お付きの中川玉子(いしだあゆみ)との手慣れすぎている連係プレーで万引きを繰り返していたかつての大女優・桂木怜子(大空眞弓)。
遂にふたり揃って捕まってしまった上に、万引きGメン(でんでん)が、かつての知り合いだったというヒリヒリする展開。
「どうなっちゃうんだー!」とドキドキしながら今週の放送を待っていたが、わりと不完全燃焼のまま終わってしまった。
万引きしたものでも、人の喜ぶ顔を見るのがうれしい!?
「万引き犯を捕まえることに命を賭けてる!」みたいな顔をしていた万引きGメンだが、桂木夫人が昔の知り合いだと分かったとたん、
「(防犯カメラに写っているのは)アナタが商品をご自分のカゴに入れるところだけで、持ち出したという証拠はありません」
なんて言い出して桂木夫人を逃がしてしまった。
かつての大女優だと気付いた万引きGメンが脅迫してくるとか、もっとドロドロした展開を期待していたのに……!
桂木夫人の万引き癖は、菊村栄(石坂浩二)がかつて書いたセリフに影響されてのものだったということも明かされた。
「人は周りに何かされるのと、周りに何かをして喜ばれるのと、どちらが生きがいかって言われたら、それはあとの方だ」
この言葉から、
「(万引きした)100円ショップのつまらないものでも、人の喜ぶ顔を見るのがうれしい!」
と思考が展開して、万引きを繰り返していたらしい(メチャクチャ!)。
それにしても、「人の喜ぶ顔を見たい」というハートフルな感情と、「上手いこと万引きを隠蔽し、疑ってきた店員たちに土下座をさせたい」という邪悪な感情が同居しているとは……人間って恐ろしい。
自分の書いたセリフに影響されて犯罪が行われていたなんて、脚本家にとっては迷惑以外の何でもないと思うが、菊村はすっかり忘れていたこのセリフから、自分が「道」のシナリオを書く「理由」を見いだす。
「ここに一緒に暮らす老いた戦友たちのために、私にはもはや彼らを再び世に送り出す力はないが、せめて私の脳の中のドラマで、彼らに素敵な役を書いてやろう!」
脳内で素敵な役をもらっても、あまりうれしくないと思うが……。とにかく菊村は再び「道」の執筆に没頭する。
アホ VS 愛国夫人
さて、久々の「道」パート。
太平洋戦争がはじまった1941年末から1942年の正月にかけて、世間が戦時体制に組み込まれていくのにともなって、様々なものの「変化」が描かれた。
村の互助組織は、結組から隣組に。かつて森の主だった熊のフミコは居場所をなくした。男たちは軍事教練にかり出され、女たちは薙刀の訓練に。
情けないばかりだった根来公平(風間俊介)もだいぶ変わり、大人びた表情に。この辺は、演じ分けている風間くんがスゴイ!
そんな中、もっとも印象的な変化を見せたのが根来家の末っ子・幸子(木下愛華)だ。
兄弟の男連中がみんなしのちゃんに心奪われており、これまでほぼ存在感のなかった幸子だが、ここに来て個性を爆発。
一度耳にした流行歌は最後まで完璧に覚えてしまうという特殊能力を身につけたようで、四六時中歌を歌うキャラとして存在感を発揮していた。
どこで覚えてきたのか「愛国行進曲」の替え歌で「○○のハゲ頭~」と高らかに歌う。家族みんなから「やめろー!」と途中で止められていたが、「見よ東條(英機)のハゲ頭」というフレーズが入ってくる、なかなかの不謹慎ソングなのだ。
また、「醤油を一気飲みすると、尿検査で腎臓病の症状が出て徴兵を逃れられる」という情報を聞いて、兄・三平(風間晋之介)のために、素直に町まで行って醤油を買ってくるピュアなアホさもかわいらしい。
「三平兄ちゃん、死んだらイヤだもん!」
泣きながら訴える幸子に対し、
「お国のために命捨てることは、私たちにとって当たり前のことじゃないの!」
とブチ切れる、愛国思想に取り憑かれたしの。
かつてはただのアホキャラだったしのが、戦時色が強くなるにつれ、愛国ネトウヨキャラに変貌してしまった代わりに、幸子がアホの才能を開花してポジションを確立したようだ。
さらに、
「最近とみに胸がデカくなり、それにともなって声も大きくなって……」
とのこと。しのちゃんはともかく、実の妹のどこを観察しているのだ、公平よ!

醤油瓶から徴兵を思う
どんどん極端な愛国夫人と化していくしのちゃんに対し、公平や三平たちは一歩引いていた。
「僕ら男には、目の前に現実の徴兵検査や、召集令状や、軍靴の音や、アメリカの兵隊や、殺し合いの戦場が、すぐ目の前に想像できたから臆病にならざるを得なかったのだ」
いつの時代も「愛国愛国」言っているのは、自分は戦場に行かないと思っている無責任な人たちなのだ。
「お国のため、ただちに命を投げ出す覚悟のある者、一歩前へ!」という憲兵の号令に対し、「死ぬのが怖いからであります!」なんて直球で答え、素直に「臆病さ」を見せていた三平だったが、じょじょに「いずれ徴兵されるであろう、自らの運命」を受け入れているような表情に変化していた。
正月に友達が根来家を訪れた時、嬉しそうな、悲しそうな表情を浮かべていた三平。兄・公次(宮田俊哉)が海軍に入隊する前の表情とそっくりだった。
最後の、「幸子の買ってきたたまり醤油は、翌日から少しずつほうとうのだし汁に使われた」というナレーションから、徴兵から逃れられない三平の運命を感じて切なくなってしまった。
醤油の瓶から徴兵の運命を喚起させる倉本聰の筆力……すさまじい!
(イラストと文/北村ヂン)
【配信サイト】
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『やすらぎの刻~道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日