倉本聰・脚本「やすらぎの刻~道」(テレビ朝日系・月~金11時30分~)第5週。

根来公平(風間俊介)たちが住む山梨の集落にも戦争の影が忍び寄ってきた。


女郎屋に売られていった荒木りん(豊嶋花)。父親の死。養蚕業の終焉。次男・公次(宮田俊哉)の海軍への入隊。集落の仲間たちも「満蒙開拓団」に参加して満州に渡る者、村に残る者とで分裂する。
「やすらぎの刻」戦争の影迫る中、おっぱいのサイズで大コーフンするボンクラ男子たち第5週
イラストと文/北村ヂン

覚悟のヌードデッサン


Kis-My-Ft2をキャスティングしておきながら、これまでほとんどセリフもなしと、かなりジャニーズの無駄遣い感があふれていた根来公次役。ここにきて光る見せ場が。

父親が亡くなり、長男・公一(佐藤祐基)は家族と畑を守る家長に。次男の公次は、兄とは違った形での「家族の守り方」を考え、海軍に入隊することを決めた。

美術学校に入って絵描きになるのが夢だったものの「夢はあきらめた」と、すねた態度を取っている三男・三平(風間晋之介)に思いを明かす。

「三平、俺はもうじき軍隊に入るよ。海軍だ。航空隊に応募した」
「国を守るってことは、家族を守るってことだ。
母ちゃんや公平やしのや信子たちを体を張って守らにゃいかん。そのための覚悟だけはそろそろしとけ」

何かをあきらめたような、覚悟を決めたような口調。マイルドな声質ながら力強い。

宮田くんって、「ジャニーズなのにラブライバー」だということくらいしか知らず、演技は見たことがなかったのだが、スゴくいい役者だ。

そんな公次から「覚悟」を迫られ、三平の気持ちにも変化があったようだ。

しのの絵を描きながら、将来を語る。

「何考えてるの?」

「お前のことさ。今から10年後、5年後でもいいや、お前がどうなっているんだろうってな」
「(その頃)オレは徴兵検査を受けて、もしかしたらこの世にもういないかも知れない」

相手の10年後、5年後のことを考えるって、そんなのもう愛の告白だ。それと同時に、徴兵されて死ぬかも知れない自分の将来にも思いを馳せる。

三平はしのに、ヌードを描かせて欲しいと頼む。絵描きになりたいという思いを吹っ切るため、覚悟のヌードデッサンなのかも知れない。

今週は、三平役の風間晋之介もスゴイ存在感を放っていた。


調べたところ、なんと風間晋之介、もともとはバイクのダカール・ラリーを完走したこともあるライダーで、俳優としては本作が本格デビュー作なのだ。

セリフ回しには拙さを感じる部分もあるが、圧倒的な存在感は、修羅場をくぐってきた人間ならではか。

「特高の意地悪さ」に酔いしれるクズ過ぎる公平


三平にとっては覚悟のヌードデッサンでも、アホ男子にとっては「エロ」。

しのの裸が公平の幼なじみ・ニキビ(関口アナン)&ハゲ(両角周)に目撃されてしまう。

「しのちゃんだぁ~! 裸だぁ~! 何も着てねえ~!」

女の裸を見て鼻血を流すという、近年ではなかなかお目にかかれない昭和の演出。サイコーだ。

明くる日には、この事件がバカ男子たちの話題の中心に。しののおっぱいサイズが桃だのカボチャだのスイカだのと、みんなで大コーフン。

三平に対する嫉妬に狂った公平は、このことを公一と母親にチクり、三平としのがふたりで会うことは禁止に。公平が監視役に任ぜられる。

公一や母親に怒られる三平を見ながら嬉しそうな顔を浮かべ、監視役として嫌がらせをしながら「特高の意地悪さをちょっと楽しんだ」とは、主人公と思えないクズっぷりだ。

しかし公平は、意地悪く三平としのを監視する中で、「ふたりが好き合っている」ということに気付いてしまう。

将来、公平としのが結婚するのは既定路線だが、今のところ、しのが公平に惚れる要素がまったく見当たらない。


戦時中は、戦死した兄の嫁が、代わりに弟と再婚なんていうことも珍しくなかったようだが、そのパターンじゃないだろうな……。さすがに公平が情けなさ過ぎる。

みんなの「原風景」が変わっていく


戦時色が濃厚になり、シリアスさを増すドラマにおいて、おっぱい事件はホッとさせられるエピソードだった。

しかし、おっぱいのサイズで大コーフンしていたバカ男子たちも、「原風景」である村を捨てることになる「満蒙開拓団」へ参加する・しない問題では、涙を流していた。

ニキビが語る。

「故郷は、景色やニオイや音や、みんなが持っている心の中の記憶だろうがって、オヤジ言ったんだ。それと離れるのはつらいことだぞって」
「オレ、涙が出た。涙がお前、目の前にピュッて、水鉄砲みたいに飛んだんだ」

悲しみの度合いを表現するのに「涙が水鉄砲みたいに飛んだ」とは倉本聰ならではのスゴイ表現だ。

その直後に、

「バラバラになったって友達は友達よ。そうだろ、なあ青っ洟、ハゲ!」

と言われてズコーッとなったけど。シリアスな場面を台なしにするネーミング!

国策で満州への移民を推し進める中、いわゆる「バスに乗り遅れるな」運動に翻弄される庶民たち。

娘・りんを女郎屋に売ったクズな父親・荒木(須森隆文)が、移民団を推進するお偉いさんの腰巾着をしながら、決して自分は参加しようとしないあたり、イヤな予感しかない。


みんなの「原風景」であった集落・小野が沢が変わっていく。
(イラストと文/北村ヂン)

【配信サイト】
Tver

『やすらぎの刻~道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日
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