
Aブロック:チョコプラ松尾、クロスバー直撃前野、こがけん、セルライトスパ大須賀
4人中3人がコンビ芸人となったAブロック。IKKYUならぬIKKO(チョコプラ松尾)が屏風のトラにスキンケアを施し、クロスバー直撃前野が小道具をメルカリに出品し、こがけんが80年代洋楽ロック風に「NEWS ZERO」(※他局)を歌いあげる。
序盤から気になったのは客席のリアクションだった。ファンデーションを塗った虎に悲鳴がおき、こがけんが「(このマイク)100万円もしたからなぁ〜」と言えば「え〜〜!」と驚く。前野が小道具の機能を説明すれば、まるで通販番組のような「おぉ〜」。笑い声以外の反応がどうも大きい。
その反応が一瞬静まったのが、セルライトスパ大須賀だった。赤ちゃんを抱いて登場し、「(寝ました〜)」と、ささやき声のまま一言ネタを繰り出していく。そのウィスパーボイスを聞き取ろうと集中するせいか、笑い声以外の反応が薄くなるメリットが。「ボールペンって安すぎないですか」「そこいくと下敷きって高いですよね」と、日常の虚を突く視点に笑いがおき、セルライトスパ大須賀がAブロックを通過する。
Bブロック:おいでやす小田、霜降り明星粗品、ルシファー吉岡、マツモトクラブ
ファイナリスト経験者3組に、敗者復活したマツモトクラブを加えたBブロック。マツモトクラブは5度目の決勝で、うち敗者復活が今回で4回目だ。
さっきは赤ちゃんを起こさぬようあんなに静かにしていたのに、おいでやす小田が「ロレックス重い!」と吠えまくるスタート。霜降り明星粗品が高速でフリップをめくれば、ルシファー吉岡が思春期うずまく男子校の教師を、マツモトクラブが犬を絡めた美しいストーリーを演じ、それぞれの強みをぶつけ合う。
審査結果は、おいでやす小田と霜降り明星粗品が6点で並び同点に。今回から同点は「より多くの審査員から支持された方が勝利」というルールのため、4人の審査員から点を集めた霜降り明星粗品の勝利となった。これに納得いかないのがおいでやす小田。「こんなことある!?」「ファイナルステージ行!き!た!い!」と再び吠え、「巻きが入ってるんで」と司会の宮迫博之にいさめられる。
Cブロック:だーりんず松本りんす、河邑ミク、三浦マイルド、岡野陽一
今回唯一の女性ファイナリスト・河邑ミクと、「カツラ」「薄毛」「借金あり」のおじさん3人が戦うCブロック。敗者復活を1位通過した岡野陽一は、かつて「巨匠」というコンビを組んでおり、キングオブコント決勝に2度進出したこともある。今回のネタは「鶏肉を大空に飛ばすおじさん」。色とりどりの風船に生の鶏肉をぶらさげ、「命って重いよな」と説く口ひげのおじさんに、客席は悲鳴をあげるばかりであった。
Cブロックを征したのは、だーりんず松本りんす。カツラを駆使した「見えそうで見えない」ネタは、同じ事務所のアキラ100%を思わせるフォーマット。
ファイナルステージ:セルライトスパ大須賀、霜降り明星粗品、だーりんず松本りんす
R-1だけでなく、M-1もキングオブコントも、ファイナルステージに進んだ芸人には「2本目のネタをどうするか問題」がつきまとう。1本目と同じフォーマットのネタは、ウケる保証もあるが飽きられるリスクもある。とはいえ、全く違うネタをかけるのも冒険だ。今回の3人はいずれも「1本目と同じフォーマット」を選んだ。
セルライトスパ大須賀は3頭のトラと登場し「(囲まれました〜)」とささやく。だーりんず松本りんすはカツラでまっくろくろすけを作るも「僕は好きな人ができたとき、告白が2度必要です」と小粋な台詞を忘れない。
霜降り明星粗品も、1本目と同様に高速フリップネタで臨んだ。R-1は高校生のころから出場しており、今年で9回目の出場となる粗品。昨年は和装&カルタのフリップネタで初めての決勝進出を決めたが、今年はピン芸人時代のスタイルである「パジャマ&高速フリップ」に戻している。Bブロックの出場者紹介VTRで、粗品は意気込みをこう語っていた。
「何回も落ちたり悔し思いもしたので……。
緩急をつけながら次から次へとめくられるフリップには、高校生のときに思いついたものも含まれているという。いわば自身の集大成。R-1の恨みを晴らすため、過去の全ての自分をぶつけた結果……セルライトスパ大須賀とまたもや同点に……! 再び「より多くの審査員から支持された方が勝利」のルールが発動し、5名の審査員から点を集めた霜降り明星粗品がR-1への「仕返し」を果たした。
同点に残るモヤモヤ
出場者たちのネタはどれもレベルが高く、霜降り明星粗品の優勝も文句のないもの。同点が2度起きたのも、レベルの高さによる接戦を意味するものだろう。ただ、勝敗を決めるルールには出場者にも視聴者にもモヤモヤするものが残った。

上の図は、同点が起きたBブロックとファイナルステージの得票を示したもの。今回は6名の審査員(桂文枝、関根勤、久本雅美、陣内智則、友近、渡辺正行)が、1人3点の持ち点を振り分ける形で行われている。
同点の場合は「より多くの審査員から支持されたほうが勝利」と定められていた。この場合「1点」を多く集めたものが有利となる。より評価の高い「2点」を付けた芸人が他にいるのに、「1点」のほうが通過するジレンマがある。
だが、逆に「より少ない審査員から支持されたほうが勝利」というルールでは、1人に「3点」を集中して付けた審査員の意見が強くなる。特定の審査員の意見がまかり通るのも、それはそれで納得を得がたいだろう。
実は、昨年もBブロックとCブロックで2度、同点が起きているのだが、今回ほどのモヤモヤは生じていない。当時は「視聴者投票が多いほうが勝ち」というルールだったのだ。2014年から「お茶の間d投票」がはじまり、2015年から投票結果によって「1位3点、2位2点、3位1点」を加えていた。同点の場合は、母数の大きい「テレビの前の意見」を優先することで、不満が起きにくいルールとなっていた。
この「お茶の間d投票」が今年から無くなっている。同点のルールを変えなくてはならない。決選投票をしようにも、6名では再び半々に分かれる可能性がある。かといってジャンケンで決めるわけにもいかないだろう。なにより生放送なので時間をかけたくない。なんとか一度の投票で全てを決めたい……。
それらの事情が重なり「より多くの審査員から支持されたほうが勝利」が生まれたのではないだろうか。他の案を考えてみたが、思いつくのは「審査員7名の決選投票を行う」「決勝進出時に順位をつけ、同点の際は上位のものを優先する」くらいで、どれも一長一短ある。
難しい。難しいのだけれども、最高に面白いネタを見せてくれた芸人たちに、わだかまりが残らないよう、ルールを整えてもらえたらと切に願う。
(井上マサキ)