
気弱な青年とおっさんボイスのピカチュウ、巨大な陰謀に挑む
田舎に住む保険査定員の青年ティムは、長らく会っていない父で探偵であるハリーの訃報を受け取る。父の同僚だったというヨシダ警部補に面会し遺品を整理するため、人間とポケモンが共存する街であるライムシティへと向かうティム。ヨシダ警部補はハリーの死因が交通事故だったことをティムに告げる。
かつてポケモンが大好きな少年だったティム。しかし母が亡くなったにも関わらずポケモンが関係する事件の捜査に出て行って戻らなかった父との確執から、ポケモンのことを避けるようになっていた。ハリーの部屋で遺品を整理するティム。しかし、父の部屋には謎のガスが閉じ込められたアンプルがあり、さらに部屋の中にはティムにしか聞こえない人語を話し、自分が探偵だと言い張る記憶喪失のピカチュウがいた!
ピカチュウは、かつてハリーの相棒だったと話す。「ハリーはまだ生きている」と言い張るピカチュウに、ハリーの机にあったポケモンを凶暴化させる謎のガス。さらにライムシティにまつわる事件を追う駆け出しのジャーナリストであるルーシーや、街の権力者であるクリフォード親子も絡み、ティムはピカチュウと共にハリーの死にまつわる謎を追うことになる。
おれは年齢的には小学生の頃にポケモンの赤緑が直撃した世代である。それ以降積極的に各タイトルをプレイしているわけではないが、『名探偵ピカチュウ』はそんなおっさんにも優しい作り。ピカチュウはもとより、劇中に登場するポケモンは初期シリーズのものが多く、150匹からさらに数が増えて以降のポケモンはそんなにたくさんは登場しない。
これに関して言えば完全に福利厚生、かつてのキッズたちも見に来てくれよな、という意思表示に他ならないだろう。
というわけで『名探偵ピカチュウ』に関して言えば、「そういえば昔ちょっとポケモンやってたな……」という程度のヌルい人が見に行っても大丈夫。細かいところは微妙に気にはなるけれど、基本的にはストーリーもしっかりしており、なによりピカチュウは文句なくかわいいし、ポケモン関係の小ネタも山盛り。良質なファミリームービーと言っていいだろう。
「ポケモンを実写にする」という仕事に、真面目に向き合う
実のところ、「おっさんの声で喋るピカチュウ」というアイデア自体は2016年に発売されたニンテンドー3DS用ゲーム『名探偵ピカチュウ 〜新コンビ誕生〜』ですでに存在している。というかそもそも、映画『名探偵ピカチュウ』の直接的な原作と言えるのはこのゲームであり、ストーリーも近い。
とは言え、映画『名探偵ピカチュウ』の大きな特徴はピカチュウがライアン・レイノルズの声で喋ることではなく、「ポケモンと人間が共存している世界を実写化する」というアイデアに真面目に向き合ったことにあると思う。というのも、この映画に出てくるガジェットは携帯電話から車に至るまで、だいたい全部作り起こしなのである。細かい小道具まで新しくデザインが起こされているのには、けっこうびっくりした。
建物から携帯まで全部統合したデザインが起こされているので、ライムシティの景観を見たときには「どこかで見たことがあるけど、よく見ると全然見たことがない」という気持ちになる。
つまりこの映画では、「みんながよく知っている国際的人気キャラクターの異生物」を実写の景観に溶け込ませるため、ランドスケープの方を慎重にデザインするという作業が行われているのだ。実写のビジュアルに合わせてポケモン側のデザインも細かく調整されている(カビゴンのあのモサモサ感!)が、なんせポケモンの方は弄ることができる範囲が限られている。だから逆に街の方をポケモンに合わせるべく、看板ひとつひとつに至るまで製作サイドの手が入っているのである。
実写のポケモンを映画にするという作業にあたって、「キャラクターを存在させるために全要素が調整された街をひとつ丸ごと用意する」という手法は、極めて真面目なものだろう。この真面目なプロセスが、『名探偵ピカチュウ』を他の実写化作品から頭ひとつ抜けた存在にしたと言っていい。ピカチュウに生えている毛の一本一本から高層ビルに至るまで、粘り強く作り込まれた世界そのものこそが、『名探偵ピカチュウ』の大きな見所なのである。
(しげる)
【作品データ】
「名探偵ピカチュウ」公式サイト
監督 ロブ・レターマン
出演 ライアン・レイノルズ ジャスティス・スミス キャスリン・ニュートン 渡辺謙 ほか
5月3日より全国ロードショー
STORY
舞台は人とポケモンが共存している世界。父ハリーの死を知らされ、大都市ライムシティにやってきた青年ティムは、なぜか人間の言葉を話すことができるピカチュウと知り合い、巨大な陰謀の謎を解くことになる