている激しいバンドに対するカウンターカルチャーというか、「僕らはこういう球を投げたい」という確固たる意志があってのことだと思うんです。それと「ちょっと帰りに映画でも見ていこうかな」っていうテンション感のバンドにしたいって言っていて、「ちょっとMIMIZUQ見て泣いていこうかな」みたいな。
AYA:だから、なるべく座席指定の場所でライブを組んでいるんですよ。
――そういうこともあってアルバムの最後は劇の終わりを告げるような切ないバラード「Grand Guignol」で締められるんですね。
AYA:そうですね。暴れて終わるんじゃなく、ちょっとグッときて終わる。TAMAさんの儚い表現がまたいいんですよ。
TAMA:はっちゃけて「楽しかったね」で終わるのもいいんですけど、「また会えるのかな」って余韻を残して終わるっていう。その先に繋がるハッピーエンドみたいな。この曲、歌うとき、めっちゃ緊張しますけどね。
AYA:はははは。でしょうね。
TAMA:ライブは毎回、緊張感があって、もっと泣かせたいと思っています。ファンの人の目を見て伝えたいですね。
――2019年は主催イベントや1周年記念ワンマンなどMIMIZUQのライブを見る機会がさらに増えると思いますが、ライブに来た人に持ち帰ってほしい気持ちはありますか?
seek:僕らが作る非日常の物語を楽しんでいただけたら。初めての方も心配しなくても道化のAYAくんがバルーンアートを見せてくれたり、マジックを繰り広げてくれるので、視覚的にも飽きないと思います。
楠瀬タクヤ:AYAくんは後ろでドラム叩きながら見ていても面白いですからね。オルゴールの人形みたいに自力で回転しながらバルーンアートしてくれるんですけど、後ろ向いたときに必死の形相していたり(笑)。お道具箱も持っているんですが、いろんなものが飛び出してきます。
seek:道化という名の可能性のカタマリですから(笑)。
――ライブでは森の動物たちに会えるわけですね。
楠瀬タクヤ:そうですね。僕もタヌキのpocoちゃんになるのを楽しんでいるし、お客さんも動物たちを見に来てもいいし、自分も森の中のキャラクターになった気分になってもらってもいいし。
――ミミズクのTAMAさんもいつか空を飛ぶかも!?
AYA:期待されてますよ(笑)。
TAMA:はい。鳥というポジションを与えられているわけですから、いつか飛ぶでしょう(笑)。
seek:TAMAさんの心の準備ができたら(笑)。
TAMA:横に飛びます。AYAくんに負けないぞ(笑)。
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