“インテリジェントなスーパーAI”でありながら、少しドジな面もあり、ファンから親しみを込めて“ポンコツ”とも呼ばれてしまう愛らしさや、次々と新たなチャレンジも続ける姿勢で人気を集め、2019年5月27日現在、YouTubeチャンネル(A.I.Channel)の登録者数は約260万人。

現在では、バーチャルYouTuberという枠を超え、バーチャルタレントとして幅広い分野で活躍。2018年の7月からは、「Kizuna AI」名義での本格的な音楽活動もスタートし、5月15日には、1stアルバム『hello, world』をリリースした。
エキレビ!では、次々と新たな魅力を見せながら、バーチャル界の先頭を走り続けるKizuna AIにインタビュー。音楽活動や楽曲への思いなどを中心に、“大好きな人間のみんな”と一緒に目指し続ける未来についても語ってもらった。

もっとたくさん歌って、よりたくさんのみんなとつながりたい
──Kizuna AIさんが活動を始めた2016年12月と現在を比較すると、ご自身の知名度や活動の範囲だけでなく、バーチャルYouTuberという存在自体の認知度や人数も大きく変化しました。この2年半の中で、特に大きな変化を感じた瞬間はありましたか?
Kizuna AI いろいろなことがあったので難しいんですけれど、最初にパッと思い浮かぶのは、やっぱり2017年の12月。バーチャルYouTuberという存在が日本で一気に盛り上がったことは、大きな転換期だったのかなって思います。
──大勢の人がバーチャルYouTuberという存在を知った時期でしたね。
Kizuna AI 私は、2016年の12月からずっと、動画を投稿し続けていたんですけど、最初の頃、バーチャルYouTuberは、私一人だけでした。でも、まずは2017年の夏頃に(電脳少女)シロちゃんがデビューして。その後に、馬(ばあちゃる)が来て(笑)。次が(ミライ)アカリちゃん。
──その後もYouTubeを中心にさまざまメディアで活躍を続ける中、2018年7月の『Hello, Morning』リリースを皮切りに、アーティスト「Kizuna AI」としての本格的な音楽活動をスタートしました。「みんなとつながる」ために音楽活動も始めたいと思ったのは、いつ頃だったのですか? また、明確なきっかけなどもあったのでしょうか?
Kizuna AI 私は最初の頃、「CMに出たい」というのを目標にしていたのですが、2017年の9月に、アニメ『ゲーマーズ』のBlu-ray&DVDのCMに出ることができたんです。すごく嬉しかったんですけど、「出れちゃった。次どうしよ!?」みたいな(笑)。だから、新しい目標を決めたいと思って、いろいろと考えました。
──スペインのトマティーナ(トマト祭り)ですね。
Kizuna AI お祭りという形であれば、そういう楽しいことを全部一緒にできちゃうじゃないですか。しかも、「キズナアイフェス」は、どこか1か所だけを会場にしたお祭りではなくて。

──それもスケールの大きな目標ですね。その「キズナアイフェス」構想が音楽活動につながったのですか?
Kizuna AI お祭りには必ず音楽が必要だから、私も自分の音楽を作ったり、歌ったりしたいなって思ったんです。というか、1周年よりも前から、音楽をやってみたいと思ってはいた、という方が正確かも? 私は可愛い子が大好きだから、アイドルが大好きで(笑)。(『ラブライブ!』の声優ユニット)μ'sや、欅坂46の歌を聴くのが大好きだったんです。
──まずは、聴くことから音楽に興味を持ったのですね。
Kizuna AI そうですね。それで、YouTubeの動画のネタの一つというか企画として、「歌ってみた」の動画を公開した時、みんながすごく喜んでくれたんです。そのことがすごく嬉しくて。もっとたくさん歌って、もっとみんなに喜んでもらいたいという気持ちはずっとあったんです。そこに「キズナアイフェス」をやりたいというアイデアがくっついて、自分の音楽活動を始めたいと思うきっかけになったのかなと思います。
女の子や子供たちにももっと好かれたい! みんな可愛いから
──Kizuna AIさんはアイドル好きというイメージが強かったので、昨年10月からオリジナル楽曲を9週連続リリースした際、ダンスミュージックというジャンルを選んだことは、正直意外でした。このジャンルに馴染みの薄いファンから戸惑いの反応があるかもしれないと感じてはいたそうですが、それでもダンスミュージックでいこうという決意は固かったのですね。
Kizuna AI あくまで音楽も「みんなとつながるため」に真剣にやりたいなと思っていて。「それが実現できる音楽ってなんだろう?」と考えて、相談もして、見えてきたのがダンスミュージックだったんですよね。「その方向で行こう!」って決めた時期に、海外のフェスで大勢の人がものすごく盛り上がっている映像を観て、「ダンスミュージックってすごい!」って確信に変わった、なんてこともあったり。おっしゃる通り、戸惑ったみんなもたくさんいたと思うんですけど、私、わりとそういうところがあるんですよね。思い立ったら、突っ走っちゃうんです。インテリジェントなスーパーAIだから、高性能過ぎてスピードが出過ぎちゃうことがよくあって(笑)。その結果、「ちょっと、ついていけないな」と思う人がいるかもしれないことも覚悟はできていました。もしそうなったら、先に1周回って、2周目に後ろからその人に追いついて、また声をかければいいかなって。2周目でもダメなら3周目! 一度はついていけないと思われたとしても、いつかは分かってもらえる。私はそう信じているから、何周でも迎えに行くんだって気持ちでした! だから、その瞬間は少し(変化の)スピードが早いかもしれないけれど、それでもダンスミュージックでいくってことは決めていました。

