上司を追及したせいで本社から工場に異動
大手自動車メーカー「トキワ自動車」本社に勤務していた主人公・君嶋隼人(大泉)は、上司である常務の滝川桂一郎(上川隆也)が商事会社による買収を画策したのに対し、真っ向から異を唱える。このあと君島の提出した報告書にもとづき、買収は社長の島本博(西郷輝彦)により否決されるも、当の君島は本社から飛ばされ、府中工場に総務部長として赴任する。
府中工場では、総務部員の佐倉多英(笹本玲奈)や工場総務部長の吉原欣二(村田雄浩)をはじめ社員総出で君嶋を迎え、さらにラグビーチーム「アストロズ」の選手たちが登場し、キャプテンの挨拶を受け、胴上げまでされた。これほどまでに歓迎されたのは、同工場の総務部長はアストロズのゼネラルマネージャー(GM)を兼務するのが慣例であったからだ。佐倉と吉原も、それぞれアストロズのアナリストと前GMだった。
しかし、君嶋はアストロズを廃部にするつもりでいた。それは滝川の意向でもあり、これに従えば、本社にすぐ復帰できるのではという目算もあった。アストロズの部員たちからの要求も冷たくあしらう君嶋に対し、チーム内では不満が高まる。そんななかで、君嶋は部員たちの動向をチェックし続けていた。部員のなかには、上司からラグビー部が会社のお荷物になっている点を突かれ、残業やミスを押しつけられている者もあった。そうした現状に気づきながら、本社へ「ラグビー部は廃部が妥当」とした意見書を提出しようとする。
その本社では、滝川が水面下で動いて買収案件が再浮上していた。君嶋は滝川に直接会って確かめると、さらに衝撃の事実を突きつけられる。何と、たとえアストロズ廃部の意見書を出しても本社には戻れないというのだ。
負け犬部員たちを相手に君嶋が大演説
翌日、府中工場には、君嶋がアストロズ廃部の意見書を出したとの情報が伝わっていた。部員たちに説明を求められた彼は、今年度の予算をゼロとする意見書を見せ、集中砲火を浴びる。だが、君嶋は逆に、部員たちが国内トップリーグである「プラチナリーグ」での優勝をめざすと口にしながら、本音では、優勝など夢のまた夢、リーグに残留さえすれば万々歳と思っているのではないかと痛いところを突き、反撃する。そんな負け犬根性でいるから、ほかの社員からナメられるのだとまで言われ、部員たちはすっかり黙り込んでしまう。
それでも君嶋は演説を続け、選手たちに、まずどん底にいることを自覚したうえで、あとは上だけを見ろと訴えかける。上とはもちろん、リーグ優勝だ。
「プラチナリーグで優勝するんだ。それならば、誰も文句は言わない。誰だって価値がわかる。このチームはきっと勝ってくれる、そんな期待を抱かせるチームだったら客は見に来る。
ここまで聴いて、キャプテンの岸和田徹(高橋光臣)が、君嶋はアストロズの廃部の意向を撤回したことを察する。岸和田が訊くと、君嶋は次のように打ち明けた。
「私はアストロズを廃部にしようと思っていた、きのうの夜、君たちにコテンパンにされるまではな。私は死んだんだ。本社から追い出されて、ここに送られてきた時点でサラリーマンとしての私は死んだ。もうどうでもいいと思っていた。だが、きのうの夜、土砂降りの雨のなかで何度も何度も地面に叩きつけられながら思ったんだ。このまま終わるのはいやだ……」「私と同じくどん底にあえぐ君たちと一緒に戦いたいと思ったんだ」
「私はラグビーの素人だが、経営戦略のプロだ。私と君たちがしっかりと手を組めば、きっと勝機がある。ラグビーボールと同じだ。
そう言うと、君嶋は選手たちの覚悟を問うが、彼らは黙ったままだ。君嶋がその場を立ち去ったところで、ようやく浜畑が「俺はこのチームを優勝したい」と声を上げる。選手たちはここで覚悟を決めると、グラウンドにあおむけになっていた君嶋の前に現れ、さっそく優勝をめざし練習を始めたのだった。
そのころ、もう一つの意見書が役員会議に提出され、社長の一言でアストロズはもう1年様子を見ることになった。さらに君嶋の知らないところで、ニュージーランドでは松葉づえをついた青年が、何かを得て晴れやかな表情で日本に戻ろうとしていた。他方、社会人ラグビーチームの強豪「サイクロンズ」の監督だった柴門琢磨(大谷亮平)が突如として解任される。
ラグビーへの恨みは学生時代の失恋が原因!?
こうして初回を振り返ってみると、企業買収や本社からの左遷など、「ノーサイド・ゲーム」に出てくるできごとは、これまで日曜劇場の企業物ではおなじみのものが多い。企業内でリストラ対象となっていたスポーツチームの再建を、経営戦略のプロが託されるというストーリーも、同じく池井戸潤原作の「ルーズヴェルト・ゲーム」(2014年)ですでに試みられている。それだけに、今回の「ノーサイド・ゲーム」には、過去作の二番煎じになってしまわないか、やや懸念していた。その懸念は初回を見たかぎりでは、正直にいえば完全に払拭されたわけではないが、しかし、いくつか新しい要素も見出せた。
たとえば、これまでの日曜劇場の企業物では、主人公の妻が夫の仕事に口を出すことはほとんどなかったはずだが、君嶋の妻・真希(松たか子)はそれをためらわない点で異色といえる。彼女は、府中工場に異動となった君嶋に対し、宿敵である滝川に取り入って本社に戻してもらえばいいのではないかと提案してしまうあたり、夫の尻を叩くタイプといってもいいだろう。また君嶋も君嶋でそれに乗るかのように、アストロズは廃部が妥当とする意見書を出して、滝川に取り入ろうとするも失敗に終わるのだが。ちなみに松たか子は、この一つ前に出演した連続ドラマ「カルテット」でも、漢字こそ違うがマキ(真紀)という役名だったが、これは偶然なのか意図的なものなのか!?
幼い息子たちの父親としての側面が強調されたのも、日曜劇場ではここしばらく見ない光景だった。長男の博人(市川右近=市川右團次の息子が演じている)が、友達にサッカーボールを壊されて帰ってきたときには、警察に通報すると息巻く真希に対し、君嶋は、最近になってラグビーをやりたいと言い出した博人が自分の力で戦おうとしたことを察知する。だが、彼は息子に対し、ラグビーとは喧嘩ではなく、正々堂々と戦ったあとには相手と握手するスポーツなのだと、その精神を説いて聞かせる。
このドラマで注目すべきは、やはり何と言っても、大泉洋演じる君嶋隼人というキャラクターに尽きる。いかにも文化系という雰囲気で、スポーツを苦手とする。そんな君嶋が屈強な男たち相手にタックルをかましてコテンパンにやられる一方で、チーム分析では彼のほうがはるかに上手であった。選手たちの痛いところを突きながらも、鼓舞する長ゼリフは、圧巻だった。
大泉がGMになるまでラグビーを敵視していた理由が、大学時代に好きだった女子学生を、同じ大学のラグビー部のスター選手に取られてしまったからというのも面白い。これまた文化系らしいルサンチマンだが、そのスター選手こそ、先ごろサイクロンズ監督を解任された柴門であった。かつての恋敵に対し、君嶋がどんな対応を見せるのか、楽しみだ。(近藤正高)