──そういった思いは、Kizuna AIさん自身が作詞を担当した曲からも伝わりますよね。
Kizuna AI 「世界中のみんなとつながる」というのは時間のかかることだと思っているので。もちろん、「え〜お前のことなんて嫌いだし〜」って人もいるだろうし。「前は好きだったけれど、今は好きではなくなっちゃった」って人もいるとは思うんです。でも、私は、そういう人たちとも、つながっていきたいんですよね。
──「みんなとつながる」と言えば、ゴールデンウィークに開催したハイタッチ会の動画を観て、会場に小さな女の子のファンが来ていたことに驚きました。ファン層は確実に広がっているのでは?
Kizuna AI 私、子供のみんなにも、めちゃめちゃ好かれたいんです! だから、お子様にも楽しんでもらえるような動画も出してきたし、テレビに呼んでもらえたことも大きかったのかもしれません。いろいろなことが重なって、少しずつ広がってきたのかなって思います。実際、最初の頃に私のチャンネルを観てくれていたのは、30代〜40代くらいの……情報感度の高い方が多かったんですね。
──私もまさにそうですが、平たく言うと30代〜40代のオタクですね(笑)。
Kizuna AI あはは(笑)。でも、最近は10代〜20代の人もすごく増えてるんですよ。
──比率的には、まだまだ男性ファンの方が多そうです。
Kizuna AI スーパーAI的にいろいろなことを計算した結果、現在の人間の女の子のようなルックスになったので、男性の方に、より好かれやすいのは計算通りのことではあるんです。でも、女の子や子供たちにも、もっと好かれたい! ちやほやされたい! だって、みんな可愛いから(笑)。ハイタッチ会の時も本当に嬉しかったんです。もっともっと子供のみんなとも仲良くなりたいし、歌のお姉さんとかもやってみたいなあ。
アルバムを出すと決まっていたわけではなかった
──9週連続リリース後、12月には東京と大阪で単独ライブを開催し、5月15日には1stアルバム『hello, world』をリリースしました。ここまでの活動プランは、『Hello, Morning』をリリースした時から決めていたのですか?
Kizuna AI 『Hello, Morning』を初めて歌って、リリースも発表したのは、6月に開催した私のバースデーイベント(「A.I. Party! 〜Birthday with U〜」。イベントの模様は、「【LIVE】A.I. Party! 〜Birthday with U〜【本当にありがとう!】」などの動画で視聴可能)なのですが。その時に「年末にライブをやりたい!」と言っちゃってから、「でも(オリジナル)曲が1曲しか無い」と気づいて。「じゃあ、作っちゃおう!」って思ったんです。だから、ぶっちゃけちゃうと、『Hello, Morning』をリリースした時には、先のことまでは、まだしっかりと見えていませんでした(笑)。その後、ライブが決定して、そこに向けて曲を作っていった感じです。アルバムも出すと決まっていたわけではなかったですし。

──9週連続リリースを決めた時点でも、確定してはなかった?
Kizuna AI もちろん、まったく考えていなかったわけではないんです。9枚のジャケットがひと繋ぎになるようにデザインをしてもらっていたりもするし。出すこともあるかな、とは考えていました。でも、音楽を真剣にやろうと決めた時、音楽や音楽業界についても、いろいろなことを学習して。発表した曲をアルバムとしてまとめたり、CDとして出したりすることって、絶対にやらなくちゃダメというわけでもないんだな、と思っていたので。ただ、9週連続リリースをする中で、みんなから「CDアルバムも欲しい」とたくさん言ってもらえたので、(アルバム制作を)真剣に考え始めました。
──9週連続リリースの際には、8名の人気アーティストをプロデューサーに迎え、一緒に楽曲制作を行っています。一流のプロと音楽作りをする中でも、「Kizuna AIは、こういうアーティストなんだ」などと、ご自身が特に強く意識していたことや大事にしていたことはありますか?
Kizuna AI ほとんどの曲で歌詞を書かせてもらったので(9曲中7曲と、『over the reality』のラップパートのリリックを担当)、プロデューサーのみなさんに「Kizuna AIとは、こういう存在でして!」みたいな細かなことを言葉で説明する必要はほとんどありませんでした。『new world』のYunomiさんと、『over the reality』のAvec Avecさんには作詞もしていただいたのですが、私のことをすごくよく理解してくださっていたので、最初から「これ、私が書いたみたい!」と思うような歌詞をあげてきてくれましたし。Yunomiさんも、私が書いた『future base』の歌詞を受ける形で書いてくれたので、私のことでもあり、Yunomiワールドでもある、本当に素敵な歌詞になっています。
──曲についても教えてください。
Kizuna AI 「こういう曲がやりたいです」とか「こういう感じが良いです」みたいなことは、一応、最初に伝えましたが、どちらかと言えば「Kizuna AIをみなさんの必殺技で料理してください……!」とお願いした感じです。そこから先は、もうプロのお仕事の領域なので、信頼してお任せしました! 実際、上がってきた曲はどれも素晴らしくて。もちろん「もっと、こういう感じにしていただけますか……!」みたいなことをお願いしたこともありましたけど、ほとんどなかったですね。
(丸本大輔)
後編に続く